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第二回 ある日

テーマ:手癖

禁則事項:登場人物の名前の記載禁止

 ただ、只管に手を動かす。その行為をすることに関しては、何も考えない。手に持ったシャープペンシルは規則正しい音をたて、黒鉛でできたその芯を僅かに削っていく。真っ白いノートの上をそれが滑った後には、道のような黒い筋が残った。そうして描かれた線は二度、三度と重ねられ、段々とその色を濃くしていく。何度も、何度も、まるで芯を削ることを第一の目的としているかのように、無造作に、無意識に黒い線は増えてく。

 染み一つない白を、黒が蹂躙していく様子を、それを描いている私は焦点の合わない目で眺めている。

 お腹空いたな、最近寒いな。なんていう脈絡のないことを取り留めもなく思いながらも、ペンを持つ手は止まらない。

「何書いてるの?」

 突然横から声を掛けられて、私は現実に引き戻された。いつの間にか休み時間になっていたようだ。それなのに、授業の内容を書き取るためのノートにはよくわからない落書きがあるだけで、あとは真っ白だ。

 え? と聞き返しながらも、今の状況を把握出来ていない私の脳みそは、質問に対する答えを探し出そうと高速回転した。それまで一秒たりとも止まらなかった手を止めて、そのヒントが数秒前まで描いていたものにないかと自分の絵を凝視していた。けれど、そこにあるものは、当然のように完成には程遠い代物だった。それを見たところで私がさっきまで何を描こうとしていたのかが全く思い浮かばない。

「うんとね、出来てからのお楽しみ?」

 そう言って、私は音をたててノートを閉じた。

「何で疑問形なのよ。自分が描いてるんでしょう」

 顔を上げるとショートカットの少女が正面にいた。このクラスでは仲の良い部類に入る友人は私の筆箱を漁りながら言った。

 そうは言われても、何を意識して描いているわけではない。逆に、何も考えていない分、一度意識してしまうと書けなくなることが常だ。「お楽しみ」なんて言ったものの、どうせこれ以上は書けないだろう。気が付くと何か描いているくせに、気を付けてしまえば何も描けなくなる。

「ていうか、昨日見たテレビにさ——」

 彼女の他愛のない世間話に私は笑って相槌を打ちながらも、話の内容は殆ど聞いていなかった。その声は休み時間の教室特有の喧騒に負けじと声を出す友人を、私はただぼうっと眺めていた。

 他人に意見を求めずに、自分の話しだけをする彼女が苦手だというクラスメイトは多い。けれど、私はとても楽しそうに話し掛けてくるこの少女を見ているのが好きだ。私は自分のことを話すのが苦手で、大抵の話題にはそれほど興味がない。だから、一方的に話し掛けてくるだけで、特に会話を求めないこの友人といるのは気が楽なのだ。

 チャイムが鳴って、彼女が自分の席に戻るのを少し名残惜しく思いながら、私は十分前に閉じたノートをまた開いた。


 結局、私は教師の話をまるで聞かずに、絵を描いて授業時間を過ごした。こんなことだから、テストで赤点を量産するのだとは思うものの、数秒も経ってしまえばそんなことは頭から抜け落ちる。

 休み時間になる度に私に話をしにくる友人は、終礼が終わるとやっぱり一目散に私のところに来た。

「今日、ちょっと急ぐんだけど」

 早く帰ろう、と当然のように言外に言ってくる友人を見て、彼女の隣には私のいるべき場所があるのだと確認し、私は何故だかものすごく安心した。何に不安を感じたこともなかったのに。

 早く、早く、と彼女にせかされるままに、私は鞄に乱暴に荷物を詰めて席を立った。

 友人は私の横に張り付くようにして歩きながら、話しはじめる。今人気のテレビやオシャレの話、塾や学校の誰先生が嫌いだとか好きだとか、勉強がわからないとか、テストの結果がどうだったとか。彼女には話したいことが山のようにあるのだろう。話にまとまりがないのはともかく、とにかくよく話が飛ぶためにまともに聞いていてもまったく頭がついていけない。だから私は彼女の話を七割くらい聞き流しているけれど、彼女も大抵は話したいだけなようでそんな私の態度に文句を言ってきたことはない。

 そして、何にせよ友達といると時間の経過は早く感じられて、気が付けば駅に着いていた。彼女と私は帰る方面が逆なので、ここで別れる事になる。

「じゃ、また明日ね」

 笑って手を振る彼女に、私も手を振り返して私たちはそれぞれのホームへ階段を下りる。すると、向かい合ったホームなのでまた彼女を見つけて、今度は私から手を振った。それに彼女が気が付きしっかりと手を振り返してくれたのを見ると、私は玩具をもらった子供のように嬉しくなった。その直後に丁度やってきた電車に乗って空いている席に座ると、することがなく退屈だった私は鞄の中から授業中に絵を書いていたノートを出した。

「あっ……」

 ノートのページをパラパラと捲っているうちに、昼間自分が何を描こうとしていたのかを思い出した。

 それぞれのページに描かれているものを頭の中で重ねていくと出来上がったのは、お喋りなアマリリスとその近くにひっそりと咲く撫子の花に見えた。

手癖がよくわからなかったらごめんなさい orz...

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