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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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9/12

8 水源の確認と確保

 翌朝目が覚めて、私は初めて迦楼羅の顔をしっかり見た。

 さすが元ホスト。整った顔してるな……。顔色がこれじゃなきゃ、街を歩いたら目を引く美形だ。


「おはよう、結花。良く寝てたわね。まったく知らない男の横でグースカ眠るのはどうかと思うわよ?」

「今後善処します……」

「ほら、目ヤニついてる。顔洗ってらっしゃい……って水使えるの?」

「たぶん。昨日確認したけど少なくとも生活用水はあるんだ、この島」

 私はタオル片手に市庁舎の給湯室へいき、水道の蛇口をひねる。やっぱりこっちも水は出た。この島の湧き水だろうな、ということは見当がついたけど、水源はまだ確認できてない。

 この島で生きていくなら、まずそこを押さえないといけない。

 今日は湧き水の探索から始める。

 

 顔を洗ってさっぱりしてから迦楼羅のところに戻る。

 彼は壁に貼ってある島の地図をじっくり眺めていた。


「あまり広くはない島ね」

「まあそれでも有人島だったなら、最低限の文明基盤は残ってるから、一から無人島開拓なんてことにはならないよ」

「それはそうね。で、今日からどうするの?」

「まずこの島の観光地図を探す。観光地でもあったみたいだから、絶対あるはず。今日はあるはずの湧き水がある場所を確認しておきたいの。この島をパンデミック後でも長く人の住める場所として持ちこたえさせたのは、本土から海で隔てられていたことがまず一つ。あとは一重に使える水があったからよ」

「道理ね。じゃあ今日は水の捜索?」

「そう。それから、軽トラであっちに一度戻って、次の物資を積むわ。私の部屋にある防災備蓄と、会社のロッカーに入れてある備蓄の回収に行きたいの」

「ほんとに防災オタクなのねえ……」

「備えがなかった人から、いなくなっていった。そんな場面を見て来たからね」


 水とカロリーバーで簡単に朝ごはんを済ませると、軽トラから自転車を下ろす。しまった、ホームセンターで迦楼羅の分の自転車も積んでおけばよかったな……。


「結花、あったわよ、観光地図」


 迦楼羅が持ってきてくれたのは、乾いて色褪せてはいるけど、この島の観光地を印刷した、観光客向けの地図だった。

 地図を見る限り分かるのは、今私たちがいるここは神集村――島で唯一の人口密集地らしい。

 学校もホテルも、この周辺に集中している。


 そして山へ続く道のそばに、あの鳥居。

 奥には小さな神社があるらしい。ここも行ってみないと。


 そして、一番知りたかった湧き水の場所。

 書かれているのは二か所。

 一か所は港のすぐ近くなので、ここから歩いて行ける。

 もう一か所は山の上にあって、飲用も可能と書かれている。

 そして一番大事な情報がそこに書かれていた。

 二か所とも地下水なので飲用可能。

 これは大きな情報だ。

 飲用可能の水が問題なく確保できるかもしれないという大きな希望が見えた。

 が、ふとそこで最初の難所に気づく。

 港近くの湧き水はすぐ確認に行けるが、山の上はそうはいかない。

 確認のためには山登りをしないといけないということだ。しまった、トレッキングシューズは持ってきてない。帰ったらそれも積まないと。


「それで今日はどうするの?」

「まず、体力のあるうちに山に登って湧き水の源泉を確かめておきたいの。枯れてないか、まだ使えそうか。湧き水はこの町に引かれているみたいだから、元の水源の確認をしたいわ。でも先にこの港近くの湧き水の確認かな」

「そうね、まず近いほうから潰していくほうがいいわ」

「それから向こうに戻って物資を積む。うちの会社なら、色々防災用品があるから備品が残ってたらそれも積みたいから、力仕事よろしくね、迦楼羅」

「まあそこはアタシの仕事よね。分かった、任せて」


 力仕事を任せられるという幸運に恵まれたことを思うと、迦楼羅との出会いは本当に幸運だった。

 半ゾンビでもいい。

 話が通じて、背中を預けられる相手がいる。

 それだけで、生き残れる確率は何倍にもなる。


「じゃあ行こうか」

「まって、湧き水探すならこれ持っていきましょう」


 迦楼羅が見せてくれたのは、プラスチックの水筒だった。プリントはかなりはがれてしまっている。

 

「給湯室できちんと洗っておいたわ。転がっていたのを失敬したの。湧き水採取には必要でしょう?」

「そうだね、そこまで考えてなかった」


 確認だけじゃない、現物を持ち帰ることは大事だ。

 そして私たちはまず港の近くの湧き水のある場所へ向かった。

 そこは荒れ果ててはいたけれど、まだ水があった。

 石で組まれた水路に流れる水は透き通っていて綺麗だったけど、落ち葉やごみが水路を汚していた。これは掃除しないといけないな。

 迦楼羅がごみの少ないところの水を水筒ですくって飲んでみていた。


「うん、嫌な感じはないわね。少なくともアタシは飲めるわ」

「なら良かった」


 それから二人で山に向かう。

 山道は思っていたよりも荒れていた。

 踏み固められていたはずの道は草に覆われ、ところどころ崩れている。

 これは人の手が入っていない以上仕方ない。日本中の田舎の山はみんなこんな感じだ。


「結花、大丈夫?」

「……なんとかね。靴、失敗したかも」


 息を整えながら、それでも足を止めない。

 ここを押さえれば、この島での生存率が一気に上がる。


 しばらく登った先、残っていた看板の先、木で覆われた石造りの水路の隙間から水が染み出している場所を見つけた。


「……あった」


 それは港の水路とは違っていた。

 細い流れ。頼りないくらいの水量。

 けれど――。


「綺麗ね」


 迦楼羅がしゃがみ込む。

 透き通った水は、底の小石までくっきり見える。

 水路の掃除と周りの木の伐採は必要だけど。


 私は手ですくって、少しだけ口に含んだ。

 冷たい。雑味がない。

 一度吐き出して、味を確かめる。

 ……これは、いける。

 念のため煮沸はするけど。


「……うん、飲める」


「でも少ないわね」

「うん。生活用水には向かない。でも――」


 私は小さく息を吐く。


「飲み水は、こっちを使う」


「使い分け?」

「そう。港の水は洗い物とか掃除用の生活水。飲むのはここ」


 少し面倒になる。

 でも、その手間で生き延びられるなら安い。


 見上げると、誰もいない空が広がっていた。


 ここにはもう誰もいない。

 だからこそ、この水も、この場所も――全部、使える。

 

 

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