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終末ゾンビ世界から100年後の未来へ避難することにしました —防災オタクと半ゾンビの無人島開拓記  作者: ねねこ


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2 未来の島

 鳥居をくぐった瞬間だった。


 自転車のタイヤの感触が変わった。


 アスファルトの硬い地面ではない。

 もちろん神社の石畳の感触でもない。

 ざらりとした、乾いた土。


「……え?」


 思わず自転車を止める。


 振り返ると、そこにはさっきくぐったはずの鳥居があった。

 けれど——その向こうには、見知った夕暮れの住宅街はなかった。

 そして鳥居の先にあるはずの境内も私が知っているものではなかった。


 目の前の夕暮れの中にあるのは小さなお社と木だ。


 見たこともないほど背の高い木が、びっしりと生えている。

 この神社にこんな大きな木はなかったはず。


「……は?」


 私は鳥居と森を交互に見た。


 さっきまで、ここは神社の参道だったはずだ。

 鳥居を潜れば境内がある、普通の神社。

 だけどどこにも見当たらない。


 そして。

 ここには潮風が吹いている。

 海なんて遠いはずなのに。


 人の気配はない。


 車の音もない。

 電車の音もない。


 静かすぎる。


 「……いやいやいや」


 私は鳥居の外に一歩出た。

 でもそこに見慣れた住んでいる町はなかった。

 知らない場所だった。

 波の音と潮の香りがするんだが!?


「……どこ?」


 もう一度鳥居を見る。


 青白い光は、もう消えていた。


 ただの古い鳥居だ。

 私はしばらくそれを見つめていたが、やがてため息をつく。


「……落ち着こう」


 パニックは意味がない。


 状況確認。


 それが防災の基本だ。

 

 まず周囲を見る。

 木々の間から、少しだけ夕暮れの空が見えた。



 そして——遠くに、何かが見えた。


 人工物だ。


「……建物?」


 私は自転車を押して歩き出す。


 数分ほどで森を抜けると、視界が開けた。


 そこにあったのは——夕暮れの小さな港町だった。

 夕暮れの海が見える。

 なるほど、道理で潮の香りがするわけだ。


 いや。

 そこにあったのは。

 正確には。

 港町だったもの。


 建物は崩れ、屋根は落ち、道路は草に覆われている。

 港の船も朽ち果てている。

 電柱は傾き、看板は錆びついていた。


 まるで。


 何十年も人が住んでいない町のようだった。


「……嘘でしょ」


 その時。


 風に乗って、何かが転がってきた。


 足元で止まる。


 私はそれを拾い上げた。


 錆びた缶。

 缶コーヒーだった。


 ラベルはほとんど剥がれていたが、かろうじて文字が読めた。


『製造年月日 2026年6月』


 私は固まった。


 今は、2026年5月だ。


 つまり——


 「……一か月後に作られた商品がどうしてここに?」


 私はしばらく缶コーヒーの空き缶を見つめていた。

 頭の中で何度も数字を確認する。


 2026年5月現在。

 2026年6月製造。

 一か月のタイムラグ。


「……いや、ちょっと待って」


 ここは最低でも1か月後の未来?


 そんな馬鹿な。

 でも。


 私はゆっくりと顔を上げて、もう一度町を見る。


 崩れた家。

 草に覆われた道路。

 倒れた電柱。

 人の手が入った様子は見えないし、たかが一か月じゃここまで壊れない。


 少なくとも何十年。

 下手をすると、100年だ。


「……落ち着け」


 私は深く息を吐いた。

 パニックは意味がない。

 防災の基本。


 もう夜が始まる。

 灯りの有無がメンタルを左右するのは経験上わかっていたので、リュックに入れてあったネックライトをつけた。

 そのまま少し港町らしき場所を自転車を押しながら散策する。

 

 まずは状況確認。

 もう真っ暗になって分かりにくいけど、灯りがないと言うことはここに人はいないのだろう。

 建物の古さは今は分からない以上近寄らないのが無難だ。

 私は振り返って森の方を見る。

 さっきの鳥居はまだ見える位置にあった。

 もし外で夜明かしなら、あの鳥居の向こうが今夜は安全かもしれない。

 古びた木の鳥居。

 その向こうは森。

 そしてその手前が、私のいる場所。

 ゆっくりと自転車を押して鳥居まで戻る。

 数分も歩かないうちに、鳥居の前に着いた。


 私は自転車を止めて、鳥居を見上げる。


「……さっきは光ってたよね」


 今はただの鳥居だ。

 苔むした木。

 古い注連縄。

 どこからどう見ても、普通の神社の鳥居。

 でも。

 ここをくぐったら、私はここに来た。

 私はそっと手を伸ばして、鳥居の柱に触れる。


 ひんやりとした乾いた木の感触。


「……試してみるしかないか」


 私は自転車にまたがった。


 もし戻れないなら、それはそれだ。

 この島で生き延びる方法を考えるしかない。


 でも。


 もし戻れるなら——話は全然違う。


 私はペダルを踏んだ。

 すると鳥居がまた青白く光った。


「今だ……!」


 鳥居をくぐる。


 その瞬間。

 ぐにゃり、と空気が歪んだ。

 視界が白く揺れる。

 そして。

 私は思わずブレーキをかけた。


「……え?」


 そこは。

 見慣れた神社の入り口だった。


 振り返るとそこには石畳。

 小さな社。

 夜空がある。


 そして。

 遠くから聞こえるサイレンの音。


「……戻った?」


 鳥居は、さっきと同じ場所に立っていた。

 だが。

 その向こうに広がっているのは森ではない。


 いつもの参道。

 その先にある住宅街だ。


「……戻れる。あの青白い光がきっと鍵なんだ」


 胸がどくどくと鳴っている。

 私はしばらく鳥居を見つめていた。

 そして。

 ゆっくりと息を吐く。


「……これは」


 私は自分のリュックを見下ろす。


 避難リュック。

 これは一日分の最低限の備え。


 でも、家にはもっとある。


 クローゼット半分の非常食。

 水。

 防災用品。

 工具。

 カセットコンロとボンベ。

 その他。


 私は鳥居を見た。

 その向こうは。

 おそらく未来の世界。


 そして。

 ゾンビパンデミックのない、静かな島。


 私は小さく呟いた。


「……避難先としては、最高かも」


 そして。


 自転車の向きを変えた。


「よし。時間確認。午後9時1分。となると、鳥居が繋がったのは9時ジャスト。あそこへ繋がる条件がまだ分からないけど、あそこに全部運ぼう」


 ゾンビのいない未来のどこかの島へ私は避難することを決めた。



今日はあと1回、20時に投稿します。

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