悪いことでしかレベルが上がらない世界に転生したけど、大丈夫そ?
死因、ダサすぎないか。
万引き犯を追いかけて交差点に飛び出し、トラックに撥ねられた——というのが、鷹野蓮、十七歳の人生の締めくくりだった。
クラスの委員長。生活指導の先生より口うるさいと言われ、不良にも正論をぶつけて殴られ、それでも「ダメなものはダメだ」と言い続けた男。
自分で言うのもなんだけど、正義感だけは人一倍あった。それだけが、俺の取り柄だった。
その結果がこれだ。
目を開けたら、見知らぬ荒野に立っていた。
空は赤黒く、地面はひび割れ、遠くに崩れかけた街が見える。
まるでゲームの荒廃マップみたいだ——と思った瞬間、目の前に半透明のウィンドウが浮かんだ。
ピロン♪
【悪徳経験値システムへようこそ】
あなたの成長は「悪行」によってのみ促進されます。
悪行の規模に応じて経験値を獲得します。
善行を行った場合、経験値は減少します。
現在のレベル:1
称号:なし
「……は?」
悪行? 経験値?
なんだこの狂ったシステムは。
意味がわからないまま、近くの街に向かった。
そこで俺は、この世界のルールを思い知ることになる。
◆
街に入って最初に見た光景。
レベル30の男が、レベル5の少年からパンを奪っている。
少年は泣いている。周りの大人は誰も助けない。それどころか、笑っている者すらいる。
この世界では「悪事」が力の源だ。
つまり、悪人ほど強い。善人ほど弱い。
助け合いは損。奪い合いが正義。
倫理観が完全に反転した地獄。
俺は拳を握った。
体が勝手に動いた。
「おい。やめろ」
レベル30の男が振り返る。
「あ? レベル1が何言ってんだ?」
殴られた。吹き飛ばされた。肋骨が折れる音がした。
ピロン♪
善行を検知しました。経験値が10減少しました。
……現在の経験値:0 (これ以上は減少しません)
路地裏で血を吐きながら、俺は悟った。
正義は、この世界では文字通り「弱さ」だ。
——じゃあ、どうする?
答えは一つしかなかった。
◆
最初の悪事は、嘘だった。
宿屋の主人に「金は後で払う」と言って泊まった。払う気はない。
布団に潜り込んだ瞬間、システム音が鳴った。
ピロン♪
悪徳EXP +5 「詐取(軽微)」を検知しました。
たった5ポイント。でも、確かにゲージが動いた。
胃が重い。喉の奥が苦い。
前世の俺なら、絶対に許さなかった行為だ。
「……生きるためだ」
次の日、市場に立った。
目の前に、山積みのリンゴがある。赤くて、艶やかで、甘い匂いがする。
店主は別の客と話し込んでいる。今なら——
心臓が跳ねた。
ドクン、ドクン。こめかみまで脈打つのがわかる。
手を伸ばす。指先が震えている。
リンゴに触れた瞬間、全身に鳥肌が立った。
——やめろ。これは犯罪だ。
前世の自分が叫んでいる。
でも、腹が減っている。昨日から何も食べていない。
掴んだ。懐に入れようとした——が、指が滑った。
リンゴが地面に落ちて、コロコロと転がっていく。
「あ」
店主が振り返る。目が合った。
俺は反射的に走った。転がったリンゴを拾い上げ、路地裏に飛び込んだ。
壁に背中をつけて、荒い息をつく。
手の中のリンゴは、泥がついて少し傷んでいた。
ピロン♪
悪徳EXP +15 「窃盗(軽微)」を検知しました。
たった一個のリンゴに、こんなに心臓を使った。
前世の自分が見たら、情けなくて泣くだろう。
いや——怒るだろう。あの頃の俺は、万引き犯を追いかける側だったのだ。
震える手で、リンゴにかじりついた。
甘かった。甘くて、苦かった。
その次の日、酔っ払いの財布をすり取った。
昨日よりは、手の震えが少なかった。
それが怖かった。
ピロン♪
悪徳EXP +30 「窃盗(中程度)」を検知しました。
レベルが2に上昇しました!
レベルが上がった瞬間、体に力がみなぎった。
視界がクリアになり、反射速度が上がった感覚がある。
——気持ちいい。
その感覚に、ゾッとした。
◆
レベル5になった頃、事件が起きた。
路地裏で、子供が二人の男に囲まれていた。
レベル7と、レベル4。大した強さじゃない。
でも子供は泣きながら「やめて」と叫んでいる。
俺は——
見て見ぬふりをしようとした。
ここで助けたら経験値が減る。善行判定される。
そう頭ではわかっていた。
足が動いた。
気づいたときには、二人の男を殴り倒していた。
レベル5の身体能力でも、前世で不良に囲まれて学んだ喧嘩のコツが生きた。
急所に一撃。逃げ腰の奴らは弱い。
子供が泣きながら「ありがとう」と言った。
ピロン♪
善行を検知しました。経験値が50減少しました。
レベルが4に低下しました。
「…………は?」
レベルが下がった。
ちまちま悪事を重ねて、ようやくレベル5になったのに。一瞬で吹き飛んだ。
「おい待て。おいおい待て待て」
善行のほうが経験値の減り幅がデカいじゃねえか。
割に合わない。全然割に合わない。
なのに——足が勝手に動いたのだ。
体に染みついた「正義感」は、システムよりも強かった。
「……俺の体、バグってんのか?」
子供が鼻水を垂らしながら俺の服を掴んでいる。
振り払えなかった。
◆
それから、地獄のような日々が始まった。
悪事を重ねてレベルを上げる。
必死に窃盗、詐欺、恐喝。
吐きそうになりながらも、生存のために手を汚す。
なのに。
道端で転んだ老婆に手を貸してしまう。
ピロン♪ 善行を検知。経験値が30減少——
「あああああ!やっちまった!」
迷子の子供を親のところまで送り届けてしまう。
ピロン♪ 善行を検知。経験値が40減少——
「だから!なんで俺は!」
重い荷物を運んでいる女性を見かけて、反射的に手伝ってしまう。
ピロン♪ 善行を検知——
「もう鳴るなああああ!」
レベルを上げては善行で下がり、上げては下がり。
二歩進んで一歩戻る。いや、三歩戻ることもある。
自分で自分が嫌になった。
悪党として致命的に向いていない。
なのに——善人として生きるには、この世界は残酷すぎた。
◆
転機は、一人の男との出会いだった。
名前はガルド。この街の裏社会を仕切る元締め。レベル52。
俺がレベル8のくせに、レベル12のチンピラを素手で叩きのめしたのを見て、声をかけてきた。
「面白い動きをするな、小僧。うちに来い」
断る理由がなかった。
いや——断りたかったのかもしれない。でも、一人で生き延びる限界はとっくに来ていた。
ガルドの組織は、この世界の「マフィア」だった。
縄張り内の商人から上納金を取り、敵対組織を潰し、違法な取引を仲介する。
やることは全部「悪事」。つまり、効率よくレベルが上がる。
俺は組織の中で頭角を現した。
前世で培った「観察力」と「段取り力」が活きた。
委員長として行事を仕切っていた経験。人の動かし方。報告・連絡・相談の徹底。
悪事の内容はともかく、組織運営は前世の学校とそう変わらなかった。
レベル20。30。40。
恐喝、窃盗、詐欺、密輸。
手を汚すたびにレベルが上がり、上がるたびに罪悪感が薄れた。
いつしか、あのシステム音に何も感じなくなった。
ピロン♪ 悪徳EXP +200——
「ああ、いつもの」
それが普通になった。
◆
三年が経った。
ガルドが対立組織に殺された。
その報復として、俺は単身で敵のアジトに乗り込み、幹部を全員叩きのめした。
殺しはしなかった。殺せなかった——のではなく、「殺さない方が恐怖を与えられる」と計算した結果だ。
少なくとも、そう自分に言い聞かせた。
気づけば、俺はこの街の裏社会のトップに立っていた。
レベル78。街で俺に逆らえる人間は、もういない。
部下は百人を超えた。
上納金は潤沢に入り、住む場所も食べるものも、何不自由ない。
前世では想像もできなかった「力」を手に入れた。
正義感の塊だった高校生が、マフィアのボスになった。
笑える話だ。
いや、笑えないか。
鏡を見ると、目つきの悪い男が映っている。
あの頃の俺を知っている人間がこの姿を見たら、何を思うだろう。
——いや、知っている人間なんて、この世界にはいない。
そう思っていた。
◆
その日、俺は新しく手に入れた区画の視察をしていた。
貧民街だ。ボロ布をまとった人々が道端に座り込んでいる。
以前の俺なら心が痛んだだろう。今は何も感じない——はずだった。
「すみません……少しだけ、食べ物を分けてもらえませんか」
道の脇に座っていた少女が、俺に声をかけてきた。
ボロボロの服。痩せこけた体。でも、不思議と目だけが真っ直ぐだった。
その目に、覚えがあった。
「…………え?」
少女が顔を上げる。
栗色の髪。そばかすのある頬。
——嘘だろ。
「み……美月?」
前世の幼馴染。小学校から高校までずっと一緒だった、佐倉美月にそっくりだった。
いや、そっくりどころじゃない。声も、表情も、あの「困ったように笑う癖」まで同じだ。
少女は首を傾げた。
「ミヅキ……? 私はリーナです」
違う名前。この世界の住人だ。転生者じゃない。
でも——同じだ。何もかも。
「…………」
俺は無言で、懐からパンを取り出して渡した。
部下に持たされていた非常食だ。
リーナは驚いた顔をして、それから泣きそうな顔で「ありがとうございます」と言った。
ピロン♪
善行を検知しました。経験値が30減少しました。
久しぶりに聞いた、あの音。
「…………ああ」
胸が、痛い。
何ヶ月も忘れていた感覚だ。
「……お前、レベルいくつだ」
「1です」
「……ずっと?」
「ずっとです。悪いことは、したくないので」
——ダメなものはダメだ。
前世の自分が言っていた言葉が、他人の口から出てきた。
俺は立ち尽くしていた。
マフィアのボスが、貧民街の少女の前で棒立ちになっていた。
部下たちが怪訝そうな顔をしているのがわかる。
「……ボス?」
「帰るぞ」
振り返らずに歩き出した。
背中に、リーナの視線を感じた。
あの目。あの真っ直ぐな目。
美月と同じ目だ。
──お前、また正義の味方ごっこ?
幼馴染の声が聞こえた気がした。
前世の美月は、いつも俺のことをそう言ってからかっていた。
でもその目は、いつも笑っていた。誇らしそうに。
「……うるせえよ」
誰に言ったのか、自分でもわからなかった。
◆
その夜、俺はアジトで一人、天井を見つめていた。
考えていたのは、前世のことだ。
具体的には、万引き犯を追いかけた最後の日のこと。
周りが「やめとけ」と言った。「お前が追いかける必要ない」と。
でも俺は走った。追いかけた。
理由なんてない。ダメなことをしている奴がいたから、止めたかった。それだけだ。
その結果、死んだ。
そしてこの世界に来て、悪事に手を染めた。
あの「ダメなものはダメだ」と言っていた自分は、もういない。
——本当に?
レベル78。マフィアのボス。部下百人。
でも今日、パンを渡した。
反射的に。考える前に。体が勝手に動いた。
——三年前と同じだ。
子供を助けたとき。老婆に手を貸したとき。迷子を送り届けたとき。
頭では「やめろ」と思っているのに、体が動く。
前世の自分が、まだ体のどこかに住んでいる。
「…………参ったな」
俺は、悪人になりきれていなかった。
◆
翌日から、俺は貧民街に通うようになった。
理由は自分でもわからない。
いや、わかっている。リーナに会いに行っている。
「またパン持ってきたのか」と部下に呆れられた。
「マフィアのボスが孤児にパン配ってどうすんスか」と笑われた。
ピロン♪ 善行を検知。経験値が30減少。
「…………」
ピロン♪ 善行を検知。経験値が20減少。
「…………」
ピロン♪ 善行——
「聞こえてるよ」
レベルが77に下がった。
部下たちの目つきが変わり始めている。
マフィアのボスがレベルダウンしている。それは「弱くなっている」ということだ。
この世界では、弱くなった者は喰われる。
——わかっている。
でも、リーナが笑うのだ。
パンを渡すと、あの美月と同じ顔で。
「ありがとう。あなたは、本当はいい人なんですね」
その一言が、三年かけて積み上げた「悪党の仮面」を粉々にした。
◆
レベル75になった日、幹部の一人が反乱を起こした。
「ボスは善行でレベルダウンしている。もうトップの器じゃない」
予想していた。遅かれ早かれこうなることはわかっていた。
反乱軍のリーダーはレベル62の男。俺がかつて拾い上げた部下だ。
50人の手勢を率いてアジトに攻め込んできた。
「よお、元ボス。あんたに教わったんだ——弱い奴は喰われるってな」
「……ああ、教えた」
俺は剣を抜いた。
レベル75。相手はレベル62。
数では負けているが、レベル差は十分にある。
それに——前世で学んだことがある。
集団を制圧するのに、全員を倒す必要はない。
リーダーを潰せば、組織は瓦解する。
委員長時代に学んだことだ。不良グループのリーダーを正論で黙らせれば、取り巻きは勝手に散る。
三十秒で決着がついた。
反乱軍のリーダーを地面に叩きつけ、剣を突きつける。
残りの49人は、誰一人動けない。
「……殺すか?」
リーダーの目に恐怖が浮かぶ。
「殺さねえよ」
剣を引いた。
「聞け。全員だ」
残った部下と、反乱軍の全員が俺を見る。
「俺はこの組織を解散する」
ざわめき。
「今日から上納金は廃止だ。縄張りも返す。お前らは好きに生きろ。……ただし」
全員を見渡す。
「弱い奴を虐げるな。それだけだ」
ピロン♪
善行を検知しました。経験値が500減少しました。
レベルが72に低下しました。
「……ハハ、500も減るのか。大盤振る舞いだな」
◆
マフィアを解散した翌日。
俺は貧民街の一角に小さな建物を借りた。
前世の俺がずっとやりたかったこと。
不良の更生でも、犯罪者の追跡でもない。
もっと単純で、もっと根本的なこと。
——困っている奴を、助ける場所を作ること。
孤児院と食堂と診療所を兼ねた、何でも屋みたいな施設。
名前は決めていない。リーナが「たまりば」と呼び始めて、それがそのまま定着した。
最初の客は、マフィア時代に俺が恐喝していた商人だった。
「あんた……本当に改心したのか?」
「改心っていうか、元に戻っただけだ」
食料を配る。
ピロン♪ 善行を検知。Lv71に低下しました。
怪我人の手当てをする。
ピロン♪ 善行を検知。Lv70に低下しました。
孤児に文字を教える。
ピロン♪ Lv69に低下しました。
喧嘩の仲裁をする。
ピロン♪ Lv68に──
「うるっせえな」
リーナが隣で笑う。
「また鳴ってる」
「毎日鳴ってるよ」
「嫌じゃないの?」
「最初は嫌だった。今は──」
ピロン♪ Lv67に低下しました。
「……BGMだと思ってる」
リーナが声を上げて笑った。
美月と同じ笑い方だった。
◆
レベルが50を切った頃、噂が広まり始めた。
「元マフィアのボスが貧民街で慈善事業をしている」
「レベル78あった男が、自分からレベルダウンしている」
「あいつは頭がおかしいのか?」
おかしいのかもしれない。この世界の基準では。
でも、俺から見れば、この世界のほうがおかしい。
善行で弱くなる。悪行で強くなる。
誰がこんなシステムを作ったのか知らないが、クソみたいな設計だと思う。
でも——だからこそ。
このシステムの中で善行を選ぶことに、意味がある。
レベルが下がるとわかっていて、それでもパンを配る。
レベルが下がるとわかっていて、それでも子供を守る。
レベルが下がるとわかっていて、それでも——
「それでも、ダメなものはダメなんだよ」
独り言のつもりだった。
「それ、前にも聞いた」
リーナが俺の隣に座っていた。
「お前に言ったことあったっけ」
「うん。初めて会った日。パンをくれた時」
覚えていなかった。無意識に言っていたらしい。
前世の口癖が、まだ残っていた。
三年間の悪行でも消えなかった。
結局、俺の芯はずっとここにあったのだ。
◆
レベルが30を切った日。
街の領主が「たまりば」にやってきた。レベル70の権力者だ。
貧民街の再開発を名目に、施設の撤去を命じてきた。
「レベル30以下の者が、この街で施設を運営する権利はない」
ルール上は正しい。この世界では、レベルが権力だ。
レベル30の俺に、レベル70の領主を止める力はない——
はずだった。
「やってみろよ」
俺は領主の前に立った。
「来るなら来い。レベル30でも、お前の鼻くらいは折れる」
領主の護衛が剣を抜く。五人。全員レベル50以上。
——勝てない。数字の上では。
でも、俺には三年間マフィアのボスとして培った「殺気」がある。
レベル78時代に積み上げた戦闘経験がある。
レベルは下がっても、経験は消えない。
それに。
背後に、「たまりば」の住人たちがいる。
孤児たち。元商人たち。元マフィア構成員まで混じっている。
全員、レベルは低い。でも、全員が俺の後ろに立っている。
リーナが、俺の服の裾を掴んだ。
「……怖い」
「大丈夫だ」
「レベル、また下がるよ?」
「知ってる」
領主が鼻で笑った。
「レベル30の男が気取るな。この世界では——」
「この世界では、悪い奴が強い。知ってるよ。俺がそうだったからな」
一歩、前に出た。
「でもな。レベル78まで上がった奴が、自分からレベル30まで落ちた。その意味がわかるか?」
領主の顔から笑みが消えた。
「レベルが怖くて善行をやめる奴と、レベルを捨てても善行を選ぶ奴。どっちが本当に強いと思う?」
護衛たちの剣先が、わずかに揺れた。
「——帰れ」
領主は何も言わず、踵を返した。
護衛たちが続く。最後の一人が、振り返って小さく頭を下げた。
◆
あれから一年。
「たまりば」は街で一番大きな施設になった。
元マフィアの構成員たちが、一人、また一人と善行を始めた。
レベルが下がるとわかっていて。
ピロン♪ Lv14に低下しました。
今日も朝から忙しい。
食事の配給。子供たちの授業。紛争の仲裁。壊れた屋根の修理。
ピロン♪ Lv13に低下しました。
リーナが駆けてくる。
「レンさん! 東区の井戸が壊れたって!」
「はいはい。今行く」
ピロン♪ Lv12に低下しました。
井戸を直す。お礼にリンゴをもらう。それを孤児に渡す。
ピロン♪ Lv11に低下しました。
「……まだ鳴ってんのか」
ピロン♪ Lv10に低下しました。
「しつこいな、お前」
隣でリーナが笑っている。
あの日と同じ、真っ直ぐな目で。
ピロン♪ Lv9に低下しました。
「ねえ。レベル1になったらどうするの?」
「別に。レベル1がどんなもんかは知ってる。最初はそこからだったし」
「怖くないの?」
俺はリーナの頭を軽く叩いた。
「怖いわけないだろ。レベル1でも、お前みたいに胸張って生きてる奴がいるんだから」
ピロン♪ Lv8に低下しました。
夕日が沈む。
赤黒かった空が、いつの間にか普通の茜色になっている。
この世界も、少しずつ変わってきているのかもしれない。
ピロン♪ Lv7に低下しました。
——ああ、鳴ってる鳴ってる。
前世で死んだとき、俺は万引き犯を追いかけていた。
正義感だけで走って、馬鹿みたいに死んだ。
今世では、マフィアのボスになって、悪事の限りを尽くして、最強になった。
そして全部捨てて、パンを配っている。
結局、やってることは同じだ。
回り道をしただけだ。
ダメなものはダメ。
それだけの話だった。
ピロン♪ Lv6に低下しました。
「——うるせえよ」
笑いながら、俺は明日の食材を買いに行った。
(了)




