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第一話 ついていない一日

少し、びくりと身体が跳ねた。


息が詰まり、鈍い痛みが頭の奥で脈打つ。視界はまだぼやけ、周囲の光に慣れようとしていた。


「……うぐ。寝落ちしてたか」


ソファの近くのテーブルに置かれたスマートフォンへ手を伸ばす。画面が淡く光った。


「もう八時過ぎ……」


短く息を吐き、手のひらで目をこする。立ち上がると、身体のあちこちがわずかに軋んだ。


静まり返った家の中で、自分の足音だけがやけに響く。


洗面台の前で蛇口をひねり、水をすくって顔に当てた。冷たい水が肌を打ち、少しずつ頭の重さが引いていく。


顔を上げると、湯気で曇った鏡の向こうに、ぼんやりとした自分の姿が映った。


背はそれなりに高く、痩せすぎでもない青年。濡れた黒髪が無造作に落ち、赤い瞳がこちらを見返している。


疲れ切った、感情の薄い目だった。


彼は先に視線を逸らし、顔を拭いて乾燥機の前へ向かう。


中では、温かい洗濯物がまだゆっくりと回っていた。


扉を開け、洗濯物を取り出そうとした、その時――


スマートフォンが鳴った。


突然の着信音が静寂を切り裂く。手には、取り出したばかりの服を握ったままだ。


「おはよーー!!ファレル!!」


耳に突き刺さるような声に、ファレルは顔をしかめた。


「声でかすぎ。耳潰す気か」


「へへ、ごめんごめん。電話しても全然出ないからさ。まだ寝てるかと思って」


小さく息を吐く。


「……で、何の用だ」


「バスケの練習! 今日集まるんだよ」


乾燥機をちらりと見る。


「練習?」


「そ。みんな来る。ほぼフルメンバー」


昼前とは思えないほど元気な声に、ファレルは通話音量を下げた。


「今?」


「違う違う。落ち着けって」


洗濯物を一枚取り出し、かごに放り込む。


「何時だ」


「三時!」


少し黙り込み、頭の中で時間を数える。


「……三時か」


「いつものコートな。先週みたいに消えるなよ」


「用事があった」


「どうせ寝てたんだろ?」


「……否定はしない」


向こうから、遠慮のない笑い声が聞こえた。


「ははは! とにかく来いよ。ウイング足りてないんだ」


「……わかった」


「マジで?」


「ああ」


「よし! じゃあ三時な。待ってるから!」


通話が切れ、静寂が戻る。


ファレルは暗くなった画面を数秒見つめ、ポケットにしまった。


ちょうどその時、乾燥機も完全に止まる。



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