プロローグ 『もう一度、最初から』
胸が苦しい。息は吸えているはずなのに、喉で止められているようだった。
残された力を振り絞り、彼は身体を引き離そうとする。だが、もがくほどに圧迫は強まり、身体を容赦なく押し潰してくる。
震える手で、彼は崖の岩間から伸びる根を掴んだ。
『くそ……』
だが、力はすぐに尽きていく。指を動かそうとするが、反応はない。四肢の感覚が消え、痺れがゆっくりと広がっていった。
『重い……』
胴体の中央を締め付ける圧力。骨が鳴ることはない。だが、砕かれていく感覚だけは確かにあった。
心臓が不規則に脈打つ。まるで、まだ動くべきか迷っているかのように。
世界が脈打つ。視界が狭まり、色が失われていく。闇が、弱まる鼓動に合わせて視界の縁を侵食してきた。
彼は挟まれている。逃げ場はない。
わずかに身体を動かしただけで、圧力はさらに強く返ってきた。ここに、彼の居場所はないのだと、世界が告げているようだった。
意識は、まだ残っている。それが、何よりも残酷だった。
すべてを感じ取れるほどには覚醒している。だが、抗えるほどの力はない。
身体の中心から熱が広がる。思考を焼き尽くすような感覚。それが本当に熱なのか、ただの痛みなのか、彼にはもう分からなかった。
薄れゆく意識の中で、思考は次第に乱れていく。
意識が、ゆっくりと消えていった。必死に身体を支えていた手が震え、指先から力が抜け落ちていく。
『ここで……終わるのか?』
瞼が重い。彼は、それを閉じることを選んだ。
意識は途切れ、闇がすべてを覆い尽くした。




