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【第1話】不思議な夢の断片

この作品を読んでいただきありがとうございます。


この章ではファレルが奇妙な夢を見る場面から始まります。


短いですが、物語の導入として楽しんでください。




ファレルは奇妙な空間で目を覚ました。


暗い。


静か。


自分がどこにいるのか分からない。光も音もない、ただの空虚な空間。


冷たい空気が肌に忍び込み、彼はまばたきを繰り返しながら何かの形や光を探そうとしたが、視界はまだ闇のままだった。



「雨……?」と小さくつぶやいた。



起き上がろうとするが、体はだるく、頭には軽い痛みが走り、思考は混乱していた。


やがて……


かすかに遠くから薄い光が差し込み始めた。


ファレルの目は徐々に慣れていく。


彼は周囲を見渡した。


高くそびえる木々。


濡れた道の上に漂う薄い霧。



「森……?」



だが雰囲気はおかしい。


静かすぎる。


異質すぎる。


すると突然、霧の奥から……


慌ただしい足音が静寂を破った。


白銀の髪を風に揺らしながら、小さな影が彼の前を駆け抜けていく。


荒い息遣い、服は土と濡れた葉で汚れていた。


遠くから重く途切れ途切れの音が聞こえてきた。それは人間の声ではない。


木々の間に暗い影が現れ、巨大な姿で霧のようにうごめいていた。


その子供は一言も発せず、再び走り去った。


霧が光を呑み込み、ファレルだけを取り残す。



「一体、何が起きているんだ……?」



恐怖よりも好奇心が勝り、ファレルは霧に包まれた世界を見つめながらゆっくりと歩き出した。


湿った土の上で足音がかすかに響く。


冷たい湿気を帯びた大地の匂いが鼻をついた。


やがて彼の足は、小さな斜面の前で止まった。


少し急で、滑りやすそうだった。


だが、なぜか行かなければならないと感じた。



「上からなら、もっとはっきり見えるかもしれない……」



彼は自分に言い聞かせるように小さく呟き、慎重に斜面を登り始めた。


湿った土や木の根に足を取られながらも、一歩一歩進んでいく。


体はまだ重かったが、好奇心が彼を引き上げていった。


やっと斜面の頂上にたどり着いたとき、ファレルは息を荒げ、体を震わせていた。


だが、その目は霧の奥に浮かぶ影に釘付けになった。


次の一歩を踏み出そうとした瞬間……



「ここにいるべきではない。」



低く落ち着いた声が響いた。


ファレルは息を呑み、目を見開いた。


霧の中、いつの間にか男が立っていたのだ。


足音すら聞こえなかった。


長い黒いマントをまとい、その顔は霧に拒まれるようにぼやけて見えない。



「まだ時ではない。これはただ漏れ出した断片にすぎない……


お前はまだ、その書を読む術を知らない。」



ファレルは一歩後ずさり、混乱と恐怖に包まれた。



「誰だ――」



問いかけようとした瞬間、男が半歩近づく。


ゆっくりと、だが圧倒的な力を感じさせる動き。


その掌がファレルの胸に触れた。


力はなかったが、それだけで彼の体は支えを失った。


――


再び闇の空間。


静寂。


方向も光もない。


息が詰まり、体は宙を漂う。


あまりに唐突で、あまりに異質な邂逅。


まるで起こるはずのなかった出来事のように。


ファレルはリビングで目を覚ました。


息は荒く、冷や汗が額を濡らしていた。


頭は重く……



……夢、だったのか……



静かな部屋に電気ポットの小さな音が響いた。


それが朝の曖昧な時間を告げる唯一の気配だった。


ファレルは顔を覆い、少し座った後に立ち上がった。


背は高く、着古したTシャツは長い腕にだらりと掛かっていた。


重い足取りが床板をきしませる。


小さなキッチンで湯気を立てるポットを無表情に止め、静かにバスルームへ向かう。


曇った鏡に映るのは、乱れた髪、暗紅色の瞳、虚ろな表情。


彼は髪をかき上げ、水をすくって顔を洗った。


冷たい雫が首筋やTシャツを濡らし、再び鏡を見つめる。



ピリ… ピリ…


ピリ… ピリ…



着信音が静けさを破った。


ファレルはバスルームを出て、テーブルの上のスマホを手に取る。



「おはよう、ファレル!」


元気なディマスの声が響いた。


「今日は暇か?」


「なんだよ、朝からうるさいな。」


「へへ、ごめんごめん。」


「で、何の用だ?」


「今日、バスケ部の活動があるんだ。一緒に来ないか?」


「もちろん行くよ。今からか?」


「いや、二時頃かな。」


「分かった、二時だな。」



通話を切ったファレルは、ふっと小さく息を吐いた。



「……まあ、散歩がてら朝飯でも食べに行くか。」



財布と鍵を手に取り、重い腰を上げた。


エンジン音を響かせながらバイクを走らせる。


だが角を曲がったところで、突然エンジンが震え、止まってしまった。



「えっ?」



彼は路肩にバイクを押し、再びエンジンをかける。


しかし、うなりを上げてすぐに沈黙した。



「マジかよ……」



深いため息をつき、九時の太陽に照らされる。


雲一つない空から容赦ない日差しが肌を焼きつける。


ファレルは汗を拭いながらバイクを押し続け、やっと馴染みの修理工場にたどり着いた。


油の匂いと金属音が迎えてくれる。


工具だらけの作業台の奥には、がっしりとした体格だがファレルの胸ほどの背丈しかない男が立っていた。


濃い髪と豊かな髭、細められた目が鋭く部品を見極めている。



「やっと来たか。」


「誰かと思えば……」



男は黒ずんだ布で手を拭きながら近づいてきた。



「今度はどんな不具合だ?」とグラヴィンが尋ねる。


「さあな。だからここに持ってきたんだ。」


「まったく……ガキはこれだから。」



彼はキーを回したがエンジンはかからない。


エンジンを覗き込むと、煙がふわりと立ちのぼった。



「ふん……こいつはもう無理をさせすぎだな。


バッテリーは漏れてるし、ダイナモは焼けてる。配線なんて干からびた根っこのようだ。


全焼しなかっただけ運がいい。」



「修理にどれくらいかかる?」


「そうだな……一日か二日ってところだ。」


「結構長いな。」


「嫌なら他所に持っていけ。」


「わかった、わかった。二日でいいよ。」



修理工場を後にしたファレルは、近くの食堂に立ち寄った。


食事を済ませ、代金を払い、外へ出る。


釣り銭を数えていると――



スッ!


財布が手から引き抜かれた。


咄嗟に顔を上げる。


黒いジャケットを着た男がバイクで駆け抜けていく。



「おい!」



考える間もなく追いかけた。


小銭が道に散らばりながら――。


――続く


ここまで読んでくださりありがとうございます。


今回の章はファレルの夢の一部に過ぎませんが、


この夢が後の物語に大きな意味を持つことになります。


次回もぜひお楽しみに!


――続く


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