その日暮らしの風来坊(1/4)
全四話を朝・昼・夕・晩と四回に分けて投稿します。
次話の投稿は12時頃です。
シリーズの第三弾ですがこの話から読んでいただいても楽しめるように書いています。
俺の名前はサバ。戦国時代の漁村で生まれた現代日本からの転生者だ。生まれ育った村が織田信長に滅ぼされたので大阪の堺まで逃げ延びてきた。外国貿易が盛んな景気の良い大都市で武侠者と呼ばれる日雇い労働者をやって生活をしている。
武侠者とは肉体労働や荒事もこなす異世界モノでよくある冒険者みたいなやつだ。この世界は過去の日本とはちょっと違う和風な異世界なので魔物も普通にいるし神通力と呼ばれる魔法もある。商人による自治都市「堺」では武士の代わりに平民階級の武侠者が魔物から都市を守る防衛戦力となっているわけだ。
よく権力者が独自の武装組織を認めたなと不思議に思ったもんだが、魔物っていう害獣より強力な人の敵が実在する世界ならではなのかもしれないな。そして俺は身体能力強化魔法を持つ物理特化のガタイのいい兄ちゃんだ。平民階級の者が魔法を使えるのは凄いことらしいが、元現代日本人としてはどうせなら派手な火とか雷をだす魔法が欲しかった。無いものねだりの想いを抱きながら今日も宿の裏庭で日課の筋トレと瞑想を行う。
ほどよく身体があったまり、噴き出た汗を水で濡らした手ぬぐいで拭いていると、土間から今世のおふくろぐらいの年代の宿の女将さんが顔を出して声をかけてきた。
「おはようサバさん。よかったら朝餉食ってくかい?」
「おう、ありがたくもらうよ」
今の宿には先月ぐらいから連泊している。隙間風の多い古い造りの宿だが女将さんが俺を気に入ってくれてるのか、ただで朝飯を出してくれるので長居している。身軽に移動できるように物を持たないようにしていたんだが、部屋を持ってしまうといつの間にか食器や着替えなど普段持ち歩かないモノが増えてきて宿を変えるのが億劫になってくる。これはひょっとすると女将さんの顧客戦略なのかもしれない。
穀物粥に自家製漬け物に味噌汁の一汁一菜な飯をかっくらい、ご馳走様と言って宿を出る。朝飯の量は大盛にはしてくれているが、身長185cmは多分超えてる俺の筋肉ムキムキな体格だと物足りないのも事実。なので朝市をやってる水路脇の通りまで出て屋台をひやかしながら、串に刺して塩振って焼かれた六本足の謎肉などを適当に買い食いして歩く。武侠者組合の建物に着く頃にはぐぅぐぅ鳴ってた腹もだいぶと落ち着かせることができた。
武侠者組合の建物は広い土間の奥に格子付きのカウンターがある先進的な印象の明治時代の銀行のような作りだ。開けっ放しの入り口をくぐって、まずは横の壁まで行って掲示板に貼ってある求人の紙を眺めていく。朝なので仕事を求める武侠者で掲示板前はごった返しているな。俺はフィジカルの強さを生かして人の波をかき分け壁の前まで進んだ。
掲示板は木級、鉄級、銅級、銀級、金級と武侠者のランクで分かれている。俺は先日晴れて鉄級へと昇級したのでそこの掲示物から仕事を見つけようか。といってもルーキーの木級とベテランの銅級の間の鉄級の仕事は木級とほとんど同じだがな。
求人は港や倉庫での荷運びに都市清掃、水堀の補修工事なんて環濠都市ならではのものもある。護衛や魔物討伐など信用や武力が必要な依頼は銅級以上の掲示板にあるので鉄級の俺では受けられない。今日は水堀の補修工事に応募してみるか。デカい身体で掲示板の前に居座ると後ろの奴らの邪魔になるのでさっさと人波をかき分け受付に向かった。
朝は五つある受付窓口がすべて開いている。武侠者登録の際に世話してくれた美人のナツメさんの前はやっぱり長蛇の列だ。俺は諦めて不人気の男性受付の列に並んだ。
受付は月代の剃り跡も青いうらなりひょうたんのような青年だった。この時代、月代の毛は一本一本抜いてるもんだと思ってたが、あの青剃り跡をみると剃刀もあるみたいだな。故郷の村では見たことないから都市部でしか流通してないのかもしれない。まあ、ざんばら髪の俺は髷を結う気はないから使うことはないがね。
「おはようさん。水堀の補修工事の空きはあるかい?」
「お、おはようございます。ええと水堀ですね。人数を集めてるそうなので空きはまだまだあります!」
いかつい武侠者が朝からフレンドリーに挨拶をしてくるのが珍しいのか、青年はどもりながらも挨拶を返して受付をしてくれた。
「ええと、サバさんなら魔物討伐の方が稼げそうですけどいいんですか?何度も魔物倒してますよね?」
「水堀の仕事でいいさ。べつに魔物シバくのが好きってわけでもないしな」
組合的には鉄級でも確かな実力があるなら魔物討伐を頼みたいそうだ。そういった依頼を受けると昇級が早くなるそうだが昇級のメリットより安全な仕事の方がいいので魔物討伐の話は断った。ちなみに昇級のメリットは銅級以上なら引退後に恩給がでることらしい。詳しい制度は聞いてないが上に行くほど手厚くなるとのことだ。ちょっと受付の青年と雑談をしたら水堀の仕事の受領書を受け取って組合をでた。太陽が燦々と輝き、今日も暑くなりそうだ。
現場は環濠都市「堺」を囲む立派な水堀の巨大な石組み、ではなく北東の湿地帯との境に位置する簡易な堀の石組み補修作業だ。石組みから延びる湿地帯の上にかかる浮き橋や渡し板が交易道路となって京都方面との流通を支えている。交通の要衝としても大事な場所だ。
現場の管理責任者に受領書を見せてから作業者の集まっている場所に行く。三々五々と集まった作業者に向かって現場監督がいくつかの小集団に分けてから仕事を割り振っていく。俺が割り振られたのは崩れた石組みを水に浸かりながら元に戻していく作業だ。作業経験者がいたんでアドバイスを受けながら進めていく。
「兄ちゃん、そっちの石を持ち上げてここにのっけてくんな」
「はいよ。この向きでいいか?」
「そうそう、崩れにくいように嚙み合わすんだ。兄ちゃんが力持ちで助かるぜ!」
俺と経験者のおっちゃんと他何人かで石を積み上げ、残りの奴に資材を運んできてもらう。水堀といっても清流ではないので、ふんどし一丁で水中作業をしている俺たちは泥だらけだ。はねた泥が目に入りそうで気持ち悪い。これなら自作の水中ゴーグルでも持ってくればよかった。
作業は明るくなってから暗くなるまでで、進捗によるが10日ほどが予定されている。作業終わりには現場で飯が提供され、簡易の休憩小屋で雑魚寝だ。朝飯は行商人がやってきて自分たちで好きなもの買って食う。たまに水生の魔物が襲ってくるが、警備依頼を受けた銅級の武侠者が対処するので作業してる俺たちが怪我をすることはない。ちなみに警備と土方では後者の方が基本給は高い。金になる魔物が現れなければ警備依頼は汚れないだけで、たいしてうまくない。なので銅級のベテランでも土方作業の依頼を受ける人間は意外と多いのだ。
「うおい!?カエルが寄ってきやがったぞ!おいっ警備!しっかり見てろっ!」
「すまーん!」
体長1mほどの化けカエルが一抱えほどの石を持ち上げてる俺の背中にぶつかってきた。普通の奴なら泥の中に倒されて結構危なかったかもしれん。一日の作業も終わりが見えてくると気が緩むのか魔物が警備の網を抜けて近くまでくる頻度が増える気がする。背中にぶつかってきた化けカエルは持ち上げていた石で頭を潰して岸に投げといた。脚の肉が淡白だが結構うまいので晩飯の足しにするつもりだ。
「兄ちゃん。そろそろ一休みしようぜ」
「りょうかーい」
泥水に浸かって作業してた俺たちは岸に上がって休むことにした。いくつかに分けられた小集団の中でも俺たちの班は進みが早いので自己判断で休んでも現場監督はうるさいことを言わないのだ。
泥を適当にぬぐって足を延ばして休んでいると、横に座ってるおっちゃんがスッと火の着いた煙管を差し出してきた。
「兄ちゃんも一服するかい?」
「おお!ありがとう。けど遠慮しとくわ。おふくろの遺言で煙草は三十になってからと言われてんだ」
「ははは、なんで三十なんだよ」
タバコは前世から禁煙してんだ。おっちゃんの好意をうまくかわして話題を変える。
「おっちゃんは帰ったらどうすんだ?」
「かかあが待ってるからな。土産でも買ってまっすぐ帰るよ」
おっちゃんがぷかぁと煙を口から出しながら答える。
「兄ちゃんはどうすんだい?」
「俺か?どうすっかな。とりあえず風呂は入りてえな」
自分の身体を見ると泥と垢で元現代人としては許せんレベルの不潔さになっている。頭も痒いし意識したら余計に風呂に入りたくなってきた。
「──おい。あれなんだ?」
俺達と一緒に休んでた若者が湿地帯の奥を指差して何かを見つけたのか声を上げた。湿地には葦の草が生え、間を縫うように渡り板がかかっている。空は抜けるように青く入道雲が立ちあがっている。青と緑で塗り分けられた境界に、入道雲とは異なる真っ白い布のような物が地から立ち上がり、くねくねと風もないのになびいていた。
「んん?なんだありゃ」
「っ!?いかん!くねくねだ!!あいつを凝視しちゃなんねぇ!魂持ってかれっぞ!!」
ベテランのおっちゃんが血相変えて騒ぎ出した。俺はその剣幕にビビって白い奴から視線を外したから助かったが、くねくねを見ていた奴等は皆腑抜けた顔でぼうっと突っ立っている。さらに間の悪いことに多数の水生の魔物が現場に入り込んできた。警備役の武侠者にもくねくねを見て動きが止まっている奴がいるようで、化けカエルの体当たりにも何の反応も見せずに水に引きずり込まれていた。いち早く対応してたおっちゃんが叫ぶ。
「おい!魔物が来たぞ!正気の奴は腑抜けた奴等を引きずって水場から離れろ!」
とりあえず俺は同じ班の奴等のふんどしを引っ掴んで休憩所の方角にどんどんぶん投げた。非常事態だから安全より速さ優先だ。怪我したらすまんな。
「おっちゃん!くねくねの倒し方は!?」
「わからねえ!けど直接の攻撃はしてこねえから見なきゃ大丈夫だ!」
現代でもあんな奴の怪談があったよな。あの話も倒してはなかったかな?よく憶えてねえ。俺はくねくねを視界に入れないようにして魔物に襲われてる奴等を助けていく。浮き足立っていた警備の武侠者達も持ち直したようで、どんどん魔物の数を減らしていってる。このまま押し切れるかと思ったところで魔物の相手をしている武侠者達から悲鳴が上がった。
「うわぁぁぁ!?白いのがきやががが……」
ちらっとだけ声の方に目を向けると、くねくねが武侠者の背後に移動して覗き込むように視界に入ってるのが見えた。無理やり至近でくねくねを見ることになった武侠者達が意識を喪失していく。
「いや、反則だろソレ!おっちゃん!おもっきり攻撃してくるじゃねえか!!」
「いやいやいや、知らねえ!あんなことしてくるなんて!?」
くねくねくねくねザザザザザッ!葦の原を意外な速さで移動して救助活動をしてるだけの俺の背後に草の根をかき分けて迫る音がする。
「ヤバい!ヤバい!来た来た!?」
至近距離で見た奴等は速攻で意識失ってたよな?てゆうか、わけわからん怪異を近くで見たくねえ!目をつむっても開けたときにドアップで迫ってるとか怪談あるあるトラップされたら、おしっこちびる自信がある!俺はくねくねが覗きこんでくる前に背後の奴に手を伸ばして胴体をぐにっと掴んだ。
くね!?くねくねくねくねっ!!
「うぉぉぉ!?くねるな!感触キンモオォォォッ!!」
ヌタウナギのような妙なぬめりを感じる抱き枕ぐらいの円柱が、掴まれるとは思ってなかったのか、慌てたように懸命に身体をくねらせる。その感触の気持ち悪さにめげそうになりながらも、姿を見ないように目をつむって助走をつけ、捕まえたくねくねを空に投げ飛ばした!俺の剛力で空高く打ち上げられたくねくねが太陽を遮り逆光になる。
「よし!見てもOK!死にさらせやっ!!」
俺は堀の石組み用に集められた石を手に取り、太陽に向かって全力で投げまくった。ドドドドドドドドッ!!と重い音を立てて太陽の光に埋もれたくねくねが身体を潰され千切られながら小さくなっていき、形を保つ限界が来たのか、暫くすると風に吹かれて消え散っていった。
「よっしゃー!兄ちゃんよくやったぁ!!」
「YES!残敵掃討じゃあ!警備員どもっ、起きて魔物をかたずけろ!!お前らの仕事だろ!!」
俺の激が気付けになったのか、警備役の武侠者達が気を取り直して、ほどなくして残りの魔物の討伐を終わらせてくれた。
くねくねというイレギュラーの出現で想定外の怪我人は出たが、くねくね遭遇経験者のおっちゃん曰く、驚くほど被害は少ないとのことだ。おっちゃんの経験ではくねくねは攻撃が効かなくて倒せなかったし、無視して他の魔物を倒そうにも視界に入っただけでこちらの動きを鈍らせてくるので武侠者に大きな被害が出たらしい。現場責任者からもとんでもなく危険な状況だったので被害を抑えてくれて助かったと感謝された。くねくね討伐の報酬も俺が貰えるようだ。死体がないのでその分は引かれるが脅威度の高い魔物なので討伐報酬だけでもかなりの金額になるんじゃないかとのことだ。
その後、中止されることなく続行された残りの石組み作業は、魔物の襲撃もなかったので二日で終わらせることができた。俺達の班は作業完了一番のりだったので報酬に色をつけてくれるらしい。結果的にくねくね討伐報酬と合わせると、今回はかなりおいしい案件となったのだった。
次話の投稿は12時頃です。
お気に召したなら同シリーズの他の話もいかがでしょうか。




