理解が追いつかない
初めまして。いろはにぽてとです。この小説は中学一年生が書いたファンタジー系のライトノベルです。ツッコミどころは多いと思いますが、どうかご容赦ください。では、開幕です。
雨は、まるで空が泣いているかのように、容赦なく降り注いでいた。路地裏に響く一発の銃声が、渡邉徹の人生の終焉を告げる。肺を焼くような激痛に、膝から崩れ落ちる。その先は整備もされていない小川だ。だが、今日はあいにくの雨。最期までついていないと思いながら、頭から水に落ちる。視界がぼやけていく中、徹の脳裏に浮かんだのは、つい先ほどプロポーズを受けてくれた幼馴染、江藤渚の笑顔だった。
「渚……ごめん……」
途切れかけた意識の中で、徹の体は冷たい川へと投げ出される。濁流に飲み込まれ、身をよじっても抗うことはできない。銃創からの血が、冷たい水に混じり、みるみるうちに視界を赤く染めていく。やがて、その赤さえも黒に塗りつぶされ、徹の体は急速に冷え固まっていった。呼吸が止まり、心臓の鼓動がゆっくりと、しかし確実に、その動きを止める。意識は闇の底へと沈み込み、ひっしりと冷たさを感じながら、徹は死んだ。
次に目を覚ました時、徹は理解不能な光景の中にいた。視界いっぱいに広がるのは、鉛色の空と、荒涼とした大地。ここがどこなのか、全く見当がつかない。体がひどく重い。凍死したはずなのに、なぜ自分はここにいる?脈を打つはずのない心臓が、かすかに、しかし確かに鼓動しているのを感じる。
「……う、うぅ……」
喉から絞り出された声は、ひどく掠れていた。体を起こそうとすると、軋むような痛みが全身を走る。ゆっくりと視線を巡らせると、足元には、朽ちかけた木々がまばらに生え、その間を、得体の知れない霧が這っている。空気はひどく冷たく、肌を刺すようだった。
「……まさか、ここが死界、なのか?」
信じられない現実に、徹は思考を停止させる。しかし、夢にしてはあまりにも生々しい感覚が、彼を現実に引き戻した。その時、微かに、奇妙な音が聞こえてきた。それは、土が擦れるような、あるいは何か大きなものが引きずられるような、不気味な音だった。音のする方向へ目を凝らすと、霧の向こうから、ゆっくりと、しかし確実に、黒い影が迫ってくるのが見えた。
最初は、ただの大きな岩かと思った。しかし、影が近づくにつれて、それは次第に形を成していく。歪んだ四肢、不ぞろいの瘤、そして、まるで魂を吸い取るかのような、虚ろな目。それは、間違いなく化け物だった。
徹は恐怖で体が硬直した。凍死したばかりの自分に、抵抗する術などあるはずがない。死への恐怖が再び胸を満たす。化け物は、ゆっくりと、しかし確実に徹に近づいてくる。その一歩一歩が、徹の心臓を締め付ける。もう終わりだ。そう思った時、化け物の動きが突然止まった。
次の瞬間、目の前の化け物が、まるで巨大な氷塊のように、一瞬で真っ白に凍りついた。そして、その凍てついた体が、音もなく粉々に砕け散る。
何が起こったのか、徹には理解できなかった。呆然と立ち尽くす彼の目の前に、一人の人物が姿を現した。細身の体にフィットした柔らかい黒のテーパードパンツと黒シャツに、これまた黒のスプリングコートがよく似合っている。腰には、日本刀のようなものを背負っていた。顔は髪で隠されており、その表情を読み取ることはできない。
「……誰、ですか?」
徹が震える声で尋ねると、その人物はゆっくりとフードを上げた。現れたのは、凛とした顔立ちの女性だった。どこか見覚えのあるような気がしたが、それが誰なのか、徹には思い出せなかった。
「ここは”臨界”だ」
女性の声は、澄んでいながらもどこか冷たさを帯びていた。
「いわばあの世と三途の川の境目、といったところか。」
全く状況を飲み込めない俺を置いていき、彼女は話を進める。
「お前は、死んだばかりだな」
臨界?境目?何を言っているのか、さっぱり理解できない。徹が混乱していると、女性は説明を始めた。
「この世界で死ぬことを還元という。還元とは、この世界における死を指す。魂が肉体ではキャパオーバーとなり、弾けて分離する現象だ。そして、今のお前を襲ったあれは、”亡魂”という。還元した者の魂が、自我のない精霊に吸収されたものだ」
徹は、目の前の女性の言葉を、まるで別の世界の物語を聞くかのように聞いていた。亡魂、還元、臨界……どれもこれも、彼が知る常識とはかけ離れたものばかりだった。
「お前は、この臨界で、自身の『固有妖技』に目覚めたばかりだ。それが、あの亡魂を凍らせた原因」
女性の言葉に、徹は自分の手を見る。何かした覚えは全くない。しかし、言われてみれば、確かに体が少しだけ冷えているような気がする。
「お前の固有妖技は、『冷』だ」
『冷』? 徹は、死んだ自分を思い出した。あの時の、全身を蝕むような冷たさ。それが、今の自分の力なのか。死因が力になるって、なんか嬉しいような、悲しいような…。
「あらゆるものを冷やすことができる。それが、お前の力だ」
女性は、そう言い切ると、ふと遠くの空を見上げた。鉛色の空には、うっすらと赤い光が差しているように見えた。
「あと50年」
女性の口から、突拍子もない言葉が飛び出した。
「50年で、この臨界は崩壊する。そして、そこにいる亡魂たちは、すべて現世に放たれる」
徹は、息を呑んだ。亡魂が現世に? そんなことが許されるはずがない。
「阻止するには、時空を操る力が必要になる。お前がここにいるのは、決して偶然ではない。お前の存在が、現世と臨界の世界線を歪ませている。だから、いずれ現世に戻れば、過去の自分を殺さなければならないだろう」
女性の言葉は、徹の理解をはるかに超えていた。現世と臨界の世界線? 過去の自分を殺す? あまりにも突飛な話に、徹は頭を抱えたくなった。だが、彼女の瞳には、一切の迷いがなかった。
「……あなたは、一体誰なんですか?」
徹は、女性に名前を尋ねた。彼女は、静かに首を振る。
「お前を信用したら、名乗っていいかもな。」
そう言って、女性は再びフードを深く被り直した。そして、何も言わずに、霧の奥へと消えていった。
残された徹は、ただ茫然と立ち尽くしていた。自分がなぜここにいるのか。なぜ死んだはずの自分が生きているのか。そして、この「臨界」とは一体何なのか。何もかもが、彼にとって未知の世界だった。しかし、一つだけ確かなことがあった。
彼は、ここで生きなければならない。そして、この崩壊寸前の世界を、何とかしなければならない。なぜなら、彼の死が、この世界の異変と深く関わっているのだから。
徹は、自分の手のひらをじっと見つめた。そこには、確かに「冷」の力が宿っている。凍てつく運命の始まり。彼の新たな物語は、ここ臨界で、静かに幕を開けたのだった。
女性が霧の奥へと消え去ってから、どれほどの時間が経っただろうか。渡邉徹は、ただ呆然と立ち尽くしていた。頭の中を、彼女の言葉がぐるぐると駆け巡る。「臨界」「還元」「亡魂」「固有妖技」「冷」、そして「あと50年で、この世界は崩壊する」という衝撃的な事実。あまりにも突飛な話に、現実感がまるでなかった。しかし、手のひらから伝わるひんやりとした感覚だけが、それが紛れもない現実だと徹に訴えかけていた。
彼は、自分の死の理由も、なぜここにいるのかも理解できていない。ただ、本能的に分かっていたのは、このままではいけないということだった。目の前で粉砕された化け物、そして自分を襲うかも知れない新たな脅威。そして、50年というタイムリミット。
「……冷、か」
徹は、右手を開いたり閉じたりしてみる。何も変化はない。しかし、意識を集中してみると、手のひらがわずかに、だが確実に冷気を帯びていくのを感じた。まるで、自分の体内から凍えるような空気が流れ出しているかのようだ。彼は試しに、近くに転がっていた小石に手をかざしてみる。すると、触れてもいないのに、小石の表面に霜が降り、瞬く間に白く凍り付いた。
「すごい……」
驚きに目を見開く。これは、夢ではない。紛れもない現実の力だ。
その時だった。再び、不気味な気配が徹の背後に迫る。振り返ると、霧の向こうから、別の亡魂が姿を現した。それは、先ほどよりも一回り大きく、いびつな形をしていた。徹の体は再び硬直しかけたが、今回は違った。湧き上がる恐怖の奥底で、彼は先ほどの女性の言葉を思い出す。「あらゆるものを冷やすことができる。それが、お前の力だ」
(そうだ!俺はただ立ちすくんでいるだけじゃない!力を手にしたんだ!)
徹は、意を決して右手を亡魂に向かって突き出した。心の底から、「冷やせ」と強く念じる。すると、彼の体から一気に冷気が噴き出し、亡魂を包み込んだ。亡魂は、まるで動きを封じられたかのように、その場でピタリと止まる。だが、先ほどのように瞬時には砕けなかった。表面に氷が張り付き、動きは鈍ったものの、まだ完全に凍結したわけではない。
「もっと……もっとだ!」
徹は、さらに力を込める。体中の熱が奪われるような感覚に襲われ、唇が青ざめていく。それでも、彼は諦めなかった。亡魂が、ゆっくりとだが、確実に氷塊へと変わっていく。そしてついに、まるでガラス細工のように、パリンと音を立てて砕け散った。
その場にへたり込んだ徹は、荒い息を繰り返した。体が震え、指先まで凍えるように冷たい。しかし、彼の顔には、安堵と同時に、確かな手応えが浮かんでいた。自分にも、この世界で戦える力がある。
「よくやった」
その声に、徹は顔を上げた。いつの間にか、あの謎の女性が目の前に立っていた。彼女は、フードを被ったまま、静かに徹を見つめている。
「今の力は、まだほんの序の口だ。お前はまだ、自らの固有妖技を理解しきれていない。凍死した者が『冷』の妖技を得るのは、決して珍しいことではない。だが、それをどこまで使いこなせるかは、お前次第だ」
女性はそう告げると、近くに落ちていた枯れ枝を拾い上げた。
「私の固有妖技は、『風』だ」
彼女がそう言うと、枯れ枝の先に、目に見えない風の刃が生まれたかのように、空間が歪んだ。そして、彼女が枯れ枝を振るうと、まるで鋭利な刀で斬り裂いたかのように、近くにあった岩がスパッと真っ二つになった。
徹は息を呑んだ。まるで漫画の世界のような光景だ。
「この世界には、科学は存在しない。あるのは妖術と魔法。そして、妖術の力を剣に込めたのが、私たちが使う”妖技”だ」
彼女はそう説明すると、徹に向かって枯れ枝を差し出した。
「妖技は、ただ力を出すだけでは意味がない。効率的な使い方、応用、そして何よりも、この体に宿る魔力の扱い方を学ぶ必要がある」
女性は、徹に訓練を施し始めた。それは、過酷なものだった。彼女は、一切の妥協を許さず、徹の「冷」の妖技を引き出そうとした。最初は、指先を冷やすことすらままならなかったが、彼女の厳しい指導のもと、徹は少しずつ、しかし着実に「冷」の妖技を制御できるようになっていく。空気中の水分を凍らせて小さな氷の刃を作ったり、足元の地面を凍らせて相手の動きを鈍らせたり、といったことができるようになった。
俺は一つ彼女に質問する。
「『風」ってことは・・・死因は台風とかですか?」
彼女はピクッと反応し、徹を指差し近づきながら大声で怒鳴りかかる。
「死んだ時のことを思い出させるんじゃない!あの時、私がどんなに辛かったか・・・」
つうっと目の端から涙の筋が通る。その目を見て、俺は考えを改めた。死んだことがなかったから分からなかったが、やはり死後は自分の死因など思い出したくもないのだろう。だが、それが自分の力になるなんてなんて皮肉なんだ・・・
とりあえず彼女の家に住まわせてもらうことになった。この世界にも建築家とかもいるのかな、などと考えながらも家に着いた。その頃には朝になっており、死界だというのに意外と緑は色鮮やかに茂っている。太陽(?)光で家は白い壁にチャコールグレーのアスファルトシングルのような屋根が目立つ。壁には多少の汚れはあるものの、掃除をした跡がある。意外と綺麗好きのようだ。
俺がぼうっと家を眺めていると、「まぁ入れ」と言われて、すりガラスの窓がついたドアから入ると、中はフローリングだった。電球のようなものがあり、光も灯っている。
「これは光の妖精と契約して光らせている。私の場合は少しの食糧とだな。」
この世界に来てまで”契約”なんて言葉を聞かなければならないのか、と少し落ち込んだものの、妖精やら妖術やら魔法やらで新鮮な面白さの方が勝っている。
次に二階を案内してくれた。「ここだ」と指差すと、そこには扉もない空き部屋があった。だが小物なども置いてかり、綺麗に整理されていて、暮らしていて悪い思いをすることはなさそうだ。
すると、彼女が口を開く。
「お前はここで暮らし、修行を積んでもらう。私より強くなったとき、お前が独り立ちするのを許そう。それまでの食費は全て私が負担するのだから、こんなにいい話はないと思うぞ?」
彼女は腕を組み、笑みを浮かべる。「なんか怪しいな・・・」
「なんだと!?せっかくいい話を持って来てやったと言うのに!じゃあいいさ、その辺の森で野宿でもしてな!」
やべっ!俺はすぐに謝る。「すいません!是非とも住まわせていただきたいです!」
「よし。それくらい素直になればいい。じゃあまずは訓練からだな!」
そういうと、俺はそのまま家の裏にある訓練場に連れて行かれた。森を円形に切り拓き、周りには薄く切った竹の壁が麻紐のようなもので固定されている。屋根はない。
「お前は、はっきり言って弱い。技を持っていないからだ。」
「技?妖技なら持ってるじゃないですか」
「違う違う。妖技を応用して出す技ってことだ。」
そんなものもあるのか。てっきり刀だけだと思っていたが。
「お前の場合だと、色々思いつくところはある。まず一番に思いついたのは、空気中の水分を冷やして氷にし、氷の刃を放つ、ということ。二つ目に、相手の足元を凍らせて、動きを鈍らせたり、滑らせたりする。足止めに使えるかもな。じゃあ今から練習だ!」
俺の胸は高鳴っていた。最初はあまり現実味がなかったが、ここまで来ればもう信じるしかない。俺は新しい力に目覚めたのだと!
〜二年後〜
俺は彼女の住む人っ子ひとり寄りつかない霧の深い山奥で修行を重ね、その体は引き締まり、気配だけで圧倒されるほどになった。
ある日、訓練の合間に、徹は再び女性に尋ねた。
「あの、あなたの名前は……」
女性は、一度は答えようとしなかったが、徹の真剣な眼差しに、やがて観念したように口を開いた。
「片桐玲」
その言葉に、徹の胸に一抹の既視感がよぎった。どこかで聞いたような名前だが、どうしても思い出せない。しかし、その名前が、後に彼自身の運命と深く関わってくることになるとは、この時の徹は知る由もなかった。
訓練は続き、徹は「冷」の妖技を深めていった。体中の魔力を集中させ、対象を瞬時に凍結させる練習。遠隔で冷気を送り込み、相手の動きを封じる訓練。彼の「冷」の妖技は、目覚ましい進化を遂げていた。そして、その過程で、徹は自らの妖技に隠された、新たな可能性に気づき始めるのだった。
片桐玲との過酷な訓練は、渡邉徹に「冷」の妖技の奥深さを教えてくれた。指先から放たれる冷気は、もはや小石を凍らせる程度のものではなく、亡魂の動きを一瞬で封じ、その活動を停止させるまでに至っていた。彼は玲の指導のもと、冷気の放出を制御し、効率的に魔力を使う術を体得し始めていた。枯れ枝で斬撃の軌道を教えられ、風の妖技が空気の巻き込みによって威力を増す原理を学ぶうちに、徹は自身の「冷」の妖技の応用範囲を広げるヒントを得ていた。
「冷気は、空気中の水分を凍らせることで、より強力になる……」
ある日の訓練中、徹はふと、そんな考えに至った。玲が亡魂を凍らせた時、その体には一瞬で大量の霜が付着した。それは、周囲の水分が急速に凝固した結果ではないのか?もし、空気中の水分そのものを操作できれば、もっと効率的に、そして広範囲に冷気を届かせられるのではないか。
彼は目を閉じ、意識を集中させた。周囲の空気から、水分の粒子を探るかのように感覚を研ぎ澄ます。しかし、何の手応えもなかった。玲は黙ってそれを見ていたが、何も言わず、ただ静かに徹の試行錯誤を見守っている。
何時間そうしていただろうか。徹は諦めかけたその時、微かな「流れ」のようなものを感じ取った。それは、目に見えない、しかし確かに存在する、空気中の水分の動きだった。彼はその「流れ」に、自分の魔力を重ね合わせるように意識を集中させる。すると、手のひらにひんやりとした感覚が増し、まるで水滴が吸い寄せられるかのように、空気がしっとりと湿っていくのを感じた。
「これは……!」
徹が目を開くと、掌の上には、確かに小さな水滴が浮かんでいた。彼はその水滴に、自身の「冷」の妖技を重ね合わせる。すると、水滴は瞬く間に凍り付き、小さな氷の粒となって、はらはらと地面に落ちた。
「やった……!」
興奮に打ち震える徹に、玲が静かに声をかけた。
「それは、『水』の妖技の兆候だ。自らの意思で、空気中の水分を操作したのだろう」
「水、ですか?」
ビックリだ。死因以外の力を使えるとは知らなかった。
「お前は、特異体質・・・いや、ただの偶然か」玲は何かを言いかけて淡々とそう言ったが、その瞳の奥には、わずかながら好奇の色が宿っているように見えた。
「二年間修行をしてきたのは無駄ではなかったようだな。私が今から言うのはあくまで仮説だ。期待をせず聞いてくれ。『水』と『冷』を組み合わせれば、理論上は『氷』の妖技へと昇華できる可能性がある」
「氷……!」
その言葉に、徹の胸が高鳴った。自分の凍死という運命と深く結びついた「冷」の妖技。そして、新たに発見した「水」の妖技。この二つを統合することで、さらに強力な「氷」の力を手に入れられるかもしれない。
訓練は、「冷」の深化と同時に、「水」の妖技の習得へとシフトしていった。空気中の水分を操り、剣に水を纏わせる練習。水分を集中させて、霧を生み出す試み。そして、その水を一瞬で凍らせることで、相手を閉じ込める、あるいは足場を固めるといった応用技も模索し始めた。
そんなある日、玲は徹を、とある場所へと連れて行った。そこは、広大な平原の果てにある、巨大な川のほとりだった。川の水は、禍々しいほどに暗く、煮えたぎるように泡立っている。近づくと、鼻を刺すような強烈な酸の匂いがした。
「あれが、向こうと、この臨界を分けている川だ」玲は、川面を見つめながら言った。「魔力による強酸性水へと変異しているため、渡ることはできない。もし触れれば、肉体は瞬時に溶け、魂さえも消滅する」
徹は、その光景に言葉を失った。この川が、唯一の境界線なのだろうか?
「この川の向こうには、さらに強力な化け物がいると考えられている。しかし、過去にこの川を渡った者は、たった3人しかいない。そして、彼らは全員、帰ってきていない」
玲の言葉に、徹の胸に不安がよぎる。もし、この川の向こうに、臨界の崩壊を阻止する鍵があるとしたら……。しかし、この強酸性の川を渡る方法など、あるのだろうか。
玲は、そんな徹の心中を見透かしたかのように、静かに続けた。
いかがだったでしょうか?まだまだ詰めの甘いところはありますが、コメント等で伝えてくだされば幸いです。どうか今後とも『臨界』をよろしくお願いいたします。