【プロローグ】この胸に、いや、希望を抱いていたのに
【プロローグ】──この胸に、いや、希望を抱いていたのに
私の名前は春野小春。高校一年生の、どこにでもいる……いや、ちょっとはカワイイ系女子。……だと自分では思ってた。
顔はそこそこ。性格は明るめ。声は高め。で、胸は、控えめ。っていうか……正直、まな板寄り。
でもいいじゃん!? これから育つって信じてたの! そう思ってたのに
『ドガッ!!』
トラックにはねられて死にました。うん。割とあっさり。
いやさ、私も異世界転生モノは読んだことあるし、トラックって多すぎだろとか思ってたけど! まさか自分がその洗礼を食らうなんて思わんじゃん!
そして目を覚ましたのは、どこまでも白くて何もない空間。
「……マジで、死んだ……?」
なんかもう、体の実感ないし、感覚もふわふわ。死後の世界って、こんな感じなのね。初体験。
で、そこに現れたのが――
「おお、目覚めたかのう。春野小春よ」
白髪ボサボサ、ローブに杖のお爺ちゃん。どう見ても神様です、本当にありがとうございました。
テンプレもいいとこで、ちょっと笑いそうになった。
「事故で死んだお前を、異世界へ転生させてやろう。職業とスキルを選ぶがよい」
うわ、やっぱりテンプレ!
「じゃあ……創造魔法使いがいい!」
「む、最弱の職業じゃが?」
「うん。でも、それがいい!」
最弱から成り上がるって、燃えるじゃん?(正直、ちょっとカッコいいって思った)
ジジイは何かぶつぶつ言いながら、やたら悪い顔してたけど――
「では、魔力だけ多めにしておいてやろう。創造魔法は威力半減じゃからの、ちょうどええ」
「は!? それ絶対ちょうどよくないヤツでしょ!」
「ま、まあ、気にするな。では、いってらっしゃい~」
ああもう、絶対あのジジイやらかしただろ。
──転生先、森の中。
まず何をするかって? もちろん、確認するでしょ?
「……たのむ……頼む、私の胸よ……」
ブルっと指先をふるわせながら胸に手を当てる。
ぺたん。
ぺったん。
「うわぁぁぁ!? ちょっ、嘘でしょ!? 前より……平ら……!?」
バフッとその場に膝から崩れ落ちた。
「ちょ、うそ……なんで……? なんで異世界でまでこんな扱いなの……?」
魔力が神話級? それより育つ方が大事なんだけど!? ねぇジジイ! おいジジイィィィ!!
もう一度だけ信じて触ってみるも、ぺったんこはぺったんこのこのままだった。
「マジで、神に訴えるレベルだわ……」
いや、神か。あのジジイ、マジで許さん。
ふらふら立ち上がって、「ステータス画面、オープン!」と叫ぶ。
ーー声で出るタイプでした。
「レベル1。経験値0。体力100。魔力、???(測定不能)。器用さ50。スキル:創造魔法(通常威力50%)」
「は!? またかよ!? なんで魔力だけ測定不能なん!?」
(ウィンドウ表示:「魔力:???(測定不能)」)
うわ、出た。意味わかんない。この世界、絶対やばい。胸はないし、魔力はありすぎだし、バランスおかしい。
そしてその夜。
夢の中に、アイツがまた出た。
「やあ、元気そうじゃのう。胸以外は」
「てめぇ、今絶対言ってはいけないこと言ったよね!!!」
──ドカッ!
「ぎゃああああ! 老人虐待反対! 神にも人権があるんじゃぁぁぁ!」(顔面直撃)
「私の人権が先だわ!!!」
もう、毎回これ。ジジイの顔見るたび、拳が出るのも当然じゃん。
でもその神様(仮)曰く――
「お前の魔力は、測定不能じゃ。神話級、というより神越え寸前かもしれん」
「え、なにそれ。こわ……」
「しかも、お前がいる世界は、異世界群の中でも最も危険なランクSSS世界じゃ」
「それを先に言えやああああああああ!!!」
──ドカッ!!
「うわあああん! わしの骨が!! 神にも骨があるのじゃよ!!」(肋骨骨折)
「もう二度と黙って重大情報隠すな!!」
夢から覚めた私は、森の中でひとり、ため息をついた。
「よし。胸は諦める。とりあえず、異世界生活、始めます……」
(ウィンドウ表示:「経験値+100。レベルアップ! 現在レベル2」)