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風の向こうに、君がいた。  作者: 宮滝吾朗
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【第74話】猫たちのしっぽ、風のなかで

春が、もうすぐ終わろうとしていた。

朝起きると、リビングには薄い日差しが差し込み、

ゴローちゃんはテーブルの脚に頭を押しつけて寝ていた。

シロさんは窓辺で、じっと外を見ている。

そのしっぽが、ぴん、と立った瞬間──

私は、不意に**“あの日の光景”**を思い出した。

あの春の夜。

埠頭の風のなかで飲んだ、濃いセイロンティー。

そして、突然飛び出してきた猫。

……しっぽが、まっすぐだった。

まるで、「こっちやで」と導くみたいに。

紅茶のポットを出そうと、棚を開けると、

奥の方に一冊のノートがあった。

昔、ふたりでつけていた「未来のアイデア帳」。

紅茶のお店のスケッチ、

ゴローちゃんとシロさんの似顔絵、

古い地図にマーカーで書き込んだドライブコース。

その1ページのすみに、ふとした走り書きがあった。

“一緒に暮らしている春、風が吹いたら、また行こう”

“猫たちが合図してくれるはずやから”

その字は、あの頃の私たちのものだった。

けれど──記憶にはない。

ハルくんに見せると、

彼はしばらく黙ったあと、うん、と小さくうなずいた。

「なぁ、ケイコ。今度の土曜、行こか」

「うん。行こ。あの海まで」

ふたりとも、何も言わなかったけど、

たぶん同じことを感じていた。

**

猫たちは、何も語らない。

でも、あの春の日から今日まで、

ちゃんと、私たちを“今”へと導いてくれていたんだと思う。

**

シンタが学校の宿泊学習に出かけた週末の朝。

ゴローちゃんとシロさんは、何かを知っているような顔で、

車の後部座席に収まった。

カリブではなく、ハスラーでのドライブ。

それでもいい。

もう、どの車でも構わない。

「ちゃんと、またここから始める」

「もう、誰にも言われなくても、大丈夫やから」

助手席で私がそう言うと、

ハルくんは静かに笑った。

Bluetoothから流れてきたのは、

“懐かしいけど、たぶん今作った曲”だった。

ゴローちゃんのしっぽが、風に揺れていた。

そのリズムに合わせて、私たちの春がまた始まろうとしていた。

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