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風の向こうに、君がいた。  作者: 宮滝吾朗
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【第73話】長い旅の終わりと、変わらない猫

エンジンをかけると、Bluetoothに繋がったカーナビから、

ふと音楽が流れ出した。

“また会える日まで、約束はいらない”

ケイコが黙ってうなずく。

それは、あの春に聴いていたカセットのリメイク版。

ユーミンでも、達郎でもなく、

その記憶の向こうで響いていた、自分たちだけの曲。

僕達が暮らす山あいの家に戻る道すがら、

道の駅で野菜を買って、コンビニでカリカリを買った。

ゴローちゃんとシロさんの朝ごはんが待っている。

家に着くと、

いつものように猫たちが出迎えた。

シロさんはまっすぐ僕にすり寄り、

ゴローちゃんはちょっと不機嫌そうに、ケイコの足元で転がった。

ケイコが笑いながら言った。

「ただいま。……私、ちょっと長い旅してたみたい」

僕も言った。

「おかえり。……俺も、帰ってきた感じや」

猫たちは、何も言わなかったけど、

でも、ふたりの言葉をちゃんと理解してるような目をしていた。

その日の夕方。

シンタが部活から帰ってきた。

「おかえりー、お腹すいた」

「はいはい、今すぐカレー温める」

そんな何気ないやりとりの中に、

ふたりの“いま”が、もうすっかり根を張っていることを感じた。

そして、その根っこには──

確かにあの“春”が息づいている。

**

もう、何も無理に説明しなくてもいい。

けれど──

たしかにあった。

ふたりだけが知っている、ひとつの季節。

**

夜、寝室の枕元に置かれたノートには、

ケイコの細い字で、こんな言葉が書き加えられていた。

“夜のつづきは、まだ終わってない。

だって、いま、昼のまんなかだもん”

僕はそのページをそっと閉じて、

猫たちが寝ているリビングを見渡した。

シロさんのしっぽが、

ゆっくりと動いていた。

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