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風の向こうに、君がいた。  作者: 宮滝吾朗
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【第72話】夢の出口、待っていた朝

気がついたとき、

僕はハスラーの運転席にいた。

シートを倒したまま、毛布をかけている。

足元には、キャンプ用に積んでいたアウトドアサンダル。

助手席では、ケイコがぐっすりと寝息を立てていた。

後部座席ではシンタも寝ている。


周囲を見回すと、

そこは──

**

道の駅。

あの、滋賀の帰り道に立ち寄った場所。

**

外は、まだ朝焼けの手前。

少しずつ東の空が白みはじめている。

何も起きていなかった。

事故もない。

ケイコもシンタ無傷。

車も無傷。

助手席に目を戻すと、

ケイコがゆっくり目を開けた。

「……ハルくん?」

「おはよう」

彼女は、あたりを見回して、

少しずつ目を見開いた。

そして、小さくつぶやいた。

「……夢、だったの?」

「わからん。けど──俺は、はっきり覚えてる」

ふたりは顔を見合わせて、

なにも言わずに、しばらく笑った。

車の窓の外に、

茶色い影が見えた気がした。

けれど、それはもう確かめなかった。

「……ハルくん、これって」

「うん。夢……なんかな。けど、やっぱり、そうとだけは思えへん」

僕たちは、道の駅の駐車場で、

ごく自然に目を覚ました。

体に痛みもなく、車も無傷。

さっきまで横転していたはずのカリブも、ハスラーに戻っていた。

けれど、胸の奥には、あの夜のことが、

まるで昨日のことのように残っていた。

埠頭の風。紅茶の香り。キジトラ猫の飛び出し。

そして──ケイコの手のぬくもり。

「ねぇ……」

ケイコが、後部座席に寝かせていた毛布を畳みながら言った。

「私、今何歳やったっけ?」

「えらい質問やな。……46やろ、今年」

「そっか、じゃあハルくんは?」

「58。どっちも、今日からな」

笑って答えながら、僕はハンドルを握った。

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