【第61話】未来の輪郭、地図にない場所を目指すノート
あの日から、何度かハルくんに会っている。
もう“偶然”じゃない。
ちゃんと「約束して会う」ようになった。
図書館の机。
駅前のベンチ。
時にはカリブの助手席。
だけど、ふたりで話すことは、
どれも“日常の延長線上”みたいなことばかりだった。
それが、すごくうれしかった。
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けれど最近、
私の中に、ひとつの“ざわめき”が生まれている。
未来のこと。
自分が“どんなふうに生きたいか”っていうこと。
そんな大きな話を、
この歳で考えるなんてちょっと恥ずかしいけれど──
でも、
「自分で決めたい」って気持ちだけは、
はっきりしていた。
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夜、ノートをひらいて、
未来のことを、箇条書きにしてみた。
・紅茶の勉強をもっとしたい
・猫と一緒に暮らしたい
・海の近くに住みたい
・ハルくんと、いつか同じ本棚を使いたい
最後の一行を書いたあと、
自分でくすっと笑ってしまった。
でも、消さなかった。
むしろ、ペンをもう一度なぞった。
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「将来の夢は?」と聞かれたときに、
“これです”って自信を持って言えるものはまだない。
でも、
“これじゃないものにはしない”というラインだけは、
自分で引いておきたいと思った。
そうやって決めたことなら、
きっと、ハルくんに会えない日がまた来たとしても、
自分で進んでいける気がするから。
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今度、ハルくんに言ってみよう。
「私、ちゃんと“決めたい”って思い始めたん」
まだ道は見えない。
でも、“そう思えたこと”だけは、大事にしたい。
未来の地図にはまだ名前のない場所。
でも、そこへ向かう方法は、
自分の手で描いていくしかないと、
今はちゃんとわかっている。
夜の風がカーテンを揺らした。
その音が、「それでええんやで」って、
背中を押してくれた気がした。




