【第46話】古いアルバム 令和にて
週末の午前。
部屋の掃除をしていたら、
クローゼットの奥から、見覚えのある箱が出てきた。
薄くて、黄ばんだ紙の匂い。
金色の縁取りがかすれた背表紙。
開いてみると、それは昔の──まだ20代だった頃の、古いアルバムだった。
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最初の数ページは、仲間たちとの飲み会やライブの写真。
広告研究会の夏合宿、沖縄行きのフェリー、木島平スキー場、琵琶湖、夜の木屋町…
誰もが若くて、よく笑っている。
懐かしい。
でも、それは“思い出す”というよりも、“過ぎたもの”として見ていた。
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ところが、中盤の見開きで、手が止まった。
そこに貼られていたのは、
舞子の浜辺を見下ろす丘の上で撮った一枚。
初代スプリンターカリブの横に立つ、自分の姿。
ルーフキャリアにくくりつけたウィンドサーフィン。
足元には白いスニーカー。
でも、その写真のすみっこ──
フレームにかろうじて入っていた、少女の後ろ姿に目が釘付けになった。
グレーのカーディガン、風に揺れる髪。
顔は見えない。
僕と出会った頃の20歳前後の姿でもなく、明らかに幼い…中学生くらいの少女。
でも、わかる。
「……ケイコや」
声にならない声が、喉の奥で震えた。
なぜこの写真があるのか。
いつ撮ったのか。
そもそも、当時の自分がカリブで舞子に行った記憶なんて、いくつもあるのに──
この後ろ姿だけは、ずっと思い出せなかった。
いや、もしかしたら、“思い出さないようにしていた”のかもしれない。
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アルバムを閉じて、カーテンを開けると、
春の光が差し込んできた。
あのときの光と同じだった。
あの浜辺で、ふたり並んで見ていた、あの光。
「紅茶入ったよ」
キッチンからケイコが呼んだ。
少女ではない、20年以上連れ添った、妻のケイコだ。




