【第34話】再会の気配、午後三時の改札口
日曜日。午後三時。
ふたりがよく待ち合わせていた改札口。
その日も、僕は何となくそこへ足を運んでいた。
目的があったわけじゃない。
ただ、身体がその場所へ向かっていた。
春の気配が少しだけ混じった風が吹いていて、
自販機の並ぶ壁に陽が射していた。
人の流れはゆっくりで、
制服姿の高校生たちが笑いながら通り過ぎていった。
そして、ひとり、
グレーのカーディガンと淡いベージュのスカートを着た少女が、
こちらに向かって歩いてきた。
ケイコだった。
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目が合った瞬間、
ふたりとも足を止めた。
彼女はすこしだけ眉を寄せて、
だけど口元は、ほんの少し笑っていた。
「……おひさしぶりです」
その言い方が妙に丁寧で、ふたりして少し笑った。
「うん。久しぶりやな」
「……なんか、会うの怖かってん」
「うん。なんか分かる」
それは、言い訳でも、責めでもなく、
おたがいの心の“間”を認めあうような言葉だった。
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喫茶「風月」へ行こうか、という提案をしかけたとき、
ケイコが小さく首を振った。
「今日は、歩きたい気分。ちょっとだけ、どっか遠回りしてもええ?」
「ええよ。どこでも行こ」
ふたりは駅を背にして歩き出した。
商店街の方でもなく、図書館でもない。
ただ、歩いたことのない道を、静かに並んで。
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しばらく歩いたあと、
ケイコがポケットから何かを取り出した。
それは、少し折れ曲がったポストカードだった。
あの、以前ふたりで選んだうちの一枚。
「ずっと、これ持ち歩いててん。
あの日、会えへんかった日も、ポケットに入れてた」
彼女はそれを僕に差し出した。
裏面には、薄く消えかけた鉛筆の文字があった。
「また、どこかで」
僕が書いた、あの日の言葉だった。
「私、それ、何回も読み返してた。
ほんまは、その“どこか”がここやったらええなって、ずっと思ってた」
僕は、ポストカードを受け取らず、
彼女の手の中にそっと戻した。
「それ、君が持っといてくれる方がええわ」
ケイコは、うんと小さく頷いた。
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風が少しだけ強くなって、
彼女の髪が顔にかかる。
僕は手を伸ばしかけて、でもやめた。
その距離感が、まだ美しいと思った。
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「……また、会ってもええ?」
ケイコが、すこしだけ下を向いたまま言った。
「“また”って言わなくても、ずっとそうするつもりやった」
僕がそう言うと、彼女は顔を上げて笑った。
「私も、たぶん、そう思ってた」
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日が傾きはじめた道を、ふたりでまた歩き出した。
再会は、ドラマみたいな抱擁でも、涙でもなく、
ただ静かな歩幅と、呼吸の重なりだけで十分だった。
そして、それはたしかに、
“もう一度はじまるふたり”の、最初の一歩だった。




