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婚約者候補が4人?番のお相手は1人、ですよね?

作者: Tayu

初めて投稿します。

よろしくお願いします。


誤字脱字のご連絡、ありがとうございます!

 「それでは4人とも、エレノーラに自分の“番”として求婚する、ということでよろしいのかな?」

 父であるゴールディング伯爵の言葉が響きます。その言葉に、わたくしの前に座っている4人の男性は揃って頷きました。

 

 

 今日、王都にあるゴールディング伯爵邸には、4人のお客様がありました。

 応接室に通されたそのお客様の前にテーブルをはさんで、屋敷の主であるゴールディング伯爵とその次女のわたくし、エレノーラが座りました。


 昨日、わたくしは王都で開かれたお茶会に初めて出席したのですが、目の前に座る男性たちはその時にわたくしを見初めたというのです。

 しかも自分の“番”として。


 この国は竜によって作られたとの伝承があります。そしてそれが真実だと認められているのは、時折、竜の力を持つ者が現れるためです。

 竜の力が現れるのは、“番”と呼ばれる彼らの最愛であり唯一の存在に巡り合えた時。竜の力に目覚めた者は国を動かすほどの力を発現し、さらにその子供たちも例外なく優秀なため、国は“番”を制度として確立させています。

 

 “番”が増えるほど国が栄えるからです。


 「……それでは規則の通り、半年間様子を見ることにいたしましょう。4人全員と婚約はできませんから、婚約者候補ということでよろしいですかな。国への報告は私の方で出しておきます」

 父ゴールディング伯爵の言葉に4人は頷きました。


 男性のみが相手を自分の“番”だと感じることができます。女性の方は相手の男性が“番”なのかどうかはわかりません。つまり自分の“番”を見つけることができるのは男性だけなのです。

 

 しかし半年も経てば、男性が自身の“番”を見つけた事が誰から見てもわかるようになります。

 男性は“番”に出会ったことで竜の力が目覚め、力の解放と共にその瞳の虹彩が金色へと近づきます。その瞳を見れば、本当に“番”が見つかったのだと、誰の目にもはっきりするのです。

 

 本来、国の手続としては、男性が“番”を見つけた時点で女性の家に直接申し込みをし、その後王宮に届を出すことで仮の婚約が成立します。そして半年以上の婚約期間を経て竜の目覚めの後に本婚約、結婚へと進むのです。

 しかし“番”として名乗りを挙げる者が複数人の場合、当然その全員と婚約することはできません。

 

 今回のように複数人の“番”候補が現れることはまれですが、全くないことではありません。建国時には濃かった龍の血が薄まっているからともいわれていますが、はっきりとしたことはわかりません。この男性側の勘違いによって様々な問題が起こったため、国が制度をしっかりと確立することにもなったのです。

 

 ともかく父伯爵はこの状態で半年待つことを決めました。半年経てば誰がわたくしの“番”なのか、はっきりするはずです。もちろん4人とも違う場合もあり得るのですが。


 とはいっても、4人もの男性に同時に“番”の求婚をされたのですから、わたくしも内心はどきどきしております。

 

 女性にとって、“番”と呼ばれ求婚されることは至上の幸福と言われ、女性ならば誰もが憧れを持っています。

 お相手の男性は竜の力を発現させる誰よりも力強き者。その唯一の存在となり、一生あふれる程の愛情を注がれ、幸せな結婚が約束されているのですから。

 

 竜の“番”となった女性たちが苦笑しながらたったひとつため息を吐くのは、愛が重い、という点だけでしょうか。

 

 わたくしは笑顔を浮かべ、ここは父伯爵に任せることとし、ほほ笑んだまま紅茶のカップを手に取りました。


 わたくしの前に座っている4人の男性。

 男性の方が美しいといわれるわが国。当然4人ともとても見目麗しくキラキラした方ばかりなのですが、全員がわたくしを見つめていて、自然とわたくしも頬が赤らんでしまいます。

 

 ジェレミー・アディントン伯爵令息・19歳。明るい金髪に淡い緑の瞳。目が合うと照れたように笑う顔がとても優しそうに見えます。

 

 ランドルフ・ファーガソン子爵令息・17歳。茶色がかった金髪に深い緑の瞳。眩しいほどにきらきらとした瞳で見つめてきます。

 

 エリオット・クレヴァリー第三王子・15歳。銀色の髪に明るい空色の瞳。銀色の髪と明るい水色の瞳は王家の色。4人の中で一番年下の彼は自分の他の求婚者たちを見て少し居心地が悪そうです。

 

 アレクシス・ベレスフォード侯爵令息・20歳。淡い金髪に深い海の色の瞳。とても整った顔立ちですが、なぜだか父伯爵をじとりと睨みつけてます。きっと笑えばとても素敵でしょうに、と少し残念に思います。

 

 4人ともこれでもかとキラキラしさを振りまきながらも、お隣の様子をうかがっているような感じも見受けられます。“番”だと思った女性に、自分の他に3人もの“番”候補が現れれば、それは驚くことでしょう。

 

 

 落ち着かない空気の中、控えめなノックの音が響きました。

 

 「お父様、アーリンです。お呼びでしょうか」

 「……入りなさい」


 ドアに向かって父伯爵が声をかけました。

 「失礼いたします――」

 ガチャガチャガタバタッ!!

 カチャリとドアが開くと同時に大きな音が響き、その場にいる全員が大きな音の方に視線を向けました。


 「「「「「「「…………」」」」」」」


 全員の視線を集めたのはジェレミー・アディントン伯爵令息。中腰になり立ち上がりかけていたジェレミー卿ですが、視線に気が付くと「も、申し訳ありません」と狼狽えながらソファに座りなおします。顔を真っ赤にし、先程にも増してそわそわと落ち着きません。


 それを横目に父伯爵はごほん、と咳ばらいをひとつしてアーリンを紹介します。

 「長女のアーリンです。アーリン、こちらの方々はエレノーラを“番”と感じ、求婚に来られた方々だ」

 

 ゴールディング父伯爵の言葉に、アーリンは4人に向かってにっこりとほほ笑みました。

 「ゴールディング伯爵家長女、アーリンでございます」

 

 「あ、あの!」

 突然ジェレミー卿が声を上げます。全員の視線が再び集まりますが、ジェレミー卿はただただまっすぐにアーリンだけを見つめています。その顔色は、今度は白。真っ白です。


 「なんでしょう、ジェレミー卿」

 父伯爵がジェレミー卿に向き直ります。

 「……あの、」

 一瞬迷ったような表情を浮かべたジェレミー卿が思い切ったように口を開きます。

 「申し訳ありません、わたしは思い違いをしておりました。アーリン様、彼女こそ、わたしの本当の“番”です」

 

 ジェレミー卿はソファから立ち上がりました。

 「どうかこの場でアーリン様へ求婚する許可をお与えください」

 そう言って父伯爵に向かって頭を下げます。

 

 父伯爵はじっとジェレミー卿を見つめ、少し考えた後頷きました。

 「……いいでしょう」

 その返事に、ジェレミー卿がぱっと頭を上げます。

 「アーリン、こちらはジェレミー・アディントン伯爵令息。その方を“番”と感じたようだ」

 父伯爵の言葉にアーリンが驚きの表情を浮かべました。


 ジェレミー卿はするりとアーリンの前へと進むと、その場に跪きます。その瞳は先程わたくしを見ていた時よりも煌めいています。

 「アーリン様、わたしはジェレミー・アディントンと申します。あなたこそわたしの“番”。どうかあなたの傍にいる幸福をお与えください。求婚を受けてくだいませんか」

 

 ジェレミー卿はアーリンに向かって真っすぐに手を差し伸べました。もうアーリン以外何も見ていません。というか見えていません。

 ジェレミー卿に見つめられたアーリンの頬が赤く染まります。少しだけ困ったような表情で父伯爵を見たアーリンですが、父が頷くのを見てジェレミー卿の手に自分の手を重ねました。


 「わたくしで、よろしければ……」

 アーリンに承諾の返事をもらったジェレミー卿がこれ以上ないぐらい幸せそうな表情を浮かべます。ジェレミー卿はそっとアーリンの指先に唇を当てるとその手を取ったまま立ち上がりました。


 「アーリン様、ゴールディング伯爵、ありがとうございます。アーリン様、あなたという“番”と巡り合うことができたのは、なんという幸せでしょう。今日ここに来たのは間違いではありませんでした。これから急いで家に戻り、婚約の手続きをいたします。本当でしたら一時もあなたと離れてたくはありませんが、あなたと正式に婚約するためには……」

 「……ジェレミー卿」

 どこまでも続きそうなジェレミー卿の言葉を父伯爵が遮りました。

 

 「あ、失礼いたしました。あまりの幸運に我を忘れて……アーリン様、後ほど、いえ、手続きが終わりましたらすぐに連絡致しますね」

 ジェレミー卿の言葉にアーリンは真っ赤になってうなずきました。ジェレミー卿は名残惜しそうにアーリンの手を離すと父伯爵に向かって頭を下げます。

 「今日はここで失礼させていただきます」



 ばたばたと部屋から出ていくジェレミー卿を見送り、わたくしはほっと息を吐きます。

 ジェレミー卿の本当の“番”はアーリンでした。ごくまれに、このような“番”を勘違いしてしまうことがあるのです。そして勘違いの相手は、何故だか本当の“番”に親しい女性が多いのです。何かが龍の琴線に触れるのでしょう。

 それもあり、父伯爵はわたくしの姉をこの場に呼んだのでしょう。

 

 アーリンはわたくしの横に腰を下ろしました。

 

 

 アーリンの前に紅茶が置かれた瞬間、再びノックの音が響きました。


 「お父様、クラーラです。お呼びでしょうか」

 「……入りなさい」


 アーリンの時と同じように、ドアに向かって父伯爵が声をかます。


 「失礼いたします――」

 ガチャガチャガタバタッ!!

 カチャリとドアが開くと同時に大きな音が響き、全員がその音の方にスタッと視線を向けました。


  「「「「「「「…………」」」」」」」

 

 その視線の先にいたのはランドルフ・ファーガソン子爵令息。先程のジェレミー卿と同じ、やはり中腰になり立ち上がりかけています。

 ランドルフ卿も視線に気が付くと赤くなり、「も、申し訳ありません」と狼狽えながらソファに座りなおしました。顔を見ると、先程の同じジェレミー卿と同じように青ざめています。

 

 その様子を横目に、ゴールディング父伯爵は先程と同じようにクラーラを紹介します。

 「三女のクラーラです。クラーラ、こちらの方々はエレノーラを“番”と感じた方々だ」

 「まあ、お姉さまの!ゴールディング伯爵家三女、クラーラでございます」

 父伯爵の言葉に、クラーラはにっこりとほほ笑みました。


 「あ、あの!」

 ランドルフ卿が声を上げました。全員の視線が再び集まりますが、ランドルフ卿はまっすぐにクラーラだけを見つめています。恐らく、クラーラしか見えていないのでしょう。その顔色は、今度は少しだけ赤くなっていいます。

 これは――、でしょうか。


 「なんでしょう、ランドルフ卿」

 父伯爵がそれに答えます。ゴクリと、ランドルフ卿の喉が鳴りました。

 「わたしはエレノーラ様への求婚を取り下げさせていただきます。今わかりました。クラーラ様こそ、わたしの本当の“番”です。どうかこの場でクラーラ様への求婚をお許しください」

 そういうとランドルフ卿はソファから立ち上がり父伯爵に向かって頭を下げました。

 父伯爵はやれやれといった態で頷きました。


 ランドルフ卿は父伯爵にもう一度頭を下げると、クラーラの前へと進み、その場に跪きました。

 「クラーラ様、あなたこそが本当のわたしの“番”。あなたに会えた幸運に感謝します。どうかあなたの手を取ることをお許しください」

 ランドルフ卿はクラーラに向かって真っすぐに手を差し伸べます。

 ランドルフ卿に見つめられたクラーラは真っ赤になり、きょろきょろしています。少しだけ挙動不審ですが、クラーラは、父が頷くのを見てランドルフ卿の手に自分の手を重ねました。


 「……よろしくお願いします」

 ランドルフ卿の顔がぱあっと輝きます。それはわたくしを見つめてキラキラしてた時よりも何倍も眩しく見えました。

 ランドルフ卿はそっとクラーラの指先に唇を当てると、その手を取ったまま立ち上がりました。

 

 「クラーラ様、ゴールディング伯爵、ありがとうございます。これから急いで家に戻って婚約の手続きを進めます。クラーラ様、ここであなたに会うことができ、わたしはなんて幸せなのでしょう。もっとゆっくりお話をしたいのですが、ともかくきちんと婚約を結ぶのが先ですね。届はわたしが出しておきます。今日はここで失礼させていただきます」

 

 ランドルフ卿は父伯爵に向かって頭を下げました。誰から見ても幸せいっぱいのランドルフ卿に、父伯爵は大事なことを告げます。

 「ああ、ランドルフ卿、クラーラはまだ13歳だから、結婚は早くても3年後だ」

 「ぐっ……」

 ランドルフ卿は一瞬言葉に詰まりますが、すぐに笑顔を取り戻しました。

 「いえ、クラーラ様と結婚できるのでしたら、いくらでも待ちますとも」

 

 ランドルフ卿はクラーラに向き直ると愛おし気にそっとその手を取ります。

 「クラーラ様、今日は失礼しますが、また、すぐにお会いしましょう」

 ランドルフ卿の言葉にクラーラはほほを赤らめながらもにっこりとほほ笑みました。


 ばたばたと部屋から出ていくランドルフ卿を見送り、クラーラはアーリンの横に座ります。

 残る二人の男性、アレクシス卿とエリオット殿下に父伯爵は再び問いかけました。

 

 「それではお二人はエレノーラに自分の“番”として求婚する、ということでよろしいのかな?」


 「あ、あの!」

 声を挙げたのはエリオット殿下でした。全員の視線が集まります。


 「なんでしょう、エリオット殿下」

 父伯爵がそれに答えます。エリオット殿下が控えめに話し出しました。

 「――わたしは、エレノーラ様への求婚を取り下げさせていただきます。ジェレミー卿とランドルフ卿を見ていてわかりました。男性が“番”に会えた時にどのようになるのか――」

 

 エリオット殿下はちらりと横に座るアレクシス卿を見ます。

 「そして、この部屋に入った時から、なんというか……アレクシス卿の圧が物凄いのです。エレノーラ様がいらしてからは抑えているようなのですが……」

 そう言って苦笑を浮かべました。

 「彼を乗り越えてエレノーラ様に近づくのは、私には難しいと感じます」

 エリオット殿下は父伯爵とわたくしに向かって頭を下げました。


 「……それではアレクシス卿、残ったのはあなたですが、どうされますか?」

 「エレノーラ様は私の“番”です。求婚をお許しください」

 頭を下げるアレクシス卿に父伯爵は頷きました。


 アレクシス卿が立ち上がり、わたくしも立ち上がります。アレクシス卿はまっすぐにわたくしの前まで来ると跪きました。

 「エレノーラ様。私の“番”。世界で唯一の私の“番”。心からあなたを愛しています。私の人生をかけてあなたを幸せにします。どうか私の手を取っていただけませんか」

 アレクシス卿の瞳が不安と、それ以上の情熱で揺れています。

 「はい」

 わたくしはほほ笑むと差し出された手に自分の手を重ねました。

 

 アレクシス卿はわたくしの指先に軽く唇をつけるとその手を取ったまま立ち上がります。そして蕩けるような笑顔を浮かべたのでした。その笑顔の破壊力にわたくしは真っ赤になって俯いてしまいました。笑顔を見たいとは思いましたが、この笑顔は心臓に悪すぎます。


 「それではエレノーラの仮婚約はアレクシス卿と結ぶという事で、こちらは私の方で届を出しておきます」

 「はい。本日はありがとうございました。また改めてご挨拶に伺います」

 父伯爵はその場で執事に指示を出すとエリオット殿下に向き直った。


 「エリオット殿下にはわざわざご足労頂いたのに申し訳ありません」

 「いえ、元は私が勘違いしたせいですから。それに、“番”についての認識も改めることができましたし、有益な時間でした」

 笑顔で答えるエリオット殿下に父伯爵は頭を下げます。

 

 「――ところで、ゴールディング伯爵には他にもお嬢様がいらっしゃったりは……」

 「いえ、娘は3人だけです」

 少し前のめりにエリオット殿下が尋ねますが、父伯爵に即座に否定されてしまいました。

 「娘はおりませんが、姪や親せきで独身の者はおりますから、殿下のご都合がよろしければ、場を設けさせていただけます」

 「ぜひ、よろしく頼む」

 父伯爵の言葉に、エリオット殿下はその日一番の笑顔で頷いたのでした。


 

 


 その後半年も経たずにアレクシス、ジェレミー、ランドルフの3人は瞳に龍の証が現れ、ゴールディング伯爵の娘たちと正式に婚約を結ぶことになった。

 仮婚約の間も正式に婚約を結んだ後も、3人はそれぞれの“番”に会うために足繫くゴールディング伯爵邸に通った。

 

 そしてさらに半年後にはゴールディング伯爵長女のアーリンとジェレミーの結婚式が、更にその半年後には次女エレノーラとアレクシスの結婚式が執り行われた。三女クラーラとランドルフの結婚式はクラーラの成人を待っているため、2年後の予定だ。

 

 なかなか“番”の見つからないこの時代に、3姉妹全員が“番”を見つけたというニュースは明るい話題として広がった。

 ゴールディング伯爵家の姉妹は“奇跡の3姉妹”として、“番”である夫たちはその優秀さで、広く名前が知られていくこととなった。

 そして龍の栄光が約束されたゴールディング伯爵家はさらに威光を増すこととなる。

 

 エリオット殿下はゴールディング伯爵の親戚筋の女性たちに次々に顔つなぎをしてもらったが結局“番”が見つかることはなく、それでもゴールディング伯爵家の婿となる3人との交友は続いていったのだった。



 

 ――――――――


 いつものように執務室で仕事をしているとノックの音がして執事が入ってきた。

 「アレクシス様、エリオット殿下がいらっしゃいました」

 「ああ……そういえば視察から戻ったんだったか」


 エレノーラに“番”として求婚するためにホールディング伯爵邸を訪れたあの日、なぜだか自分の他に3人もの“番”候補が集まっていた。

 その中にエリオット殿下も混ざっていた。

 

 ジェレミー卿とランドルフ卿はぞれぞれエレノーラの姉と妹の番だと判明したのだが、エリオット殿下の番は見つからず、結局今になっても番は見つかっておらず、当然竜の力に目覚めてもいない。

 それなのになぜだかエリオット殿下は今でもエレノーラに会いに来る。

 しかもわりと頻繁に。

 エレノーラは正式に俺の妻になっているのだ。少しは遠慮して欲しいものだ。

 先日までエリオット殿下は視察で海外に出ていたから、来るのは1か月ぶりになる。

 エリオット殿下がエレノーラに会いに来たとしても、当然2人で会わせるわけがない。同席は必須だ。


 

 「やあ、久しぶり。お邪魔しているよ」

 応接室のドアを開けるとエリオット殿下が手を上げた。

 「お久しぶりです……」

 「ああ、いいよいいよ、いつも通りで。堅苦しいのはなしにしよう」

 頭を下げて挨拶しようとする俺をエリオット殿下が遮った。

 「知っていると思うけどこの間まであちこち視察に回っていたんだ」

 エリオット殿下はにやりと笑う。エレノーラに会いに来ただけではなくいろいろと報告があるようだ。



 ソファに座って近況を聞いているとノックの音がした。エレノーラが来たようだ。

 「エレノーラ?今開けるよ」

 俺は立ち上がると自ら部屋のドアを開けた。

 「ありがとうございます、旦那様。エリオット殿下お久しぶりでご――――」


 ガチャガチャガタバタッ!!

 エレノーラがエリオット殿下に向き直ると同時に大きな音が響き、俺とエレノーラは音の方へと視線を向けた。


 「「……」」

 


 その視線の先にいたのは当然だがエリオット殿下。

 というか部屋の中にはエリオット殿下しかいないのだ。その殿下は中腰になりソファから立ち上がりかけている。

 

 既視感に、俺とエレノーラは固まった。

 エリオット殿下も視線に気が付くと赤くなり、「す、すまない」と狼狽えながらソファに座りなおした。その顔色は青ざめている。


 「……エリオット殿下?」

 恐る恐る、エレノーラがエリオット殿下に声をかける。

 

 「いや……そんな、まさか……」

 狼狽えながら、エリオット殿下はエレノーラを見つめている。まっすぐに。さらなる既視感に俺はすごくすごく嫌な予感がした。

 

 「エリオット殿下?」

 俺の呼びかけに、エリオット殿下は思い切ったようにソファから立ち上がるとこちらへと、いや、ただただまっすぐにエレノーラを見つめながら近づいてくる。


 俺はエレノーラを後ろへと隠すように前へ出た。

 

 「エリオット殿下?どうされたのですか。」

 「……見つけた!彼女は……彼女がわたしの“番”だ!」

 「お待ちください、エリオット殿下。エレノーラはわたしの“番”です!エリオット殿下もご存じではありませんか!」

 「違う!エレノーラではなくて、エレノーラのお腹の子供だ!わたしの“番”だ!」

 「「…………え?」」


 俺とエレノーラは顔を見合わせた。

 「……子供?お腹に?」

 「そう!そうだ!その子がわたしの“番”だ!」

 「「……!!!」」


 慌てて医者を呼びエレノーラが診察を受けてみると、確かにお腹に子供がいることが分かった。

 しかしまだ本人も妊娠に気が付いていない初期の初期にエリオット殿下が気が付くとは……このお腹の子がエリオット殿下の“番”?まだ性別さえわからないのに?

 俺はまだ何の兆候も表していないエレノーラのお腹に目をやった。

 

 お腹の子がエリオット殿下の“番”。どれだけ探しても見つからなかったのは、まだ生まれていなかったからなのだろうか。

 

 俺は首を振った。

 「エリオット殿下――子供はまだ生まれてもいません。手続きや婚約などは、できれば、子供が生まれて、少し大きくなって、話がわかるようになってからでいいでしょうか」

 「あ、いや、うん、わかっている――わたしも、龍の力が目覚めるまで半年は待たなければならないし」

 

 エリオット殿下は慌てて頷く。半年後でも子供はまだ生まれていない。やっと性別がわかるぐらいにはなっているだろうか。

 

 「ああ、でも“番”が見つかった時は、こんな気持ちになるものなんだね」

 うっとりと幸せそうなエリオット殿下に、俺もエレノーラも何も言わなかった。俺も“番”に会えた時の気持ちは痛いほどわかっている。

 「ともかく、王宮に戻って“番”が見つかったって報告してくるよ」

 

 エリオット殿下は立ち上がるとエレノーラに……正確にはエレノーラのお腹に向かってほほ笑んだ。

 「わたしの“番”。また会いに来るよ」


 「この子がエリオット様の“番”……」

 「エレノーラに魅かれたのはそういうことだったからなのか?」

 「わかるような、わからないような――ともかく、生まれてみないことにはね」

 俺とエレノーラ顔を見合わせた。

 



 2か月ほどで、エリオット殿下の龍の力は発現し、お腹の子は生まれる前に婚約者に内々定したが、少し大きくなるまでは対外的な発表は伏せられることになっている。

 王子の“番”という事で、危険が全くないというわけではないからだ。

 龍の力が発現したエリオット殿下だが、今では3日と空けず屋敷へと通ってくる。

 日に日に大きくなるエレノーラのお腹をうっとりと見つめるエリオット殿下を見るたびもう嫁に出すことが決まってしまったのだと胸がツキンと痛むが、優秀な息子ができるのだとエレノーラに言われ、無理やり納得することにした。


 おそらくエリオット殿下を見るたびに複雑な気持ちになるとは思うが、そんな複雑な気持ちを抱きつつも、やはり“番”に巡り合えるのは何よりも幸運だと思うのだった。

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つがいって、成熟して繁殖期を迎えた雄と雌がなるのでは? 13才の未成熟な少女を性的対象として扱うだけでも酷いのに、胎児!? きっも。 こいつらみんなリアルに獣以下
なんてこと!超年の差婚になりますね! 母体だったから彼女自身を番と誤認してしまったのでしょうか。 生まれてから結婚出来る年齢になるまでさらに待たないといけませんね。 しかも、三姉妹とのやりとりを見る…
 これ、あくまでも婚約申し込みの段階で勘違いが発覚したから良かったものの、王子の察しが悪かったりアレクシスも勘違いだったりしてて、婚姻までトラブルがもつれ込んでたら悲劇でしたね…。  番によって竜の…
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