怪異探検~花子さんと心深ちゃん~
どうして私はここにいるんだろう…
ここはどこ?
私は何故歩いているの?
こんな景色知らない
住宅街のような所を歩き、両側は塀しか見えない細道を歩いている
私の足は知っているかのように意思とは関係なく勝手にどんどん進めていき、やがて同じぐらいの年頃の少女が見えると、今度はその子を追うように歩を進めていた
茶髪の髪を肩ぐらいまで伸ばしていた少女だが、奥に進むほど少女が大きくなっていた
女性の姿になった彼女は表札のある所で止まった
人一人しか通れない程の細い道を煉瓦のようなコンクリートのような塀で両側は囲まれており、表札もそこに貼り付けられていて普通の家の構造では変だと感じた
勝手口のような扉があるのかと確認するために女性に近付こうとしたが足は動かず、女性が扉のように塀を引いて開けると、こちらに視線を向けて驚いたような顔をしていた
「驚いた…普通の人間がここまで来るなんて、迷子になったの?」
「近道と思って歩いたらいつの間にか知らない所に来て…」
自然と溢れた言葉に内心驚きながらも言葉を紡いだ
やがて女性は苦笑いのような顔をすると、次にどうすれば良いのかを話してくれた
「この道に沿って進むと古い建物があるから、そこを通れば貴女の目的地まで行けるはずよ…恐らく入り口で女の子に会うと思うけど、その子に事情を話せば大丈夫よ」
そして何処からか取り出した根付けを渡すと、「頑張ってね」と一言言って中に入ってしまった
お礼を言うこともできず中に入ってしまった彼女に私は直ぐに表札に近付いたが、扉の取っ手は見えず、ただの壁にしか見えなかった
しかし、表札には伏見という名で札がかかっていた
「伏見?…伏見さん、ありがとうございました!」
聞こえているか分からないが、私は塀の向こうにいるだろうさっきの彼女に聞こえるようお礼を言い、言われた通り進んでいった
彼女の言った通り、奥に進んだ先には古い建物の入り口が見えた
少し覗いた所は朽ちており、窓ガラスが割れて散乱していた
「何で人間がここにいるの?」
声のした方を向くと、おかっぱ頭に赤いスカートを穿いた少女が立っていた
見た目は都市伝説に出てくるトイレの花子さんだが、トイレにいないなんてことがあるのだろうかと私は不思議に思った
それを感じ取ったのか、少女は「アンタが思ってる通り花子よ」と一言言った
「それで、アンタの名前は?」
「心深…新垣心深です」
「ふーん…どうして此処に?」
私は今までの経緯を全て話し、花子さんにこの先を進みたいとお願いした
花子さんは話を聞いた後大きな溜め息をつくと、根付けを誰に貰ったか聞いてきた
私は伏見さんだと答えたが、花子さんは名字ではなく下の名前を聞きたかったらしい
しかし、名前を知らない私は伏見さんの特徴を話すことしかできなかった
「あの女狐ね…それ、失くさないようちゃんと持ってなさい」
「もちろんです!直接お礼も言えてないし、恩人から頂いたものを失くすなんて」
「本心なのが達悪いわ…ココは大人だけど大丈夫そうね。子供っぽいからかしら?ほら、手出しなさい。私と手を繋いで行くわよ」
「花子さん、どうして手を繋ぐの?それからココってもしかして私のこと?」
私が困惑しながらも手を繋ぐと、小さな手は予想と違って温かく、少女の花子さんに手を引かれながら説明を受けた
「外出るまではちゃんと私と手を繋いで私の言うことを聞くのよ。死にたくないならね…それとなるべく静かにね、私は煩い奴が嫌いなの」
「う、うん。でも、ビックリしたら叫びそう」
「叫んでも良いけど、私が気まぐれ起こしてココから手を離すかもよ」
ニヤリと意地悪そうな顔をする花子さんに、私は全力で首を横に降った
その様子を面白そうに見ていた花子さんは「そうならないよう頑張りなさい」と一言言って歩みを進めた
途中おぞましい声や物音に驚きながらも、なるべく声を出さないよう我慢しながら心深と花子さんは奥へ奥へと進んだ
花子さんは心深が約束通り手を繋ぎ、声を出さないよう頑張ってる姿とビックリして小動物のように体が跳び跳ねている姿に笑っていた
「(ホントに頑張ってるわね…くすくす、あーあ、泣きそうな顔してる)ほら、もうすぐ着くわよ」
あからさまにホッとした姿に我慢できなくなりそうになったが、平静を装って花子さんはガラガラと扉を横に開けた
扉を開けた先は先程の景色とは異なり、境内のような場所だった
中に入るといつの間にか扉は消えており、障子のある部屋へと様変わりした
心深は部屋に一つだけ置いてある置物に不気味さを感じたが、暗い部屋故だと思いあまり見ないようにした
「ココ、手離して良いからそこに体育座りして」
「う、うん…何処か行くの?」
「ちょっと他の部屋に行ってくるから、何があってもそこから一歩も動いちゃ駄目よ…死にたくないでしょ?」
花子さんがそう言うと扉の開く音がし、びくりと身体が跳び跳ねた心深に花子さんは笑ったが、人の声がすると心深は顔をそちらに向けた
「え…人?」
「ココと一緒に待つ子達。ほら、そこの二人もそこに座って…説明は聞いてるでしょ?」
「はい。あの、私は…」
「名前はあとで聞くからさっさとして」
少しイラついたような言葉に心深がビックリしてると、花子さんは心深の方に向かって何か呟き部屋から出ていってしまった
あとから来た二人の内一人は可愛らしい見た目の女子高生だった
お洒落なのか制服のスカートが短めなので体育座りはしていないが、花子さんは気にしていなかった
もう一人の子は小柄でよく分からないが、恐らく女子高生だと思われる子だった
もう一人と異なりきっちり制服は着ており、スカートも校則通りの長さである
しかし、彼女も体育座りではなく他の座り方をしていた
(体育座りじゃなくて良いのかな?)
花子さんは心深にだけ体育座りを指定し、他の二人には座れとしか言っていなかった
そこの違いに首をかしげながら心深は花子さんが戻ってくるまで静かにしていた
「ねぇ、貴女はどうして此処に来たの?」
「え?あ…私は…」
事情を説明しようとした心深の言葉を遮りるように女子高生は話し始めた
可愛らしい見た目の彼女は、ふわふわとした栗毛をツインテールのようにして実年齢より幼く見せていた
パッと見は守ってあげたくなるが、自分勝手に不満や人の話を遮る辺りに心深は性格が悪いぶりっ子系だなと思い、関わるのをやめて静かにしていた
もう一人の女子高生は黒髪をショートカットにした子だが、物静かというより人との関わりをしたくないと最初から拒絶している雰囲気である
こっちもこっちで後々面倒ごとになるかもしれないと思い、心深は静かに花子さんが言った通り待っていた
「聞いてるの!?さっきから黙ってばっかでウザいんだけど」
「…貴女の自慢や不満聞いても面白くないし」
(あ、そんなこと言ってたんだ…全然聞いてなかった)
癇癪のように騒ぐ彼女にボソリと言ったもう一人、心深は大丈夫かな?と思っていた
二人が口喧嘩のように騒いでいると、前方から物音がした
何か大きいものが落ちるような音にピタリと二人の声は止まった
ズルズルと何か引きずる音と全身鳥肌になるような悪寒がするも、心深は自身の腕をしっかり握って座った
しかし、彼女達は我慢できなかったらしく、悲鳴を小さくあげるとそれから逃げるよう少しずつ後退した
するとそれはガタガタ床を鳴らしながら彼女達の方へ近付いていった
そのスピードは人間の競歩ぐらいと思っていたが、栗毛の子に触り黒髪の子が心深の横を走り抜けた後直ぐに触る程のスピードだった
触られた二人はその場に倒れ込み、ピクリとも動かなくなったが、心深は動かないよう気を付けていた
【@#¥*$※○▽♭§?】
(怖い…何言ってるか分からないけど怖い…花子さん早く帰って来て)
何度も何度もギシギシ床を軋ませながら心深の横を通り過ぎる化け物に、心深は何も見ないよう顔を膝につけて体全体を小さく丸めた
震えや汗が止まらず涙もボタボタと溢れるが、声を出さないようひたすら耐えた
【もういいよ】
そんな声が聞こえた瞬間障子が開き、花子さんが楽しそうにニヤニヤしていた
「流石ココ!私の言った通り静かに待ったわね…ほら、今なら好きなだけ泣き叫びなさい」
「…………っ…ご、ごわ゛がっだあ゛あ゛あ゛ぁ。はな゛ごさん゛、ごわ゛がっだよ゛ぉ゛ぉ゛」
あまりにもわんわんと泣き叫ぶ心深に花子さんは慌てて心深に近付き、何処からか出したティッシュを鼻に当てた
ずびずびと何枚もティッシュで鼻をかむ心深に、花子さんは若干ドン引きしながらも、心深が落ち着くまで待った
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔と、鼻水でびちゃびちゃになったティッシュが辺りに捨てられているという異様な光景だが、心深が落ち着いたのを確認すると手を引いて外に誘導した
「あの二人はどうするの?」
「あとで回収しとくから平気よ…それよりそのぐしゃぐしゃの顔どうにかしなさいよ。ぐしゃぐしゃでブスになってるわよ」
「酷い…花子さんは可愛いからそんなこと言えるんだ」
「当たり前でしょ!不細工な少女より美少女の方が受けが良いでしょ」
ずびっと少し鼻を鳴らしながらも心深は花子さんの手を繋いで他の部屋に案内された
花子さんが「ほら、もう着いたからいい加減泣き止みなさい」と言うと、心深は「そうしたくても勝手に出る」と花子さんに伝えた
呆れ顔の花子さんが溜め息をつくと、花子さんの後ろから男性の声が聞こえた
「アレに耐えただけでも誉めて差し上げたらいかがですか?まったく…貴女のその態度は昔から変わりませんね」
心地よい声に心深が視線を向けると、長身の男性らしき人が立っていた
口元以外全て布で覆われている為、心深はびっくりしたが、心深に「よく頑張りましたね。花子はこう言っていますが、貴女様のことを誉めておられましたよ」と優しい声色で言った
突然のイケメンボイスに心深はぽかんとしてしまったが、目の前の人物が手を心深の目元にかざすと、先程まで腫れていた目は元に戻り、泣く前の状態になった
「ありがとうございます…」
「いえいえ。さぁ、こちらへどうぞ」
「ココ、アンタ以外と現金な人間なのね…ほら、着いたわよ」
花子さんが言うと、心深の目の前には目的地である駅が見えていた
足を進めてアスファルトの上に足がつくと、いつの間にか手の温もりが消えていた
「あ…花子さん」
後ろを振り替えると、少し朽ちているが立派な神社があった
賽銭箱の前に花子さんと先程の男性が立っており、心深は二人に向かって改めてお礼を言った
「もう迷い込んじゃ駄目よ…泣き虫ココは私達みたいなのに良いようにされちゃうわよ」
蜃気楼のように徐々に消えていく花子さん達に、心深は見えなくなる最後まで見続けた
「…ありがとう花子さん」
「心深様がアレに耐えられるとは思いませんでした」
「ちゃんと私の言う通り体育座りをして一歩も動かず静かにしてたね~。あんなに泣いたのには流石に驚いたけど」
「それが普通ですよ…話しは変わりますが、あの二人はどうしますか?アレが欲しがってます…」
男の言葉に花子さんはうげーっと顔を歪めると、男にアレの趣向を知っているか尋ねた
男は人間の恐怖に歪んだ顔が好きということかと尋ねると、花子さんはそれはアレの存在意義だと答えた
「アレはね、人の心を壊すのが好きなの…しかも達が悪いことに、人間の性別で壊し方を変えるっていう拘りがあるのよ……あの子達、どうなると思う?」
「心深様が狙われないよう渡します」
「その方が良いかもね…かくれんぼにちゃんと勝ってるから大丈夫だと思うけど、念のため…ね」
「根付けのことはどうしますか?伏見様も気に入ってるようですが…」
「あぁ、あれは大丈夫。お人好しの女狐が渡してるから…見返りなしで人間を守るなんてあいつしかいないし」
心深は最初子供の姿で彷徨っていた
神隠しにあってしまった心深は根付けを貰うまで子供の姿だった
魔の者に魅いられた心深に気が付いた彼女は、根付けを与えることで脅威から守っていた
徐々に大人の姿へと戻っていたが、心深は最後まで気が付かなかった
「ところでココに対して随分優しいじゃない…アンタがあそこまでやるなんて今までなかったでしょ」
「ふふっ…貴女が彼女を気に入ったように私も気に入りました。私好みの人間がいるなんて…とても楽しみですね」
「アンタもアレと大概変わらないわよ」
風が吹き目元の布が少し捲れた男の顔は、人外特有の美しさを持っており、その顔は楽しそうに目を妖しく輝かせていた
「(ココがどっちに転んでも助言ぐらいは与えてあげよう)アンタの今の顔、ココに見せられないわね…早く顔隠しなさいよ!アンタの今から犯しますみたいなキモい顔を見るこっちの身にもなってよね!!」
「おや?私の普段の顔とこの顔は女性から好評なのですが…花子はセンスがないですね」
「…顔にセンス求めてどうするのよ、バカじゃない…」
心深:偶然神隠しにあった少し不運な成人済みの女性
最初は子供の姿だったが根付けのお陰で徐々に元の姿に戻った。最後まで自分の変化に気が付かなかった
素直な性格が花子達に気に入られたが、その魂も花子達含め他の怪異に気に入られる
その後はちゃんと行きたかった場所にも行け、普段と変わらない平和な日常を過ごしてる
花子さん:都市伝説でお馴染みのトイレの花子さん
トイレにいないことが心深に疑問を持たせたが、歴としたトイレの花子さん
ちょっと特殊な立ち位置にいるが、古参の怪異なため大体何でも知ってる
心深のことをココと呼び、近くなりすぎないよう気を付けていたが、この度一緒にいる男に目をつけられた為無意味に終わった
布の男:長身の男性だが、口元以外全て布で隠されている
イケメンボイスと人外特有の美しさを駆使して相手を誘惑するのが大得意
優しそうな雰囲気を出しているが、そう見えるだけで実は花子より達が悪い
この度心深に魂の一目惚れをしたため、恐らくずっと執念深く追われ続ける
体を自分好みに堕とし、魂の色も自分色に染め上げる愛し方
アレ:怪異の一つ。その名を憚られるほど他の怪異から忌避されている
かくれんぼに勝てば無事だが、負ければどうなるかは花子レベルの古参怪異以外知らない
今回のかくれんぼのルールは、その場から動かず静かにしていれば勝てる簡単なものだったが、存在するだけで恐怖を感じさせるモノなので実は怪異の方が有利だった
普段は刀等の古いものに潜んでいる
女子高生:自分達から来た。あるおまじないでやってきたが、注意事項を軽視していた為アレに捕まった
どうなったかは花子達だけが知ることとなる
伏見:いつも通り帰ろうとしたら、家の近くに普通の人間である心深がいてビックリした
大人なのに子供の姿である心深に「?」となったが、取り敢えず根付けを渡して花子に任せた
帰って他の子に聞いたら、最近人間達がやるもので、アレとかくれんぼして勝ったら願いが叶うというおまじないがあると聞いて白目を向いた
姉達はそれに偶然巻き込まれた人間ではないかと面白そうに言っていたが、無償で根付けをあげたことに対しては怒られた…私悪くない
その後花子から無事帰れたこと、側付の男が一目惚れしたことを聞かされて完全に意識を失った
なんやかんやで心深のことを心配してるが、それを面白がった身内がちょっかいかけたり、男の脅威から守ったりと苦労しながら心深の平和な日常を守ってる