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P8「肖像権を大切に」


 久しぶりの雨が地面を潤す本日。

悪天候にもかかわらず、私、伊藤洋季は元気です。

今も数学の授業の時間ですが関係ない。DSとPSPを両手に持ってゲームを展開しています。どちらもアクションRPGです。ひゃっはー!死ねい雑魚が!

「洋季………頼む、静かにしてくれ」

東雲先生がうれいに澄んだ瞳を窓の外に向けながら、一言そう言った。

そう、たった一言だ。これだけ。

いつもなら鉄拳の百や二百は飛んでくるところなのに?


………まぁ、原因が分からないわけではないがな。


オレはPS3を取り出して起動した。もちろんテレビ持込で。

そして授業とは名ばかりの自習時間を過ごしたのだった。



「洋季。東雲先生のことなんだが………」

廊下でカルタをしていたオレに話しかける先生が一人。

ほう、生物の桜田だ。今日も着ている白衣が白くて眩しい。

「おふざけ無しで聞け。東雲先生の様子がおかしいのは分かっているな?」

「もちろん。お陰で退屈な数学の授業は楽しいゲーム時間に早がわりっすよww」

「安心しろ。お前にだけ特別補習を開いてやる」

オレは絶望の淵に叩き落された。

「でだ。その原因を知っているか?」

「知らないですね」

誰がゆーかww内緒だもんね~。

オレは桜田先生のどぎついエルボーをくらった後、生物室に連れ込まれて自白剤を飲まされた。正直まずいなあれ。人間の飲み物じゃない。


「で、要約すると………黒三沢くんの告白が原因なんだな?」

桜田がようやく真相を知れてスッキリしたようで、安堵の息を吐く。

代わってオレは二リットル飲まされた自白剤を吐く作業に勤しんでいた。

「いやしかし………東雲先生も案外うぶなんだ。フフ、面白いものだ」

「はは、私としては一生徒に平気で自白剤を使う教師がいることのほうが滑稽ですよ」

「自業自得だ」

え?どこが?

「そうだ。洋季、ちょっと我々でその二人の後押しをしてやろうじゃないか」

「断る。それは出来ない相談だ」

オレはきっぱりとそう断った。ふふ、なにせ佳孝には先客がいるからな。そっちの恋路を手伝わなければならないのだよ。

「なに?黒三沢くんは意外とモテるのだな?」

「え?………な、なぜそれを?」

オレの驚嘆に震える表情を見て、桜田先生は心底理解できないといった表情をオレに向けた。全く、言いたい事があるならはっきり言って欲しいものだ。

「馬鹿は嫌いだ。そして手伝え」

「わぉ。超キッパリ言ったよコレ」

だがしかし。手伝えないというスタンスは変わらない。むしろこれは佳孝本人の問題だ。

あいつは一人の力で東雲先生を振り向かせると豪語した。そう、自分の気持ちを伝えると、このオレに約束をしたのだ。今更この契りを無効に出来ようか?いや!出来ない!

「そうだろっ!?」

「うるさい。恋は前途多難でいてこそ恋なのだ。さぁ、お遊びの始まりだ」

桜田先生の悪い笑みが見える。そしてオレの不幸なロードも見えてきた。



職員室です。東雲先生は相変わらず思い詰めた表情をしています。

「ふふ、あれこそ恋する乙女の表情。実にそそられる」

桜田先生がなにやら物騒なことを呟いています。助けてください。

「なぁ洋季。教師の特権とは何か知っているか?」

「へへ、そりゃあ教師の立場を利用して、青い果実である生徒を毒牙にかける事でしょう?」

「半分正解だ」

どうしよう。この人オレよりキャラ濃いぞ。

「恋する乙女を近くで観察することと、その少女をもてあそぶこと。これこそ私が教師を志した最大の理由なのだよ」

新たな変人を発見。生物教師の桜田。レズ魔の可能性あり。

「レズだけじゃない。BLも歓迎する」

「あんたが教師になれるから今の日本はダメなんだよ」

オレはつくづく今の日本の腐敗について現首相と会談したいと切実に願った。

「それよりも。東雲先生を早速おちょくろうと思う。洋季、なんかして来い」

「さすがだ先生!同僚の仕事仲間を遊び道具にするだけじゃ飽き足らず、生徒を奴隷同様に扱うなんて最低だぜ!」

オレは顔面にお拳を一つ頂いた。


東雲先生の机の前まで来ました。でも東雲先生は気づいていません。

「東雲っち。佳孝が呼んでるぞ」

 「ガタガタッ!」

イスをひっくり返し立ち上がる東雲先生。そんなあなたに一言。

「うっそで~~す」


オレは両目に青タン、タンコブ数十個、そして歯の損失というあられもない姿で桜田先生の机まで戻ってきた。

「おいおい。君には恋する乙女をあおるという選択しか出来ないのか?」

「え?そうして来いと言ったのはあなたでは?」

「本当に君は馬鹿だな。私達は恋の応援をするのだぞ?」

そう言えばそうだったな。まぁそれ以前にオレには手伝わなければならない先約がいるんだけどな。

「洋季。お前はさっきから執拗しつように先約がいるとか言うが……恋に先も後もないのだぞ?最終的に恋仲になればそれでおしまい。先に狙っていたとかそんな事を後でわめいても無意味なんだぞ?」

「さらっと美しい横顔でシリアスに決めてますけど、要約すれば何でもありって事なんですね」

「そうとも言うかな」

ふむ。まぁ桜田先生の言い分も分からないわけではない。だが、こちらも生半可な覚悟でやっているわけではないからな。命を懸けてるし。

「時に洋季。黒三沢君を好きだという女の子は誰か教えてくれるかい?」

「残念だが守秘義務だ。ぼやかして教えると、不良ヘッドの妹って所かな?」

「乃之亜ちゃんか、意外だな」

どうしよう。ばれてしまいました。

「だが、東雲先生と乃之亜ちゃんだと、やはり東雲先生を応援したいな」

「ほぉ?同僚を応援ですか。それとも東雲先生の慌てる姿が面白いんですか?」

「どちらも、と言っておこう」

やっぱり変態だ。

「しかし、考えてもみてくれ。東雲先生に今後、春が来ると思うか?」

「まぁ………来ないかな?」

「はっきりと言うね。だが、その可能性は高い。だとしたら、これはもしかすると人生で数回ある彼女のチャンスの一つなのでは?」

うむむ。そう考えてみると、そんな気もする。

だが、それは乃之亜ちゃんにも言えるのでは?

「ほう?どうしてそう思う?」

桜田の挑戦的な目に、オレは自信満々で言ってやった。

「あんなおくてで純粋な女の子が、人を好きになることなんて滅多にないんじゃないかな?」

オレがそう言うと、桜田先生はなるほど、と言っただけだった。

「もういい。そこまでこちらの協力を拒むのなら、好きにしていいさ」

「そりゃどうも。じゃあ、早速、乃之亜ちゃんのために作戦でも考えますよ」

オレは手をひらひらさせて、桜田先生から離れていった。



 毎度おなじみ生徒会室に来ました。

本日は政宗と乃之亜の二人のみが来ているようです。

「遅かったじゃねぇか」

政宗が『寂しさのあまりどうにかなっちゃいそうだ』とオレに泣きついてきました。

「言ってねぇ」

政宗の木刀斬り。オレは右肩に多大な損傷を得た。

「なんかお前、私に対する見方を変えてきてないか?変ね目で見てたら殺すぞ」

「大丈夫だ。チョコ貰ったけどそれだけだ」

「えぇ!?チョコって希先輩どういうことですか!?」

乃之亜ちゃんの驚きの声。政宗が真っ赤になって照れ隠しにオレを八つ裂きにする。

オレは悲鳴をあげる前に真っ白になった。


「あれ?オレいつの間に生徒会室へ?」

「気にするな!」

政宗がものすごい形相でオレを見てくる。どうした?合戦か?

「それよりも!………乃之亜ちゃんの恋路、どうするんだ?」

政宗が本題を持ってきてくれた。ようやくこれで話が進む。

「とりあえず。お弁当大作戦で行こう」

オレは巻物を取り出して広げながらそう言った。

「古来より、異性から異性への食べ物を贈る行為は、重要な信頼関係の構築にも利用されてきた。効果もばっちりな上に、近年は『女の子からお弁当を貰って、しかも一緒に食べるだと?コレは恋の予感!!』という思考回路の男子も多いため、気持ちのさりげないアプローチにも最適だ。王道だがやらない手はない。どうだ?」

「すみません………料理、出来ないです」

おっとぉおお!!ここでまさかの乃之亜ちゃんからの一言!計画は失敗だぁああ!!

「いやいや、諦めるの早すぎだろ」

絶望のあまり両膝をついていたオレに、政宗は優しい言葉をかけてくれた。

「料理は慣れだ。私もそこまではうまくないが教えることぐらいしてやろう」

「ありがとうございます!」

意外だな。乃之亜ちゃんが出来なくて、政宗は出来る………。実に意外だ。

「弁当はもう少し時間がかかるから、他の作戦はないのか?」

「任せろ。もう一つある。これを見てくれ」

オレはもう一つ巻物を取り出して広げた。

「我が校は都合のいい事に、三学年合同の遠足がある。きたる4月に実施される山登りだが、これは異性の距離を縮めるのに何とも有効活用できるイベントだ。リア充キングなら女の子に囲まれて近づくのが困難だが、相手は一匹狼という名の独りぼっちだ。むしろいくらでも近づける!東雲先生は生徒監視の仕事があるから最後尾!いくらでもアタックのチャンスがあるのだ!」

「おぉ!ようやくまともな作戦が来たじゃねぇか!これなら行けるな」

「遠足当日までに、お弁当作戦が決行できれば文句なし。さぁ!忙しくなってくるぜ!」

オレと政宗が意気込んでいると、乃之亜ちゃんが申し訳なさそうに手を上げた。

「あ、あの」

「どうしたの?」

「き、聞いてませんか?………生徒会が潰れたから、その行事はもう出来ないんですよ?」


「「え?」」


オレと政宗が、共に時間静止の魔法をかけられた。

ていうか、会長も副会長もいるじゃん?

「お二人は確かに臨時生徒会員としていますけど、ほら、希先輩は知らないかもしれませんが、洋季さんがボコボコにされた会長さんに無理矢理生徒会の解散命令を出させて」

「よ~~お~~~き~~~」

コードネームM、名称マサムネから只ならぬ闘気を感知。危険。危険。危険。

「待ってくれ!あれはアリスを助けるために必要な行為だったんだよ!あのままだとアリスが生徒会に入れられるところだったんだぞ!だから御慈悲を!」

「ぬ………それもそうか」

政宗から闘気のオーラが出なくなったところで、この問題の解決法を考え始める。

「生徒会の解散がここで痛手となるとはな。まぁ、建前でも生徒会主催なわけだし、生徒会に代わる組織が必要だな………よし!」

オレは頭の上に電球を付けた。

「政宗!お前ならどんな事があろうと、絶対に協力してくれるよな」

オレがそう言うと、政宗は怪訝な顔をしながらもうなづく。

「あぁ、協力する」

「よし。じゃあ、とりあえず明日になったら乃之芽にも説得しといてくれ!」

「は?何を?」

「明日になれば分かる!」

オレは成さねばならない仕事をするため、職員室に寄った。




 翌日。晴天なり。

そして、オレは放送室に朝早く居た。

ポスターの掲示も終了しているので、後はここで放送を入れるのみ。

登校してくる学生も増えたところで、オレはスイッチを入れる。

「グッドモーニングエヴリワン!掲示されているポスターは見てくれたかな?本日は皆さんに重大発表がございます。先日、不慮な事故により解散された生徒会。これにより本校の行事のほとんどに何らかの影響が出る事になりました。これは非常に看過できない事であります。よって、新組織の発足に踏み切りました。会長職には、前生徒会会長の勝浦春氏が。副会長には同じく、皐月美恵氏が着任します。続きまして、新組織のリーダーに、総統として夜桜乃之亜氏。副総統には咲根アリス氏。経理長に伊達政宗、じゃない、希氏。行事進行責任者に夜桜乃之芽氏。以上の人達に、我が校の新生徒会の『バルドル生徒会』を運営していくことをここに明言します。バルドルって何か知ってる?北欧神話に出てくる光の神なのさ。彼の影響力は凄まじく、地獄に落ちたため、世界はラグナロクが起きたとされているんだ。なに?意味が分からない?じゃあ検索しろ。要するにこの生徒会は光だ!この学校を明るく照らす光なんだ!じゃあ、放送はここまでとします。以上」

オレはスイッチを切った。

完璧だ。この言葉意外、オレが言うべきことがあるか?

このバルドル生徒会を立ち上げた事により、生徒会以上の権限を持つことが出来た。

それに、今頃はあのポスターと名称した、メンバー達の隠し撮りブロマイド拡張版を貼ったんだ。乃之芽のお昼寝ポーズの写真や、アリスの体育の時間のテニス、しかもユニフォーム姿の写真や、乃之亜ちゃんの猫とじゃれあう写真、そして政宗の部活、剣道をした後のイケメン写真などなど。一種の布教活動に近い動きだが、他生徒の反応は上々、人気が出るのも時間の問題だ。それに、先生達の説得は既に終わっている。なにせ生徒会への誘いがあった政宗や、成績優秀な夜桜姉妹。更に品性方正な優等生アリス。この四人をトップに据えると言ったのだ。むしろ感謝された。顧問も碁五郎先生が生徒会に引き続き受け持ってくれたし。この布陣に隙などない!今までの雑記は会長副会長コンビに任せ!そして重要な行事の時は裏で偽装工作が出来る。

「ふふふふ、はっははははははは!!!!」

オレは己の才能の高さに振るえ、武者震いをした。



「で、生徒会を作ったところまでは褒めてやるが………」

乃之芽が鬼武者オーラを出しながらオレを睨みます。

四人に生徒会室に呼び出されたオレ。何気にピンチ。皆さん怒ってます。

ど、どうして怒るんだ!

 

 「「「「あの写真だよ!!!」」」」


オウ!ポスターね。はいはい。

オレは四人から集団リンチを受けた。ひどい。






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