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P7「安請け合いは止めましょう」

テスト開けです。ハイ・・・・。


 おなじみ生徒会室でトランプをしているオレ。

この前は姉御がワンワン泣いていたので慰めていました。

「洋季。悪いことは言わん。死ね」

会長こと、勝浦春がなにやら物騒なことを申しました。そしてトランプのハートの9を出す。

テーブルの中央には既にカードが表にして重ねられている。

そして、副会長こと、皐月美恵が今度はスペードのジャックを出す。

「イレブンバックです。さぁ、次は洋季様ですよ」

イレブンバック。この単語を聞いてピンと来た人はかなりの大富豪プレーヤーだ。

ローカルルールと呼ばれる、その地域によって決められた詳細ルールの中でも意外と知られていないこのルール。要するに11、つまりジャックが出た時点で、小規模な革命が起きるのだ。

革命のルールは立場逆転。2が一番強く、3が最弱だったのが、今度は2が最弱で3が最強となる。

そのまんまの意味で数値の優劣が逆転することだ。

ただし、ジョーカーは相変わらず切り札として存在しており、また、その効力は場のカードが切られるまでだ。

そしてオレのターン。

オレは手札より、ダイヤの8を召喚する。

「なに?8ぎり、だと?」

8ぎり、またの名を八流し。その名の通り、強制的に場のカードを切る効力を持っている。

「やりますね。さぁ、洋季様からですよ」

副会長は余裕の笑みを浮かべる。手札は残り4枚。その様子だと、恐らく強いカードを持っているだろうな。

「ちくしょう!折角のイレブンバックが!」

代わって、会長は怒気のこもった声を出す。

バカめ、貴様のその様子からして、会長の手札は最弱カードが多いと思われる。

その手札7枚の多さからしても、楽勝で潰せそうだ。

問題はオレの手札。5枚という決して少ないとは言えないこの手札、さぁ、どう切り出す?

最弱カードは4。これはマジで役に立たない。

後は10、13、エース、そして手札内での最強カード2。

一見有利に見える手札だが、楽観視は出来ない。

副会長の手札がそこそこな強さだと仮定して、尚且つ相手に主導権を握られないようにせねば。

オレは様子見のため、10を場に置く。

「洋季。言っておきたいことがある」

会長が自分の番になり、今度は13、キングを出した。

意外だ。これほど強いカードを持っていたのか!?

「お前、考えが顔に出やすいから、お前の手札もう知っちゃったぞ?」

「………え?」

ゲームはそこで終了した。

これだからトランプは嫌いなんだよ!みんなオレに読心術使っちゃってさ!

ゲームはフェアにやるべきだろ?これじゃあ楽しめねぇし!オレ勝てねぇよ!

オレが不機嫌になりながらソファーに横たわる。

すると、会長と副会長が二人でババ抜きを始めた。

おいおい、御気楽なもんだな?オレを仲間はずれにして二人でイチャつきやがって!

「い!イチャついてなんかいませんよ!」

副会長が予想通りの赤い顔をしてムキに答える。

「そうそう。僕らは絶対的なパートナー!仕事の上で欠かせない関係!会長と副会長という重要なポストにいる人間なんだ。そんなイチャつくような関係では断じてないね!」

会長がさも当然の如く言い切りました。

照れ隠しのかけらも無いようだ。むしろそれで納得している様子だ。

副会長の機嫌があからさまに悪くなった。

おいおい、こっちは乃之亜ちゃんの恋路を応援中なんだぞ?

前途多難な恋は一つで十分だっつーの。

「なんだぁ?もう一つ前途多難な恋があるとでも言いたいのか?」

会長が首をかしげて聞いてきやがった。

こんな男にだけはなりたくないね。ほら見ろ、副会長から負のオーラが漂ってきている。

顔は下に向けてるし。なんか黒いもやがかかってるし。

「ん?どうした副会長?」

「………なんでもないです」

不憫すぎるだろ。とりあえずがんばれとだけ言っておこう。


最終下校時刻なので帰ります。

下駄箱で靴を代えて外へ出ると、校門に見覚えのある顔が見えました。

リア充キングです。

「おい。そのあだ名止めろって」

設楽龍介。そろそろ皆さんの記憶からなくなっていたであろう男です。

「そんな事より、ちょっと相談にのってくれよ」

真剣な顔をのぞかせる龍介。ふむ、興味があるので聞いてみよう。


まだ桜が咲くような季節ではないので、道端の植木は寂しい様子でたたずんでいる。

そんな道を男二人で仲良く歩くとは、いささか不本意なものだ。

だがまぁ、顔が良いコイツがいるお陰で、道行く乙女達から熱烈な視線を感じる。

別にオレに向けた視線ではないが、正直見られて嫌な気はしない。

オレは最高に自分ではかっこいいと思っているキメ顔をキープして歩いていた。

「洋季。そのふざけた顔は止めて、オレの話を真剣に聞いて欲しい」

龍介が目線を前に向けながら、オレに結構強くそんな台詞を言う。

おいおい、おふざけ合う仲だっていうのに、行き成りマジになられたら調子狂っちまうぜ。

だが、それよりも龍介の言う真剣な話たるものが、どれほどのモノか気になったオレは、静かに耳を傾ける。


「その………オレ、好きになった人がいるんだ」


うん、どうでもいい話だったな。

「え!?ちょ!なんだよどうでもいい話って!?」

「どうでも良いからどうでも良いと言ったまでだ。これはオレの感想でもあり、全世界の意思でもある」

「意味わかんねぇよ!頼むから、真剣に聞いてくれ」

やれやれ、顔を赤くして恋する乙女みたいな表情の龍介をみていると、正直『乙女をなめるな』と怒ってやりたくなってくるが、ぶっちゃけ普通の女の子より顔が良いので何とも言えなくなる。

でもやっぱりどうでもいい気がする。

「あのさぁ、モテない男が相談をするのは分かるんだが、てめぇはリア充、しかもキング……つまりモテモテなんだよ!だから好きになった子がいればナンパでもして落としゃあいいだろうが!」

オレが心の底から思っていることをぶちまける。

とってもスッキリした。でわ帰ろう。

「オイ!話は終わってねぇ!」

今だ強引にオレの首を掴む龍介。正直、オレ死にそうだ。

「こ!告白しても振られる可能性があるだろ!だ、だからだな!練習とかアプローチとかが必要なんだよ!」

むぅ。面倒極まりないが、ただ今絶賛首絞められ中なので、いやいや手伝うことにする。

全く、乃之亜ちゃんや副会長に佳孝まで、みんな恋をしたら周りが見えなくなるんだな?

これが恋は盲目ってやつ?うるさいわ!


さて、人のいない寂しい公園に来ました。

遊具も少なく、古びたベンチが一台だけという『え?公園なの?』ってな風景のこの場所に、またまた男二人で一緒にいます。しかもベンチに座ってます。

「じゃ、じゃあさ………ま、まずは、告白の練習かな?」

顔を赤くさせてもじもじする龍介。なまじ顔が美形なので、正直悪寒が走る。

これ周りに人がいなくて本当に良かった。いたら100%誤解されている光景だよ。

「な、何て言ったらいいかな?」

「アナタヲ ヒトメミタトキカラ スキデシタ」

「何で片言なんだよ!」

オレのキメ台詞を否定する龍介。よかった、まだツッコミをする力はあるようだ。

だが、龍介は自分の中で告白する言葉を考えるのに夢中のようで、次第にトリップしていく。

ぶつぶつ呟きながら、目線が宙に浮いている。

「ところでよぉ。好きな子って誰?」

オレの質問に、ようやく自分の世界から帰ってきた龍介。

「え、えっと………じ、実は年上なんだが」

え?何?君も東雲先生狙い?

「せ!先生じゃねぇよ!あんな年増誰が好きになる!」

男としては頷いてやりたい台詞だが、世の女性全員を敵に回したぞ?お前。

「せ、先輩なんだけどよ………その、頭が良くて、リーダーシップがあって。いつもクールな女性なんだよ。スタイルもいいし、遠慮なくズバッとものを言う性格なんだけど、そこがまた良くてさ。それで」

あ~はいはい。ノロケ結構けっこう。

「な、なんだよ!真剣に聞けって!その女性はな、完璧すぎる故に、種もないようなあらぬ噂をされているんだよ!不良のヘッドだとか何とか、みんなそんな事言ってあの人を避けているんだ。ひどいと思わないか!?」

「うん。みんなひどいね。いじめ、かっこ悪い」

「超棒読みじゃねぇか!」

まぁ、それ以前になんとな~く、思い当たる人物がいる気がするようなしないような。

いや、いないって事にしとこう。うん。

「夜桜、乃之芽さん、っていうんだ」

恥ずかしそうに、でも、どこかうれしそうに、龍介は言った。

自分の好きな人を告白したのだ、結構な勇気がいただろう。

言った後、照れ隠しに頭を掻いている仕草が、それを証明している。

さぁて、聞いたし、帰るか。

「えぇえ!?おまっ!そんな簡単に帰んなよ!」

「なぜだ?聞いたんだし帰る。オレの仕事はここまでだ」

「い~や!オレの恋が成就するまで付き合え!手伝ってくれ!頼む!」

龍介が土下座する。オレは龍介の下げた頭の後頭部に右足を乗っける。

「ぐっ!………ふ、踏みたいだけ踏めよ」

え?こいつドM?

「違う!」

龍介がそう怒鳴る。だが、頭は決して上げなかった。

そして、己がどれほど本気であるのかを、語り始める。

「初めて先輩を見たのは!オレが別の女の子の告白を断っている時だった!」

え?自慢?

オレは踏んでいる足に更に力をかける。

「ぐおっ!……お、オレは!確かに世間で言うなら、モテている人種だ!だが!……良い顔に生まれた事に感謝はしても、四六時中、好きでもない女の子から告白をされるこの生活を、いいと思ったことはない!」

「てめぇぇぇえええ!!そんな事をいけしゃあしゃあと言いやがって!」

「じゃあ洋季!お前は名前も知らないような女の子からの告白を、全部受けてオッケーするつもりなのか?」

龍介の真面目な会話が、いつの間にか始まっている。

そして、この質問はなかなかシビアなものだと思った。

「そ、そりゃあ……全員にオッケーはしないけどよぉ」

「つまり、振るんだろ?」

………まぁ、結果的にはそうなるな。

だが、むしろ好きでもないのに付き合ったって仕方がない。それはつまり弄んでいるというわけだ。

「そうだ。オレは、女の子相手にそんな態度を取りたいとは思わないし、そうしたいとも思っていない。だからな、今までは普通に断ってきたんだよ」

確か、龍介は平均的に1週間にラブレターは10枚。告白は4回近くある。

一年次からその記録は続いているので、相当の人数を振ってきたのは想像に難くない。

ふむ、さすがにそれだけの人数を振るってのは、振る側も辛いもんだな。

「別に、オレはいいんだよ」

龍介から返事が来る。どうやら顔は向けていないくせに読心術を発動しているようだ。

「いいから聞けって!………オレは、そんなに強い台詞で断ったりはしない。だからなのか、なかなか諦めてくれない子がいる」

あぁ、ストーカー?

「ま、まぁ、中にはそんな子もいる」

がんばれストーカーちゃん。今度あったらコイツの住所教えてあげる!

「もう知られてるよ」

龍介の淡々とした言葉に、オレは底知れぬ恐怖を感じた。

「ただ、一番困るのがさ………男の不良を呼んできてオレに報復しようとする子がいるんだ。振った代償ってやつかね?」

なんかもうお前が不憫すぎる気がしてきた。

「まぁ、運がいいとは言えないが………そのお陰で、先輩に会えたんだ」

今だ足を後頭部に乗っけていたが、オレはさすがに罪悪感を感じて、足をどける。

だが、龍介はそのままの姿勢で台詞を続けた。

「出会いは情けないもんだったさ。不良にボコボコニされるオレを、先輩が助けに入ってくれたんだよ。女の子に助けられるってのは、男としては情けないが………先輩のその行動と、姿に、一目惚れしたんだ。ははっ、情けないだろ?………助けられておきながら、勝手に好きになっちまったんだ。男の風上にも置けねぇだろ?………でも!好きなんだ!」

熱い台詞だな。龍介は、自分の気持ちを平然と言ってのけていやがる。

その言葉に裏もなけりゃあ、猫被ったような建前もない。

本音だ。自分の中の真実を、惜しげもなく出している。

「こんなに人を好きになったには、初めてだし………これから先も、多分ない。だから、本気で告白したい!それで!うまくいきたい!………お前に頼っている時点で、男としてダメなのは分かっている……だが!やるべきことは全て自分でやる!だから!アドバイスや、相談だけは、頼っても……いいか?」

龍介は今だ顔を上げない。

オレは、一度空に顔を向けた。

こんな簡素な公園にも、空は顔を向けてくれている。

多少夕暮れ色に化粧してはいるが、空は相変わらず見下ろしている。

さて、オレはどう行動すればいい?

こんな質問を空に投げてみる。

 <え?うん、まぁ、手伝ってやれよ>

ちょ、おい!適当に返すなよ!

「頼む!洋季………お前にして頼めないんだ!」

 <ほらさぁ、こうやって言ってるわけだし。意地悪せず手伝ってやんなよ?>

おい、空。なんかお前馴れ馴れしすぎるだろ?

あと声が結構低いぞ!?仮にも空なんだから透き通った声でいろよ!

「洋季!どうなんだ!」

「だぁああ!わかった!手伝うからお前は黙ってろ!」




「てな理由で、急遽、『ワオ!乃之芽の姉御にも春が!?あのイケメンボーイ龍介がマジ恋!こりゃあこの二人を応援せずどうするんだい?空も全面的にバックアップしますぜ!』大作戦をここに展開します」

乃之芽抜きのメンバーに、オレはそのしゅを伝えた。

「「「「…………」」」」

痛い、痛いよみんなの視線が。




なんだかややこしくなって参りました。

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