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P3「伊達政宗との付き合い方」


 え?伊達希の性別? それはシークレットワードです。


 生徒会室は校舎の一番上にある部屋だ。それゆえ、窓の外の景色はそりゃもう絶景の一言。

オレはミックスバナナジュースカクテルを作りながらその絶景を見下ろしていた。

お酒とバナナジュースをシェイクするこの動きは、言わばお客様へのパフォーマンスでもある。

オレはシェイクを済ますと、洒落たグラスに注ぐ。

「ラ・ミクジェーラです」

「どうもです」

前回、オレと互角な戦いを繰り広げた少女、副会長の美恵がカクテルを受け取る。

「………おいしい」

お客さんのこの台詞が、バーテンダーをするオレへの一番の報酬であると、オレは改めて実感した。

「あの、何しているんですか?」

もう一人の客、乃之亜ちゃんが困惑した表情をこちらに向ける。

「なるほど、お客様も酔いたいのですね」

「え?いや、未成年の飲酒は禁止ですよ!」

彼女の心にあった重圧が、今の言葉を吐露させる。

がんじがらめにされた鎖の解き方もわからず、がむしゃらに動いた結果、彼女の全身ハートは傷だらけだ。

「どうぞこちらへ」

オレは自作カウンターに彼女を座らせる。

「え、あの、聞いてますか?」

まだ警戒心を解いてくれないようだ。いや、彼女はまだ他人に心を開いたことがないのだろう。

他人への接し方を忘れた彼女には、熱いアルコールが必要のようだ。

「あの、ですから、飲酒は」

「お嬢さん、どうやらこの店は初めてのようですね?」

そう言ってブランデーを飲んでいた紳士が、彼女の隣にきた。

「お隣、失敬します」

「え、あの、会長さん。あなたも飲酒ですか………」

勝浦春………彼も現代の戦いに傷を負った男だ。

聡明とうたわれたかの頭脳は朽ちて、今や酒飲みとして日々を送っている。

「いやいやいやいや、会長さんしっかりしてください」

「お嬢さん………ウォッカを頼みなさい」

「却下です」

なるほど、ウォッカとキャッカ………駄洒落か。

「違いますよ!」

真っ赤になった彼女は、睨み付ける様にオレを見る。

どうやらウォッカストレートがお望みらしい。

「は?」

「では、こちらです」

オレはウォッカの酒瓶を片手に、彼女の前に差し出した。

「飲みませんよ!」

そう言いつつも、彼女は酒瓶に手を伸ばす。

「伸ばしてません!」

彼女はカップに注ぐどころかそのまま瓶に口をつけて一気に飲む。

「しません!」

彼女は浴びるほど飲んだ。ていうかマジで浴びた。

「やめてぇええ!!」

 「ドスッ!」

アリスの顔面パンチがオレにクリーンヒットする。

「意味のわからないいじめはやめてよ!」

アリスマジギレ。はいはいサーセンした。お~い、二人もやめていいぞ。

「なんだもう終わりか」

「でもからかうのは面白かったです。またやりましょうね」

生徒会メンバーは黒い笑みを浮かべながら乃之亜ちゃんを見た。

そして涙目になる乃之亜ちゃん。

「ところで、この五枚のリストを見てくれ」

オレはようやく恋の進展に入ろうとあのリストを見せる。

「何か先生に追いかけられたり政宗やアリスと遊んでいたらすっかり遅くなったが、その五人のうち誰かが好きな人だと思われる。写真があるからそれで判断してくれ」

「えっと………あ!この人です!」

うん?どれどれ。

オレがそのリストを見ると、なぜかよく知っているあいつが載っていた。

「お、おいおい、こいつはまさか!」

オレはこいつを知っている。とてもすごくよく知っている。

同じく行動をした日もあれば、共に苦楽を味わった仲な気もする。

よく顔をあわせていて、非常に親しいコイツは!

「えっと、ほら、その………やっべ、本当は知らないかも」

「名前は………黒三沢……佳孝?」

「そうだ!黒沢なのか三沢なのかはっきりしないあいつだぁあああ!」

よもやオレの親友が恋のお相手だとはな。

オレは内心からあふれ出る驚きをグッとこらえ、気を落ち着かせるためにブレイクダンスをする。

ヘッドスピン10回転で何とか頭を冷やした。

「あの、落ち着いてください」

乃之亜ちゃんがおそるおそるそうツッコムが、大丈夫、オレはもうクールだ。

「さて、これでお相手がはっきりしたし、ていうかオレの知り合いだし。このままズバッと決めちゃいましょう!」

オレはそう言って部屋を出ようと走り出した。

 「ガチャ」

「ごめんごめん、午後の活動始まってる?」

なんと、ここで政宗入室。ていうか走り出したオレはもうどうにも止まらない。

「はっ!てめっ!洋季!?」

「マジで衝突3秒前」

勢いよく全身での衝突が起きた為、政宗は廊下に仰向けに倒れる。その上にオレが倒れこみサンドイッチ。

おいおい、どうせならうる若き乙女とこういったシチュエーションにおちいりたかったぜ。

「…………」

政宗から返事が無い。屍にでもなったか?

オレが寝転ぶ政宗の顔を見てみる。

「ばっ!?!?顔がちけぇよ!!」

真っ赤になって叫ぶ政宗。なんだ?純情君気取りか?

「どけっ!不潔!色情魔!」

ふっ、オレに倒されたのがよほど悔しいらしい。

どうだ?押し倒された気分は?

「お、押し倒しってっっっ!!うるさいだみゃりぇへ…」

プッww噛むとかww

「このっ!ばっ!っが!………どけぇぇぇええええええ!!!!」

政宗、懇親の一撃が我が鳩尾みぞおちにきれいに入る。

「ぐふぅ………いい拳だ、政宗」

政宗の上に乗っていては殺されるといち早く感づいたオレは体を小刻みに震わせながらどいた。

「希だばっっ――か!!」

瞬時に立ち上がり、勢いよく走り去りながら捨て台詞をはく政宗。ふっふっふ、ここまで情けない醜態をさらしたのだ、こいつの女子からの好感度はがた落ち間違い無しだな。

「洋季サイテー」

「さすがに………酷過ぎます、洋季さん」

「洋季、ろくな人間ではないと思っていたがここまでとは思ってませんでした」

「死ねカス野郎」

アリスから順に乃之亜ちゃん、副会長、そしてアホ会長がオレに侮蔑の視線を送る。

どうやらオレの方が好感度がた落ちのようだ。ふふ、何でだ?

だがそんな事を気にするオレではない。オレは目から汗を流しながら四階窓を開けて飛び降りた。

「わぁあああああ!!ごめん言い過ぎた洋季!だから早まった真似は!」

アリスがなにやら叫んでいるが、オレは自前のパラシュートを既に開いて一階地面に着いていた。

「死ね非常識やろぉおおおおおお!!」

アリスから最大の褒め言葉を頂いた。


さて、一時の感情の高ぶりによって、つい四階からスカイダイビングしてしまった。

でもまぁ教師勢から逃げる時よく使う手段なので別段どうともない。

いやしかし、政宗は思ったよりも強敵と見える。

眼帯をしている痛い野郎だと思っていたのに、どうも人気がありすぎる。

まぁそりゃめっちゃ美形なのは認めよう。

ちょっと甲高い声だが透通っていてきれいだ。

オレへの攻撃やそのスタイルからして運動もできると思われる。

しかも度々女子の集団に追いかけられている光景も目にする。

そして逃げている政宗に『こっちだ!』と嘘の誘導をして女子の巣屈へ追いやった事もある。

あ、違う。これはオレの行動だった。

まぁ要するに、龍介だけだと思っていたリア充キングは、意外にももう一人いたってことだな。

しかも龍介よりは頭がいいだろう。まぁ龍介が異常だという面もあるが………。

だが、このままでは可愛い女の子が全員取られてしまう。

そしてあいつらの周りにハーレムができる。

龍介はきっとこう言うだろう。

『あぁ、女子は本当にうるさいな。付いて来るのもいい加減にしてほしいよ』

そして政宗もきっとこう言う。

『全くだな。女って言う生き物は本当にめんどう極まりない』

そんな許せない言動をしているのにもかかわらず、きっと女子達はやつらの周りにいることを止めないだろう………。

いや!このリア充どもはわかっているのだ!本当は女子が離れるわけが無いということを!

己の美に酔いしれ!周りの羨望に酔いどれ!女子の歓声に酔い乱れ!

その上であえて”別に………”というクールを気取っているのだ!

「うぉおおおおおお!!」

オレの体の中でモテない男のひがみと無念と邪心が渦中を造る。

そしてモテる奴らを激しく憎むエネルギーが生まれた。

「許すまじ!リア充ダブルキングぅぅぅううう!!」

オレの雄叫びは校庭を走り、学校中に響き、街にまで届き、山を越えて、海を疾風のごとく渡り、風に負けず、何物にも負けず、果ては異国の地にまで到達しただろう。

まぁそんなわけも無いだろうがな。


気が晴れたので校舎裏の花壇がある校庭に来ました。

学校を囲む塀を少しでも柔らかい情景にするために花を植えたようだが、残念ながらこんな辺鄙へんぴな場所に生徒はこねぇ。よってオレの秘密の場所さ。

あれ?秘密の花園ってやつ?なんかかっこよくね?

オレはいい気分で花壇を見ながら校庭を進む。

だが、どうやら先客のようだ。

かがみ込んだ後姿が見える。そして花壇を一心にのぞいていた。

意外だな。政宗だ。あのポニーテールというよりはストレートを縛っただけという後ろ髪。というかコイツは眼帯や後ろ髪を縛ったり名字が伊達だったりと、政宗と呼ばれたいとしか思えない容姿の癖にそう呼ぶと怒るんだよな。

まぁとにかく御本人がしゃがんだ姿勢で花を愛でているシーンに遭遇したオレ。

気まずいな。何がって男が花を愛でているシーンを見ているんだぜ。

あれか?オトメンか?乙女のようなメンなのか?

まぁとりあえず、オレは手頃な茂みに身を隠しながら政宗に近づく。

こいつらは顔を見ればオレの思考が直ぐに読める読心術の使い手だが、顔さえ見られなければどうということは無い。オレは聞き耳を立てるため、政宗の後方の茂みまで移動する。

「……………ハァ~」

政宗の口からはため息のみが吐き出されている。

おいおい、ここは独り言を言う場面だろ?早く言っちゃいなよ!

「…………洋季………死なないかなぁ」

最低だなオイ。

だが、どうも思い悩んだ様子で、重々しくそんな台詞を言っている。

もしかして本気で死んで欲しいのか?それはひどすぎるぞ?

「…………政宗じゃ…………ないもん」

そこか?そこが一番嫌なのか?だったらせめて眼帯取れよ!あとキレた時木刀を持ち出すな。

しかし、どうも政宗を毛嫌いする傾向が強いな。

言っちゃあなんだが、政宗って褒め言葉じゃないか?

容姿端麗のイケメン武将。最近ではろくに歴史を知らない奴でも、政宗かっこいい!と噂になるくらいだというのに。小説やアニメ、漫画でも主人公クラスのキャラだぞ?

それに引き換えオレはどうだ?

武将に例えるなら…………なんだろう?

織田信長?でもオレそんなに残虐非道じゃないし。

豊臣秀吉?でもオレそんなに知恵が働かないし。

徳川家康?でもオレそんなに我慢強くねぇし。

う~ん、ここは一つ最後の最後で信長を暗殺した明智光秀にでもするかな。

なんて言うか信長暗殺とか非常識っぽいし。

決まったぜ。オレは明智光秀だ。

清々しい気持ちになったオレは隠れるのも馬鹿馬鹿しくなったので政宗の真後ろまで出てきた。

「おい、政宗」

「え?はぁあ!?…ばっ!何でお前がここに!」

「信長様を殺したのはワシだぁあああ!!」

わしは正直に告白した。己の過ちを。

「………は?」

政宗殿は驚嘆と怪訝な目をこちらに向ける。その表情から、どうやらワシの告白を信じられずにいるようだ。

「もう一度言おう………本能寺に火を放ち、信長様を自害に追いやったのは………このワシ、明智光秀じゃ」

ワシは、晴れ晴れとした心意気を不可思議に思いながらも、悪くないと思う。

信長が、果たして安寧の世のために天下を目指していたのか、ワシには見定め切れなかった。

多くの人をあやめ、時には仏や僧侶相手でも、容赦なく刃を下ろした主君に、果たして民の笑顔を守れるのかどうか………。

奇妙を好み、妖しさに魅了されていた、あの男に……天下を取らせる事に、ワシは畏怖していた。

暴君が治める世など、果たしてあってよいのか。

民の上に立つものが、殺生を好むものでよかったのか。

気に入らぬもの、邪魔なものを力だけで握りつぶすまつりごとでいいのだろうか。

ワシには、あの信長の全てが見えなかった。本物の信長を見れなかった。

見たいと思った、だが!天下が降りてからでは遅いのだ!

「政宗!………ワシは、後悔してはいない」

ワシの希薄迫る様子に、事実であることを悟った政宗の表情は、理解できない、とワシに語りかけているものであった。

「民を………人々を、救うことを、天下をとる者はせねばならない。慈悲が必要なのだ………ワシは、信長にそれが欠けていると思ったのだ」

「いや、あの」

「ワシは、罪だと理解しておる。信長を殺めたことで、天下をとったつもりも無い。むしろ、隙を狙い、戦うこともせず、火を放った。要は、ワシは卑怯者だ」

「も~しも~~し?」

「罪は認める。わしを殺すなり、好きにせい」

ワシは朗らかな表情を、自然に出せれた。

それが、嬉しくもあり、滑稽でもあった。

「うざい」

政宗の拳がワシの顔面を殴った。わしは死んだ。


気がついたら、最初に青空が目に入った。

オレは上体を起こすと、政宗がヒザ枕をしていることに気づいた。

「す、すまん。ちょっと強く殴りすぎた」

どうやら責任を感じてオレを看病していたらしい。

だが、膝枕って。

「あぁ?地面に頭擦り付けてるほうがよかったのか?」

「いえ、ありがとうございました」

ドスの低い声で脅してくる。似合いすぎる脅しの顔も効果抜群だ。

「それで?何で私を追いかけてきたんだよ?」

私って、キャラに合わんな。

「貴様は毎回毎回癪に障ることばかり言いやがって」

政宗が怒っている。だが勝手に人の心を読んでいるお前が悪いと言えよう。

「………もういい。で?用があるのか?」

「ないな」

「………曲がりなりにも謝りに来たとか無いのか?」

「謝るって?どなたに?」

政宗がこれまた長い大きなため息をついた。はてさてどうしたのでしょう。

「あのさぁ、人を事故とはいえ公然の前で押し倒したんだぞ?なのに侘びの一つも無いのか?」

「政宗はプライドの塊だな。しかたねぇ、謝ってやるからよぉく聞けよ」

「何で上から目線なんだよ」

政宗がオレの頭をはたく。結構強いが慣れてきた。

「すまん」

叩かれた後謝ると、なんだか妙な敗北感に襲われる。

「………ん…許す」

頬を赤らめて政宗はそう言った。もしやコイツサドか?Sってやつか?

「ばっ!赤くなんかなってねぇよ!」

そういえば、今日の政宗の眼帯は三日月のアップリケが刺繍されてある。

毎日変わっているが、これを作っている人は相当刺繍がうまいな。女の鏡と言っても過言ではない。

「…………どうも」

ん?何で政宗が真っ赤になって返事するんだよ?





 歴史ネタがちょっと多い気がするが、気にしないで行こう。

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