P9「やったって後悔はするものだ」
やらずして後悔する?やって後悔する?
でもぶっちゃけどっちも後悔はするんだ。
だが、やらなけりゃ未来はない。やれば未来はある。
そゆこと
太陽ががんばって陽を照らす中、体育館裏の日陰にわざわざ隠れているオレ。
体育館の中では新生徒会のバルドル生徒会のメンバー達の親任式が行われています。
やれやれ、世話の焼けるやつらだぜ。
「そこにいたかサボり野郎」
おっと、こんな辛気臭い場所に見回りの先生が来てしまった様だ。
口の悪さとハスキーボイスが目立つ東雲先生。本日は竹刀無しのようです。
まぁなくても十分強いけど。
「相変わらず失礼なやつだ………ほら、早く中に来い。立ち上げた本人はお前だろうが」
「頼まれた仕事をやっただけですよ。オレに役職はないでしょ?」
オレは一人で手品道具をひろげながら練習をしていた。
トランプを混ぜて一枚だけ選ぶ。それを透視能力で当てる。これはスターの18だな。
「そんなマークはない。数字も13までだ」
ふむ。失敗か。ところで海外では13が不吉な数字なのに、なぜトランプはあえて13までしかないのかね?
「知るか………それよりも……戻る気がないなら……わ、私の相談を聞いてくれないか?」
頬を赤らめてオレの隣に腰を下ろす先生。うはっw可愛いなおいww
正直ずっとそのままでいればモテるのにな。もったいない。
「うるさいな………なぁ、私は………どうすればいい?」
「何を?」
「…………いい加減なやつだな。知っているだろう?……黒三沢が、その……私を好きだと」
「告白したと………で?」
オレの飄々(ひょうひょう)とした態度が、どうも気に入らない東雲先生。
自然と言葉に強い調子が入ってくる。
「お前はどこまでも無神経な男なんだな!………教師と生徒の恋愛は、その、あまりよくないというか………その、色々とな」
「まぁ問題はありますね。で?それはそれとして、どう答えます?」
「いやだから………あ、あいつの将来も考えてだな」
「将来を考えれば好きな女性と結ばれるようにしてあげたいですよね?」
オレの答えがあまりにも意地悪すぎたためか、東雲先生は詰まる。
「……そんな事を言ったら………私の、理性が飛んでしまいそうだ」
「あなたが正常な理性を働かせているというのならオレへの暴行ももうちょっと緩和されてもいいでしょう?」
「それはそれ」
これはこれですか。
「………私だって、女なんだから。あんな本気の告白をされて揺れないわけがないだろう」
「じゃあオチちゃえばいいじゃないですか。真剣に愛してくれる相手に惹かれた。理由はそれで十分でしょうに?」
「そうはいかんだろう………」
体操座りで顔を膝にうずめた東雲先生。おやおや、相当悩んでいるようだ。
「そんなに怖いですか?」
「………相手は生徒だ。一時の感情に流されているだけかもしれん」
「佳孝が一時の感情に流されるような軽いやつに見えますか?色んな意味で自分を貫いている気がしますが」
「そ、それでも………自分より、若い子ってのは……な」
「男だったら10も20も若い女の子と結婚できたら誰もが喜ぶのに。女性は大変ですね?」
「ふふ、何せ10も20も年上の男に女は惚れるんだ。だから、その逆だと、どうもな」
やれやれ。どうも踏ん切りというか、思いっきりが足りませんなぁ~?
「じゃあ、眼中にないって言ってやればいいじゃないですか」
「それが出来なくて……困っているんだよ。本当はそうするのが一番だと分かってはいるんだが………未練がましいのは女の性だな」
「世間ではそう言った状態を『惚れてる』って言うんですよ」
「バッ!そ、そう言うわけじゃ」
あ~あ~、顔を赤くさせて湯気まで出しちゃって。遅咲きの青春がここに戻ってきたってか?
「茶化すな………あぁもう!お前と話すと纏まるものも纏まらん!いつもそうだ!お前は周りを振り回しておいて自分勝手に生きていて……全く………羨ましいとは、この事だよ………」
う~ん。今までにないほどの乙女オーラ全快の東雲先生。
その上なにか感情に押されたためか目が潤み始めている。このままではいかんな。
オレはトランプをきって、一番上のカードをめくった。
「………ハートのエース。いわゆる『たった一つの愛』ってやつですな」
「なんだそれは?」
「家族や友人などにむける愛は無数にあっても、この世で決めたたった一人にはまた違う愛をむけるって意味ですよ。そう、一つしかない愛をね」
「………言ってて恥ずかしくならんか?」
聞いてて恥ずかしくなってる東雲先生と違って、私のハートは鋼鉄なんです。
「で?どうです?結婚しちゃう覚悟は出来ました?」
「けっ!結婚て!おま!そりゃ早計というか、そんなに話が跳躍するのか?え?え?」
なるほど。慌てふためく様子が面白いと言った桜田先生の言葉が今理解できた。
「からかってたのか!」
東雲先生が怒りのあまりオレをタコ殴りにする。やばい、この人力を制御できてねぇ。
「まって!違う!ただ佳孝のことだからそこまで覚悟してるだろうと!」
オレのその台詞に、ようやく東雲先生のラッシュが止まる。
オレは他界寸前で一命を取り留めた。
「い、いい加減……ウジウジするのは止めてくださいよ。授業もほっぽいて、最近では生徒指導も満足に出来ていないって………それじゃあ他に迷惑掛けまくりでしょう?」
オレが説教じみたことを言うと、意外にも東雲先生は小さくコクンと頷いた。
「佳孝は信用できる男なのは先生も知っているでしょう?大丈夫だって、一度付き合ってみてから、また将来のことはお二人で考えてくださいよ」
「………うん」
おいおい。あの猛獣がまるでチワワの如く大人しいぞ?恋のパワー恐るべし。
「じゃあ。返事はオッケーで返すんですね?何なら今から集会をジャックして東雲先生と佳孝のカップル成立宣言をしてあげましょうか?」
「殺すぞ」
わ~ぉ。その獅子も逃げ出すドぎつい両眼の黒い光はなんですかぁ?
やっぱり東雲先生は最強でした。
集会も無事終わったらしく。生徒達が解散してます。
「じゃあ先生。ガンバッ」
「うるさい」
いつものクールな返事が返ってきました。ほほぅ、頼もしい。
「あ、そうだ。佳孝が言っていたんですけど………か弱い部分を見せたんですって?」
「………!!!!!!」
東雲先生が何かを思い出したらしく。今までにない声にならない叫び声をあげる。
「え~?なになに?甘えたんですか?それとも泣いた?意外にも強い先生の弱さを見て佳孝もオチたって言うし。実は計算ですガブファ!」
「死ね!忘れろ!消えろ!去れ!悪魔!殺す!ぶっ潰す!擦り切れろ!」
怒涛の先生必殺コンボ炸裂。オレの人生ここでデットエンド。
時刻は午後になり、部活動時間です。
そして何もないはずのオレは職員室で碁五郎先生の前にいます。
「はてさて、一体なんのようですか碁五郎先生」
「いやなに。顧問代理を君に頼もうと思ってね」
このおっさんは目を閉じながら何を言っているんだ?寝ぼけているのか?
「失礼なやつだな。寝てはいないさ。それよりも、君の組織進行能力は中々のものだと思う。会長の春君と仲がいい理由も分かった気がするよ」
よもや初めての出会いが道行くお姉さんにアドレスを聞いて回り、多くゲットできた方が勝ちという勝負をした仲だとは、とても言えないな。
「………まぁ、私もそんな経験はある。心にしまっておこう」
話の分かる先生だ。今度はぜひとも先生と勝負をしてみたい。
「そんなことよりも、代理のことだが……受けてくれるかな?」
「ことわ~る」
「出来ない相談だな。私は今年、念願の探偵クラブの顧問になれたのだ。ぶっちゃけるとそっちに力を入れたい」
あんたどこまでソノ設定を引きずるつもりなんだ?
「ともかく、頼んだよ。むむ?ホームズから連絡か」
「は?携帯も何も鳴ってませんよ?」
「電波だ」
どうしよう。基本教師陣はオレより強者のようだ。
仕方だないのでオレは渋々代理を受けることとなった。
生徒会室に到着。
正直新組織には成ったが、活動場所も内容も、さして変わらない。なのでとりあえず今日もソファーでゴロゴロしますか。
オレがドアを開けて中へ入ると、行き成り書類の束を持った誰かとぶつかった。
「きゃっ!」
「ん?」
派手に散らばる紙と、倒れる女子生徒を反射で抱きとめるオレ。しまったいつもの癖が。
「ごめん。大丈夫かい?」
「え?………あ、はい。大丈夫です」
え?これはもしや恋の予感か!?
「ありがとうございました。では」
目の前の女子生徒は素早く地面に散らばった紙を集めると、爽やかな笑顔でドアから出て行った。うむ、実にあっさりと。
「………あれ?ここはそこはかとなくいい雰囲気になるはずでは?」
オレが目を点にしていると、今度は会長が慌しくドアを開けて部屋に入ってきた。
「ん?洋季か?悪いが邪魔だ。遊ぶなら余所へ行ってくれ」
「………あぁ、ごめん」
遊ぶ気も何もないのだが、正直ここにいると嫌な予感しかしないので早々と退場しよう。
「あぁあああ!!!洋季さん!丁度いいところに!」
わお、総統の乃之亜ちゃんが珍しく声を上げちゃってるよ。どうしたのかな?
「どうしたもこうしたも!もうすぐ始まる登山遠足の企画と要項まとめに日時と場所の確保などの準備がまだなのでこっちは大忙しなんですよ!それに希先輩は春の各部活大会に向けての話し合いと新部活費用の取り決めで忙しくて!お姉ちゃんは夏に来る体育祭の事前取り決めの準備中だし、アリスちゃんは他校への新生徒会発足によるあいさつ回りをしているんですよ!会長さんと副会長さんは風紀の取締りのため、風紀委員と今校則の改正を話し合っているんですよ!」
すごい!あの寡黙な乃之亜ちゃんがツッコミ並によく喋ってるぞ!
「ふざけないでください!それよりも、顧問の碁五郎先生の代理を任されましたよね!」
「あ、うん、えっと、まぁ、そうだと言えばそうかなというか」
「はい、じゃあまずは春の登山遠足の開催場所は例年通りの『楠高山』でいいでよね?まずはそこの管理者さんに電話を入れて了解を取ってください。一応役所でよかったと思います。続いて日時と参加生徒数ももうこの紙にまとめられていますからね。後は最悪の事態を考えて山岳救助隊への事前連絡もしてくださいね。当日何かがあれば動けるようにお願いしてください。それが終わったら企画書に目を通して校長先生に伝達をお願いします」
乃之亜ちゃんの素晴らしい滑舌の良さを堪能したところで、さぁ、めんどくさい事になってまいりました。
「あぁ、あと洋季、こっちの校則改正の資料も読んどいてくれ。こっちで結論が出たら同じく校長先生、並びに教務主任に話をしておいてくれよ。なにせお前の仕事は顧問代理、要するに先生の代理だから、俺たちと教師の橋渡しをしっかりしてくれよ」
春が悪い笑顔をこちらに向けながら言います。ぜってーシメる。
「さぁ!洋季さん!忙しくなりますよ!」
「自分でしておいてなんだけど、後悔でいっぱいです」
それでも強く生きていくって、大切だよね!