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◆4 ニーヴェオ・ルーナ・ミネラーレ皇帝。

2024/02/27


実の父親こと皇帝視点。






「父親が誰かわからないからと言って、何の罪もない子どもを虐げる外道が! 他にあの娘に何をした! 洗いざらい吐かぬのならば、自白の魔法で苦しませてやるぞ!!」

「ひぃい! わ、わかりました! お許しを! お許しを!!」


 謁見の間から場所を移し、応接の間で信用出来る魔法騎士団員も同席させて、文官に聴取をさせている。


 あの娘が不憫でならない。

 もっと気にかけなかったことが悔やまれる。


 レティツィア・タルタルーガ。私の実の娘。

 事故で生まれてしまった子ども。そう呼ぶのは、あまりにもレティツィアに失礼だが、悲しいことに事実だ。


 十七年前。今の皇妃との結婚があと数ヵ月に迫っていた私に仕掛けられた罠。

 醜聞による失脚を狙って無作為に選ばれた被害者が、レティツィアの母であり、皇妃の侍女のココシア嬢だった。

 理性も飛ぶ媚薬のお香に満ちた部屋に閉じ込められて、無駄に強固な結界で微動だに出来ず、過ちは起きた。

 私もココシアも、皇妃への裏切りだと深く傷つけられて、私は怒り狂って関わった敵を全て葬った。

 全て終えたあとに聞かされたのは、ココシアがあの件で子を宿したということだった。

 この一件を闇に葬るなら、子も流すべきだった。だが、ココシア嬢と同じくただの被害者の子どもに罪はない。そこまで冷酷にはなれず、離宮で秘かに生ませることを指示した。


 最愛の人、ミラレーゼは、気丈だった。

 荒む私を慰め、叱咤して、抱き締めてくれた。

 無事、結婚式を迎えることが出来たのも、最愛の彼女のおかげだ。


 それでも、私の子が無事生まれた知らせを聞き、心に影は差した。

 散々後回しにして、決意をしてココシア嬢と生まれた娘を見に離宮へと向かえば、すぐさま膝を突いて懇願された。

 生かしてほしいと頼まれるほどに、その腕に抱えられた赤子の存在は、本来なら葬られるべきだったのだと現実が突き付けられる。

 過ちで誕生してしまった命を、直視するのはつらかった。


 命を摘むつもりはない。好きに生きるといい。

 そう告げたつもりだったが、違ったかもしれない。

 赤子にしては大人しかった娘は、私と同じライトブルーの瞳でじっと見上げていた気がする。



 それから、十六年。

 正直、記憶にはほとんど残らなかった。無意識に考えから追い出していたのだ。


 夜の城の庭に、私と同じ月光色の長い髪を目にして、まさかと過った。

 自らの意思で月光色の髪をベージュ色に染めている令嬢が、ライトブルーの瞳を持っていたことに息を呑んだ。

 自分によく似た少女が存在していた。


 本当に後悔をした。今まで関心を示さなかったことに。

 皇妃に話を通した方がいいと突き放す娘は、言外に“何を今更”と言い放っているようにも聞こえた。


 すぐに娘であるレティツィアを調べると同時に護衛もつけるために『()』をつけた。


 その後、後悔が膨れ上がる情報ばかりが募った。


 ココシア嬢は三年後に他界したことは知っていた。しかし死因は、心労が祟った病死だとは……。

 事情を唯一知る先代のタルタルーガ伯爵も一報をくれればよかったものを。

 レティツィアを守るために、後継者夫婦に養子縁組にしたらしいが、風当たりは最初から強かったらしい。

 父親が明かせない未婚の令嬢が生んだ娘。相当、蔑まれたらしい。

 浅はかな。もっと考えれば、複雑な事情があると察することが出来るだろうが。これだからバカは嫌いなんだ。いや、存外無理な話なのか……。


 レティツィアは、当時の家庭教師達に称賛されるほどの神童だったという。

 だが、十歳になって先代の伯爵も病に倒れた。家督が継がれたあと、レティツィアに家庭教師はいなくなったという。その後は自主学習をしていたそうだが、何の問題もなく、王都学園を首席入学したのだ。

 外見だけではなく、私の頭の良さも色濃く受け継いだようだった。


 話してみたい。交流してみたい。

 そんな気持ちを抱いてしまうのは、最愛の皇妃への裏切りになってしまうだろうか。

 そして、やっと出来た息子への裏切りになるだろうか。


 恐る恐ると皇妃のミラレーゼにレティツィアの話をしてみたら、叱られた。

 何故もっと早くレティツィアの話をしてくれなかったのかと。

 ミラレーゼもココシア嬢が儚くなって以来、ずっと気にかけていたが、私が気に病むと思って今まで我慢していたという。


 折を見て、レティツィアと交流しようと話は落ち着いた。


 しかし、そのレティツィアは『影』の報告を聞く限り、かなり逸脱しているほどに優れている。

 先ず、毎日転移魔法で登下校をしているという。学園入学初日からだというのだから、学ぶことはないのではないかと疑ってしまった。

 叔父の実の娘、義妹達に嫌がらせを受けてもいなしているらしい。

 ふしだらな娘だという概ね淑女らしかぬ発想の悪い噂を流されても、自分で対処してしまったそうだ。

 威風堂々として強い。

 ヴェレッタ公爵家の問題児、暴れん坊の長男とひと悶着があったが、怪我をすることなく圧倒した上に拘束したという。アレは私という麒麟児の再来と云われているほどの天才だったというのに。涼しい顔で対処してしまったとか。

 さらには、学園にいる『影』の存在にも気付いているそうで、『もっと上手く隠れろ』と注意をされてしまったそうだ。笑ってしまう報告だった。『影』は皆、もっと精進すると対抗心を燃やしてしまっていた。面白い。


 早く会いたいとミラレーゼと予定を合わせて呼び出す招待状を送りつけた時点では、まだ皇帝が目をかけている存在だということでタルタルーガ伯爵家に圧をかけるだけのつもりだった。

 しかし、招待状を受け取った伯爵家の反応を報告で聞いて考えを変えた。


 『生まれてこなければ』などと、よくも言いおって。

 あの娘に聞かせたくない言葉だ。いや、きっとこれは、どんな子どもにも聞かせてはいけない言葉だ。


 もう私の娘だと明かして、いかに自分達が罪深いかを思い知らせることにした。


 自白の魔法は、無理矢理情報を吐かせるため、苦痛を伴うと周知の事実。

 怯え切ったタルタルーガ伯爵夫妻は洗いざらい話した。

 同じくレティツィアを悪く言っていた愚かな仲間のことも。


「おい。お前の実の娘の行いがまだだろ」

「ひっ!! 娘だけは! 娘だけは!!」

「この私の娘を貶めておいて、自分の娘を庇い立てするのか!」


 結局、自白の魔法をかけて、全てを吐かせた。

 そして他言無用の誓約を交わさせた。



 さて。処理は終わった。

 最愛の皇妃ミラレーゼがレティツィアと話しているが、大丈夫だろうか。

 本当は一緒に話して、認識の違いがないか、確認したかったのだが……。


 合流しよう。

 ……何から話そうか。





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