電子書籍第二巻発売記念SS-願い
あとがきにてお知らせがあります!
今回はアリシア視点、その後の物語なのでなろう版本編または電子書籍第二巻読了推奨です!
(糖分多めです…!)
「アリシア様」
柔らかな眼差しと微笑みを湛えて私の名を呼ぶカイル様の姿に、ドキンと大きく心臓が高鳴る。
少年のような可愛らしさがすっかり身を潜め、大人の男性に成長しつつある彼の、いつもとは違う姿に緊張してしまう。
(まるで、別人みたい……)
「アリシア様、お手を」
「っ!」
カイル様に手を差し伸べられ、緊張から震える手をそっと重ねる。
するとカイル様は、心から嬉しそうに破顔した。
その笑みは、成長してもなお以前と変わらなくて……。
「……ふふっ」
「なぜ笑うのです」
カイル様が不思議そうに尋ねてきたのを聞いて、私は迷いなく答えた。
「カイル様はカイル様なんだなあって」
「……それ、褒めてます? 貶してます?」
「安心してください、褒め言葉です!」
そう満面の笑みで返せば、カイル様はうぐっと喉に詰まらせたような声を発した後、はーっと長く息を吐いて口にした。
「……貴女のその笑顔を見ると、何でも許してしまう自分が怖い……」
「?」
その言葉は私の耳には届かなくて。
代わりにダンスの始まりを告げるワルツの演奏が奏でられ、私とカイル様は手を取り合い、音色に身を委ねて踊り始めた。
今宵は三年の一学期最終日、舞踏会という名の通称“試験お疲れ様会”。
そして、私達にとっては一年越しの、二人で参加する舞踏会となるこの日を、私は心から楽しみにしていた。
だって……。
「カイル様、私達踊っていますね……!」
思わず感極まって発した言葉に、カイル様も嬉しそうに笑う。
「そうですね。貴女にとって念願だったのですよね」
そう、カイル様の言う通り、私はずっとこの日を心待ちにしていた。
カイル様の婚約者として、一緒に踊れる日を。
「……去年のこの日、踊れなかったことをずっと悔やんでいたのです。
あの時カイル様の言葉をあの場で受け止めることが出来ていたら、もう少し一緒にいることが出来たのかなと、そんなことばかり考えてしまう日々を過ごして……」
学園主催の舞踏会では、婚約者がいる方々は婚約者同士のみでダンスをするのが暗黙の了解となっており、その時点で婚約者だと周囲に知らしめることになる。
「あの時はまだ一時的な婚約者でしたけど、もしカイル様の本物の婚約者になれたらって、やっぱり夢見てしまう自分がいて。
そう願いながら一緒に踊ることが出来たらと思っていたんです。
だから、今日こうして、カイル様の正真正銘本物の婚約者として踊ることが出来てとっても嬉しいです!
一緒に踊っていただきありがとうございます、カイル様!」
嬉しくなりそう声を上げた私に、カイル様は目を見開いた後天を仰ぐようにして言う。
「……そう、それは良かったです……」
「はい!」
元気よく返事をしたものの、カイル様と一向に目が合わない。
……よく見ると、カイル様の耳が赤いことに気が付き、何だか分からないけれど私も伝播してしまったようで顔が熱くなるのを感じて、慌てて口を開いた。
「そ、そういえば!」
「はい」
「ずっと、聞きたかったことがあるんです」
「聞きたかったこと?」
尋ね返してくれたカイル様とようやく目が合ったと嬉しく思いながら頷き、口にする。
「カイル様が勇者パーティーに選ばれた時のこと。
“誰がために、魔法を使う”と尋ねられた後に返した言葉を知りたいです」
「!? な、なぜそんなことを知りたいのです?」
(前世の記憶があるから、なんて言えるわけがないわよね)
前世の小説、“たがため”には、勇者パーティー全員が選ばれた時に発した言葉が綴られていたため、当然カイル様のお言葉も知っている。
(小説においてのカイル様は、『己の運命にも負けない強さを得るために』と答えたのよね!)
史上初の全属性において、六人目として勇者パーティーに名を連ねたカイル様。
さらりと描かれていた内容だけど、それがどれだけ凄いことだったかを転生してから知った。
だから。
「勇者パーティーに選ばれたカイル様の口から直接、そのお言葉を聞きたいからです!」
「…………」
カイル様はまたもや天を仰ぐ。
そんなに口にするのが恥ずかしいのかしら、と首を傾げた私に対し、カイル様は逆に問い返してきた。
「アリシア様の場合は、なんと?」
「わ、私ですか? 私は、『愛する者達のために』と答えました」
「『愛する者達』……、複数形なんですね」
「はい! カイル様も家族も友人も、全員を守るために戦うつもりでいたので!」
迷いなく力説した私に対し、カイル様は「そうですよね」と困ったように笑いながら答える。
「アリシア様なら、全員を守ろうとしそうです」
「? それはカイル様も同じではありませんか。
皆を守りながら戦っていたとお聞きしましたが」
「……まあ、そうなんですけど。一番は多分、誰かが傷ついたらアリシア様が……、いえ、そういうことにしておきましょう」
カイル様は息を吐くと、「話を戻しましょう」と言って切り出した。
「そうですね、僕が尋ねられた時に出した答えは」
「ちょっとお待ちください!」
「!?」
私の言葉に心底驚いたというような顔をするカイル様に申し訳なく思いながらも、これだけは譲れない!と意を決して述べる。
「私が質問したら答えてください! 選ばれた時と同じように!」
「……は!? この状況でですか?」
「はい! 今すぐ聞きたいです!」
(小説の展開をカイル様から直接!なんて、聖地巡礼よりも豪華で夢のようじゃない!?)
是非……! と目をキラキラさせているだろう私の言葉に、カイル様は考え込んでからやがて諦めたように「分かりました」と言う。
それに喜んでいる間に、カイル様が「これも惚れた弱み……」とどこか顔を赤らめながら呟いたけれど、興奮している私の耳には届いては来ず。
小さく咳払いして声を整えてから、「では」と口にして、カイル様に向けて問う。
「『誰がために、魔法を使う』」
カイル様の目を見て尋ねた言葉に、カイル様は小さく息を吐いてから、やがて真剣な眼差しを私に向けて静かに言葉を発した。
「……『己の運命にも負けない強さを教えてくれた、世界で一番愛しい人の笑顔を守るために』」
「…………っ」
小説と同じようで、全然違う。
その言葉は、まさに。
(もしかしなくても、私のため……?)
「……っ、こんな恥ずかしい思いをさせておいてダンマリですか」
「えっ?」
見れば、カイル様の耳は真っ赤に染まっていて。
顔もほんのり赤くなっていることに気が付いた時には時既に遅し。
「わっ……!?」
演奏が終わるというタイミングを図ったかのように、カイル様に横抱きにされてしまう。
驚く私に、カイル様は艶やかに笑って言った。
「僕は、貴女からのお願いなら見返りなんて求めずに叶えようと思っていましたが気が変わりました。
……今度は、僕の願いを叶えてもらいましょう。
あぁ、そういえばちょうど、恋人達が過ごすのに相応しい休憩室を貸し切っていましたね。その部屋を使いましょうか」
「〜〜〜絶対策士ですね……!?」
勇者パーティーとして功績を残したカイル様に叶えられない願いなんてもはや何処にもなく、咎める者もいない。
それを良いことに!! と抗議の声を上げれば、カイル様は「だって」と私の耳元に顔を寄せて囁いた。
「貴女が可愛すぎるのが悪い」
「……っ!? !?」
あまりの破壊力に今度は私が耳まで真っ赤にさせる番で。
そんな私を見たカイル様は満足そうに笑い、私を抱えたまま、甘やかで魅惑的な表情で言葉を紡いだ。
「さあ、今度は僕の願いを叶えてもらうために、二人きりになれる場所に行きましょうか。
僕の……、僕だけのお姫様?」
本編のその後、アリシアとカイルのファーストダンスのお話、いかがでしたでしょうか?
私も予想外の長編&溺愛ぶりをカイルが発揮してくれて(笑)、キュンキュンしながらお読みいただけていたらとっても嬉しいです…!
そして!電子書籍版完結となる第二巻が、本日より各電子書店様にて配信が開始されました〜!
第一巻に引き続き、イラストを担当してくださったボダックス先生の表紙絵がこちら↓
第一巻に比べて大人っぽい二人!その上二人の立場逆転していますよね…!?
最高に美麗で毎日拝み倒しております、ありがとうございますボダックス先生…。
収録内容は、なろう版本編互いの両親にご挨拶〜エピローグまでを改稿、加筆、そしてカイル視点番外編では溺甘なその後もお読みいただけます♡(詳細は活動報告にて)
是非お手に取っていただけたらとっても嬉しいです…!!
電子書籍全二巻、そしてコミカライズ版も有料配信まで展開していただけたのは、見つけてくださった編集様方と応援してくださった読者の皆様のおかげです!本当にありがとうございます…!
また、本日をもちまして番外編の更新は一旦終了とし、完結表示とさせていただきます。
是非コミカライズ版で続く小鳥初夏先生による婚約打算の世界もお読みいただけたら幸いです!!




