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勇者パーティー選抜

「アリシア様、応援しております!」

「ありがとう」


 そう礼を述べて微笑むと、きゃーっと歓声が上がる。

 一生慣れることはないと思ったこの視線にも、もう慣れた。


(半年以上も経てばね)


 三年の二学期からの成績は、常に学年首位をキープしている。

 当然だ、殿下もクララもいないのだから。

 そして言わずもがなカイル様もいないから、学年問わず自然と皆の憧れの眼差しは私に向けられた。

 ……魔王討伐、“勇者パーティー”選抜最有力候補として。


 選抜をすると学園から大々的に発表があったのは、始業式の日だった。

 学園長直々にお話があったのだ。

 その内容は、大体小説通りだったから知っている。

 大体というのも、一部違うところがあるからだ。


 それは、既に魔物討伐を行なっている面々……、クララはともかく、殿下、カイル様も既に選抜試験を受けており、合格したということ。

 つまり、三人は始業式の時点で勇者パーティメンバーに確定しているというのが、小説とは違う点だ。

 私がクララの覚醒を阻止したことで、歯車を狂わせてしまったのが原因だと思う。

 小説には、その三人が魔物討伐で実践訓練を行うことなどないのだから。


 そして、決まっていない残り……、緑、水、風の三属性の枠をかけた選抜試験が、学園内で行われる。

 今日はその選抜試験が行われる日だ。


「……ふぅ」


 深呼吸をし、大きな扉の前に立つ。

「お入りなさい」という言葉と共に、扉が魔法によって開いた。

 キィーッという軋む音と共に足を踏み入れれば、扉がまたひとりでに閉まる。

 部屋の中は薄暗く、蝋燭がポツポツと立っているだけ。

 その部屋の中央、黒いカーテンに覆われている窓らしき場所の前に、試験官が立っていた。


(アリシアである自分がこの場に足を踏み入れることになるとは、転生したばかりの時は考えもしなかった)


 小説を通して知っている光景を、小説とは違う形で目の当たりにしている。

 改めてアリシアである自分が小説を狂わせていることを実感していると。


「お久しぶりですね、アリシアさん」


 その声にハッとし、淑女の礼をして返事をする。


「ご無沙汰しております、学園長先生」


 その言葉に、学園長はゆっくりと口を開く。


「貴女はあれから、何を学びましたか」


 そう尋ねられ、逡巡してから言葉を紡いだ。


「……家族や、仲間の大切さを知りました」


 彼らがいないこと。

 それがこの半年で、どれだけ自分が彼らに甘え、助けられていたかを思い知った。


「全てを一人で背負い、努力しなければいけませんでした」


 一人で練習していると思い出すのは、彼に魔法を教えてもらったあの日々。


「それでも、前を向いてここまで来れたのは、自分と同じように……、いえ、それ以上に仲間達も頑張っているからです」


 私が挫折している間に、彼らは比べようもないほどどんどん強くなっている。

 クララが聖女として覚醒したということも、殿下やカイル様が圧倒的強さを誇っているということも。

 耳にした時は、こんなところで立ち止まっている場合ではないと、自分を奮い立たせることが出来た。だから。


「私は、勇者パーティーに選ばれるために、努力してきました」


 私の願いは、小説とは違い、彼らと肩を並べて共に戦うこと。

 だから。


「私を、先に選ばれた三人と共に戦わせて下さい」


 そうはっきりと告げると、学園長は小さく笑みを浮かべる。


「……変わりましたね」


 その言葉に思わず息を呑むと、学園長が机の上に置いてあった水晶玉に手を翳す。


「……!」


 それは、小説で既に知っていた“勇者パーティー”選抜方法。

 翳した水晶玉が、風属性の魔法を発動した時と同じ銀色の光を帯びるのと同時に、私の足元に魔法陣が浮かび上がった。

 これがどんな仕組みで勇者パーティーを選んでいるのかは知らない。

 けれど、その後に試験官……学園長が、候補生に対して質問する。


(小説のタイトルと同じ、あの言葉を)


 学園長は小説の展開通り、ゆっくりと噛み締めるように言葉を発した。


「……“誰がために、魔法を使う”」


 刹那。


「!?」


 強い風が、私の周りに吹き荒れた。

 小説中にこんな描写はなかったため一瞬動揺するけれど、予期せぬ風如きに臆していたら魔王はおろか、魔物とは戦えない。

 そう考え冷静になると、無言で風に向かって手を伸ばした。

 その指先が風に触れた刹那、吹き荒れていた風がピタリと止む。

 そして、何事もなかったかのように、学園長の問いかけに対して迷いなく返答した。


「愛する者達のために」






 それから五日後。

 勇者パーティーに新たに選抜された三人のメンバーが、皆の前に登壇した。

 その三人は、小説と同じ顔ぶれ。

 つまり、私が勇者パーティーに選ばれることはなかった。


(結局、肝心なところで小説を変えることは出来なかった)


 今まで、何のために血の滲むような努力をしてきたのか。

 この勇者パーティーに選ばれることに命を燃やしてきた私は、無力感に苛まれていた。

 そして今日も、何となく足は訓練場である校舎裏に来ていた。


 勇者パーティー結成から三日後、今日は一行が魔王討伐に向けて出立する壮行会が行われている。

 壮行会と言っても、既に討伐に行っている三人はいない。

 予想以上に魔物が多く、彼らはその対応に追われているそうだ。

 そのため、新たなメンバーと現地での合流になっていると、風の噂で聞いた。


「……私も、皆の役に立ちたかったなぁ」


 皆、とか、愛する人達のため、とか口にしているけれど、いつだって私はただ一人のことを想ってきた。

 もちろん、家族も大事だけれど……。


「……カイル様と共に、戦いたかった」


 そう呟き自嘲した、その時。


「僕は、反対です」

「…………!?」


 その声に後ろを振り返った刹那。

 ギュッと、この半年の間で忘れかけていた温もりに包まれた。

 そしてその人は、これまたよく知る声……よりも少し低くなったように感じる声で、呟いた。


「ずっと、会いたかった」


 その言葉に、私の瞳から涙が一筋零れ落ちた。

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