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【電書全二巻発売中】バッドエンド回避のため、婚約者は打算で選んだ…はずでした。【コミカライズ単話有料配信開始】  作者: 心音瑠璃
本編

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急展開、そして…

 一学期最終日、舞踏会当日。 


「ク、クララ、本当に似合っているかしら!?」

「ふふ、お姉様、大丈夫よ! 本当に似合っているから!」


 クララに尋ね、そう返してくれるのはこれで何度目だろうか。


(だって……)


「カ、カイル様のご両親であるマクレーン辺境伯ご夫妻が、ドレスを贈って下さるなんて聞いていないわ……!」


 そう、私が今着用しているドレスは、カイル様のご実家から贈られてきたもの。

 紺地に小さな宝石が全体に散りばめられた、宛ら夜空を閉じ込めたようなデザインに、腰元のリボンは銀色。

 そして、耳元と胸元で光るのは、お揃いの精緻なデザインにアメジストが埋め込まれた、上品なアクセサリー……。


(この前の“お詫びの品”だと同封されていたお手紙には書いてあったけど、明らかにやりすぎなのでは!?)


 見るからに高いドレスに気後れしてしまっていると、クララがにこやかに感想を述べた。


「それに、マクレーン様の容姿と同色なのも、偶然などではないと思うわ!」

「っ!」


 その言葉に、頬に熱が集中するのが分かって。

 敢えて意識しないようにしていたけれど、側から見てもそう見えるのだ、やっぱり彼女の言う通り偶然などではない。


「……これを着た私を見て、カイル様はなんと言うのかしら……」


 ご実家から送られてきたということは、カイル様が知らない可能性が高い。

 そうなると、カイル様の意見を聞かずして彼の容姿の色を身に付けるということになるのだから、余計に気持ち悪いと思われるのではないか。


(ただでさえ、カイル様は自分の外見を大嫌いだとまで仰っていたことがあるし!)


「カイル様に嫌われたらどうしよう……っ!」

「お姉様、しっかりして!」

「!」


 クララの言葉に顔を上げると、彼女は人差し指を立てて言った。


「良い? これが辺境伯様方から送られてきたということは、辺境伯様方もお姉様とマクレーン様の婚約を応援して下さっているということよ!」

「……!」


 驚き息を呑む私に、クララは笑って言った。


「だから、自信を持って。でないと、逆にマクレーン様が悲しまれると思うわ」

「……クララ」

「それから、お姉様に一つ、言わなければいけないことがあるの」


 クララはそう言うと、真剣な表情をして言った。


「私ね……」






「……ま、アリシア様」

「!」


 カイル様に名を呼ばれ、ハッとする。

 カイル様は心配そうに顔を覗き込んだ。


「大丈夫ですか。今日はボーッとしていらっしゃることが多いですが……、具合が悪いのでは?」

「い、いえ、大丈夫です! それより、このドレスどうですか?

 カイル様のご両親が送って下さったのです!」


 そう言ってふわりとその場で回ってみせると。


「……とても素敵ですよ、アリシア様」

「っ!」


 カイル様はその言葉を、極上の笑みに乗せて口にする。

 途端に一気にのぼせたように顔が赤くなるのが分かり、私は恐る恐るカイル様に気になっていたことを尋ねた。


「そ、そういえば、カイル様と私、もしかしなくてもお揃い……、ですか?」

「はい。僕が両親と考えて仕立てたものです」

「……えっ」

「ちなみに、貴女のドレスは殆ど僕の意見です」

「え、えーーー!?」


 声を上げる私を見て、カイル様はクスクスと笑いながら続ける。


「実家に戻った時、そういえば舞踏会の衣装がまだだと言われて。

 僕は毎年、抜け出すのが基本なので、両親……主に母親に適当に見繕ってもらっていたのですが」


 そう言うと、カイル様は一歩私に近付き、手を取った。

 そして、両手で包み込むように私の左手を握ると、柔らかな笑みを湛えて口にする。


「貴女の婚約者として参加するのに、適当では勿体無いと思いまして。

 ……貴女を着飾ることの出来る権利は、婚約者である僕だけのものだと思ったら、力が入りました」

「なっ……!」


 ひぇっと、あまりの恥ずかしさに悲鳴をあげた私に対し、カイル様は耐えきれないと言ったように笑みをこぼすと、重ねていた片方の手を私の頬に添えた。


「ふふ、綺麗なドレスを身に纏った姿ももちろんそうですが、一番はその顔が見たかったからと言ったら……、貴女は怒りますか?」

「お、怒ります!!!」

「想定内です」


 カイル様はそう言ってより一層笑った……かと思うと、ふと笑みを消して言った。


「それで、貴女が舞踏会の間中憂いの顔を浮かべている理由は何なのです?」

「!」


 そう指摘され、思わず苦笑してしまうけれど、それは辛うじて笑っていられることで。

 心配をかけたくなくて無理して笑みを浮かべながら告げた。


「クララに、“長期的に学園を休むことになるから、お姉様とはもう会えない”と言われたのです」

「え……」


 目を見開くカイル様に対し、その視線から目を逸らすように、夜空を見上げる。


「殿下と共に、魔物退治の最前線へと向かうそうです」


 魔王が復活するまで、約半年弱。

 その間にも、今では結界の歪みから魔物が頻繁に姿を現しているらしく、特に魔物の群生地と化している国境沿いでは日々睨み合いが続き、討伐が行われているらしい。


「この前、学園に現れた魔物を退治できなかったことが相当悔しかったらしいのです。

 私はそれを今日聞いて、驚いて」

「……アリシア様」


 バッドエンドを回避するため、ヒロインであるクララを避けていた時期もあった。

 けれど、転生した今は大事な双子の妹だから。


「寂しくも、悲しくもあって。

 応援したい気持ちと、危険と隣合わせだからやめて欲しいという気持ちとで、複雑な心境です」

「…………」

「そんなことを考えてしまっていました。

 ごめんなさい、カイル様。舞踏会中上の空で、失礼なことをしてしまいました。

 お話ししたらすっきりしたので、もう一度会場に戻りましょうか」


 今は何も考えたくないから丁度良いのかもしれない。

 そう思い踵を返そうとした私の手を、カイル様は掴む。


「え……」


 驚き見上げれば、彼は戸惑ったように、でも私の方を見ると意を決したように口を開いた。


「すみません、アリシア様。

 僕も、貴女に早くお伝えしなければいけませんでした」


 その言葉だけで、続く言葉が容易に予測できてしまった。


(嫌だ、聞きたくない)


 そう思っても案の定、私の耳に予測していた残酷な言葉が届いた。


「僕も、その討伐に参加します」


 カイル様から告げられた言葉に息を呑む。

 震えそうになる自分を叱咤し、言葉を選んで尋ねた。


「……どうして、ですか。カイル様は、十分お強いですよね?」

「強くありません。闇属性の魔法は、貴女に助けられた上で成り立ったもの。

 ……どうすれば強くなれるかを考えたら、実践的に学んだ方が効率が良いと、そう思いました」

「いつまで、ですか?」

「……当面の間なので、定かではありません」


 定かではない。

 その間は会えないことが確定し、その上、魔物との戦いの最前線など安全が保証されていないのだから、もしカイル様が危険な目に遭ったりしたら……。


「……いつ、お決めになったのですか?」

「実家に帰ってからです。魔物討伐のために騎士団が動いているというのを父から聞いて。その時一緒に、殿下も妹様も参加なさると伺いました」


 それを聞いて思わず呟いた。


「……私だけが、知らなかったのですね」

「アリシア様」

「良いのです。私が、無知だっただけですから」

「アリシア様!」


 手を掴まれる。

 その手をやんわりと外しながら口を開いた。


「そう、ですよね。一時的な……、偽物の婚約者である私には関係ないこと、ですよね」

「っ!」

「それを聞いても、危ないから行かないでほしいとか、そういうことを私に言う資格はないと、自分でも思います。

 だから」


 無理矢理笑みを浮かべる。

 きっと、上手く笑えていないだろう。

 けれど、笑うしかない。


「お気をつけて、行ってらっしゃい。

 ……本格的に体調が優れませんので、申し訳ありませんがこれで失礼いたしますね」

「アリシア!!!」


 彼が私の名を呼ぶ。

 敬称が取れていますよ、と小さく突っ込みながら、バルコニーから魔法を使って飛び降りた。

 そして空を飛びながら、ふと思う。


「……結局、カイル様と一度も踊れなかったわ」


 まあ、今となってはそんなこと、どうでも良いけれど。

 今回分かったことは、カイル様にとって私は大事なことは告げられない、その程度の存在だということ。


「……ただの両想いでない婚約者同士だものね」


 だから私が、彼の相談に乗ることも、彼の無事を案じることも、彼を引き止めることも全て叶わないわけで。


「……っ」


 分かっていたはずなのに。

 自分だって、ハッピーエンドのために彼を利用しようとして、打算で選んだ婚約者だというのに。

 今傷付いているこの心は、全て自分に跳ね返ってきたものだ。


「……自業自得ね」


 そう呟くと、寮の部屋に転がり込む。

 今日は窓を開けておいて良かった、と思いながら、ベッドに突っ伏してさめざめと泣いたのだった。




 一晩泣いて何とか気持ちの整理が出来た私は、カイル様に謝り、彼を笑って送り出そうと男子寮へ向かった。

 ところが、カイル様は既に辺境伯領へと出発しており、寮にはいなかった。


(……私、最低だ)


 カイル様を、笑って見送ってあげることが出来なかった。

 カイル様が決断したことを、私の我儘で応援してあげることが出来なかった。


「……婚約者としても、失格だわ」





 そうして迎えた夏休みはあっという間に終わり、彼のいない学園生活を送ること半年弱、私はついに“たがため”の最終局面となる4年生を迎えた。

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