厄介な気持ち
「驚きました。まさか学園長にお会い出来ただけでなく、諭されるとは……」
「はい、本当に……」
私とカイル様がそう言ってため息を吐くと、クララが口を開いた。
「私も、初めてお会いしたから驚いてしまったわ」
「えっ、クララでさえお会いしたことがなかったの!?」
「えぇ、そうだけど……、どうしてそんなに驚くの? 私だって一生徒よ?」
「だって、貴女は百年に一度現れる光属性で……」
私の言葉に、クララの顔が一瞬翳った……ように見えたけれど、彼女は笑って答える。
「光属性だからって学園から特別扱いをされたことはないわ。
確かに、試験基準が光属性だと実例が少なく難しいと言われたことはあるけれど。
今回だって、お姉様と殿下は魔法を使って助けてくれたけれど、私はその場で何もしないまま守られて無傷だったから、その後再試験を受けているのよ」
「!」
(そうか、私が実質クララの覚醒イベントを阻止してしまったから……)
思わず黙り込む私に対し、クララは笑って言った。
「だから、今回の試験結果は紛れもないお姉様と、マクレーン様の実力で勝ち得たものだから、自信を持って!」
「クララ……」
「それから殿下、少し悔しがっていたわ」
「え?」
「『もし筆記試験が満点でなければ、俺は負けていただろう』って。
魔物を遠ざけられたお姉様が、魔法実技では一番だって」
「ま、まさか!! 殿下の魔法のおかげで魔物が怯んでいたから、そこにたまたま私の魔法がうまく行っただけで……っ」
魔物が同じ火属性でなかったら、殿下の魔法はもっと威力を発揮したはずだ。
私は運が良かっただけだとそう首を横に振ると、クララは少し息を吐いて言った。
「もう! お姉様には全然伝わらないんだから!!」
「それは同感です」
「カ、カイル様まで!? えぇ……」
クララの言葉にカイル様が同意するのを聞いて、改めて皆私を過剰評価しすぎだと息を吐き、自分の手のひらに視線を落とした。
(“貴女の命は、貴女だけのものではない”か)
確かに私は、カイル様のお陰で魔物と対峙出来るほどには強くなった。
だけど。
(まだ全然足りないわ)
自分の命に代えて、という言葉はもう使わない。
けれど。
(自分も生き残って皆を……、カイル様やクララを守れるくらい強くなりたい)
トップクラスに入ったということは、つまり半年後の勇者パーティーの候補に入れたということ。
勇者パーティーには、勇者、聖女の他に三人の戦士の計五人が選ばれ、それぞれ火、光、緑、水、風と異なる属性で編成されるのだ。
そして、その五属性が力を合わせることで、魔王を封印することが出来る。
ただし、小説通りの展開ならば、来年の勇者パーティーには新たに回復職という立場で、全属性であるカイル様が加わり、勇者パーティーは計六人のメンバーで編成されるのだ。
(だから私は、頑張ればその中の風属性に入ることが出来るかもしれない)
本当に私の評価が正当なものだと言うのなら、このまま努力すれば勇者パーティーに選ばれるのも夢ではないだろう。
(そうすれば、カイル様と共に魔王と戦えるわ)
チラリと彼の様子を窺えば、彼もまた私を見遣って。
「「!」」
視線が重なり合い、反射的に顔を背ける。
(って私、何してるのー!!)
いくら前髪に隠れていた綺麗なお顔に制服もまたよく似合っていて素敵!
なんて恥ずかしくて言えないとはいえ、これは失礼でしょう!?
と自分にツッコミを入れていると。
「アリシア様」
「!」
今度はしっかりと、カイル様から話しかけられる。
その視線を受け、恐る恐るカイル様と再度視線を合わせるため顔を上げたタイミングで、教室に入るよう促す鐘の音が鳴る。
「大変!ホームルームの時間だわ! このままだと遅刻してしまうし、早く行きましょう!」
「あ、待って、クララ!」
カイル様が何を言いかけたのか気になるけれど、このままではカイル様も遅刻してしまう。
「カイル様、また後で!」
「え!? ちょっと……!」
カイル様の慌てるような声が聞こえたけれど、クララを追って私は走り出した。
(……何だかカイル様が、思い詰めていた顔をしていたのは気のせい?)
後できちんと話を聞こうと、そう結論付け、クララと共に同じ教室へと向かって走り出したのだった。
「…………はぁーーー」
盛大にため息を吐いた私に、クララは苦笑いして言う。
「恋の病ね? お姉様」
「恋の病……と言うのかしら」
そう口にして、もう一度ため息を吐く。
心が晴れない理由は分かっている。
あれから三日、カイル様と一言も言葉を交わしていないことにあると。
三日前、また後でと伝えたため、お昼休みにいつも彼と昼食を摂る場所に向かったけれど、その裏庭で待てど暮らせど彼は来なくて。
放課後には来るかしら、と思い、放課後も裏庭に向かっていた私が目にしたのは。
「……カイル様が男女問わず人気者になっていたわ」
そう、変に人だかりが出来ていると思ったら、その人集りの中心にいたのはカイル様だった。
思わず口にした言葉に、クララは呆れたように言う。
「本当、現金な人達よね。今まで見向きもしなかったくせに、マクレーン様のこともそれからお姉様のことも!
それぞれ魔物を倒したからって媚を売るように話しかけてくるなんて……、許せないわ!」
「ク、クララ、抑えて抑えて。その顔はまずいわ」
可愛い顔が崩れているとそう嗜めたけれど、その言葉には全面同意だ。
現にそうなのだから。
今まで悪女だと噂され、無視されていた私が、今やクララのように憧れている人物になるとは誰が想像しただろう。
魔物に向き合う姿が格好良い、咄嗟の上級魔法が素敵だった等言われ、最初は私も嬉しく思っていた。
だけど。
「……複雑だわ」
「……お姉様」
三角座りをし、膝に顔を埋めた私に、クララは励ますように言う。
「元気を出して。マクレーン様も、きっと同じことを思っているはずだわ」
「……カイル様も?」
クララの言葉に思わず顔を上げれば、クララは私の顔を見つめて頷く。
「えぇ。マクレーン様も言っていたじゃない。
お姉様のお陰で心を開けたって。
そんなマクレーン様が他の誰かに取られても良いの?」
「!」
クララはそう言うと、指を立てて言った。
「もうすぐ交流会という名の舞踏会があるのよね」
「舞踏会……」
三学期制の学園では、大型連休前にそれぞれ舞踏会が行われる。
生徒からは通称“試験お疲れ様会”と呼ばれているそれは、交流の場としての役割を果たしている。
つまり。
「お姉様もそうだけど、きっとカイル様は凄くモテると思うわぁ」
「……っ」
自分でも、矛盾していると思う。
自ら“一時的な婚約者”と申し込んでおいて、こんな気持ちを抱いてしまうようになったことも然り。
「……カイル様の良さを皆に知ってもらえて嬉しいと思う反面、私が一番最初にカイル様を見つけたのにって思ってしまうの……」
ギュッと膝の上で拳を握りしめると。
「っ、お姉様っ、可愛いっ……!」
「!?」
「じゃなかった、ゔ、ゔん!」
クララは軽く咳払いすると、にっこりと笑い口を開いた。
「その気持ちを、マクレーン様にそのままぶつけてみたら良いと思うわ」
「っ、本当に? それを聞いて、幻滅したり離れられたり嫌われたりしない?」
「しないわ。むしろ、喜ばれるんじゃないかしら。
……余計に独占欲を募らせそうだけど」
「へ?」
クララの言葉が上手く聞き取れず聞き返せば、彼女は教えてはくれず満面の笑みを浮かべて言った。
「ふふ、今すぐ行ってあげて! きっとマクレーン様もお喜びになるわ」
そんなクララに対し頷くと、「ありがとう!」とお礼を言ってその場を後にする。
そして、カイル様を探しに向かうのだった。




