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一難去ってまた一難とは、こういうことを言うのね

 私が殿下の婚約の申し出を断った、というのはその日の内に陛下、それから両親の元に届けられ、幸いにもその申し出は認められた。

 そしてホッとしたのも束の間、新たな問題が発生する。

 それは、両親から届いた手紙だった。


「“療養のため、我が家に戻って来なさい。そして、断った理由である貴女の想い人について話しなさい”……って、これって療養を口実にした尋問が始まるフラグじゃん!」


 そう口にしながら、思わず手紙を握り潰しそうになっていたことに気が付き、慌ててその手紙の皺を伸ばそうとしたけど、それによって左腕に走った痛みに悶える。


「あいだだだ、怪我なんてしたことがなかったから今まですっかり忘れていたわ」


 そう口にしながら、首を傾げる。


「いや、こんな大きな怪我が初めてなんてことはなかったな。私が亡くなった時、確か事故で亡くなったもの」


 ……はは、笑えない。

 それはともかく。


「今世でこそ何不自由ない幸せな生活を送るために、足掻くしかないんだわ」


 そのために、今度は第二関門である両親の説得をせねば!




 小説の舞台の一つとなっている学園、“シェフィールド王立魔法学園”は、この国シェフィールド王国が魔法使い育成のために創設した、全寮制の学園だ。

 12〜16歳を集めた四年制の学園では、魔法を司る術を学ぶため、主に貴族が、稀に突然変異で魔法の才に溢れた平民が通っている。


 一応そういう名目なのだけれど、“たがため”……小説内ではこうも書かれていた。


「王家は学園内の生徒の魔力を把握しており、優秀で才能に秀でた者は王家自ら声をかけ、将来安定した職業や運が良ければ王城で就職が出来る。

 そして、その他の生徒は、婚約者選びの場として利用する、と」


 要するに、学園と名は付いているけれど、魔法を勉強するというよりはそちらの方がメインとなってしまっているらしい。


「まあ、卒業する時点で16歳……、既に成人を迎えてしまっているんだもの、そうなってしまうのは仕方がないことよね」


 なんて口に出しながら、移り変わる景色にぼんやりと目を向けて思う。


(本当に、異世界に転生してしまったのね)


 移動は馬車。

 それも、ただの馬車ではなく。


「さすがは風属性の我が家、馬車も空を飛ぶなんて」


 馬には羽が生えている光景を目の当たりにしたときは、開いた口が塞がらなかった。

 思わずその場で固まってしまう私に、見送りだけでなく帰り支度まで手伝ってくれたクララが、「どうしたの?」なんて首を傾げていたけれど。


「驚くのも無理はないわよね。だって童話や小説でしか見たことがなかったもの……」


 それに、と自身の足や腕を見て思う。


(馬車の中で痛くないようにと、クララが足にクッションや柔らかい素材のものを敷き詰めてくれたし、荷物をまとめるのも手伝ってくれた。『痛むだろうから』と……、意地悪な姉にこんなことをしてくれるのは、ヒロインである彼女だけよね)


 クララは性悪ヒロイン、なんてことは微塵もなく、正真正銘聖女という名に相応しい(現実ではまだ聖女認定を受けていないが)人物だ。


(そんな彼女と張り合おうだなんて、アリシアはどうかしているわ)


 非の打ち所がないんだもの、ヒーローとヒロインがくっつくのも時間の問題だったのだし、早々に諦めるべきだったんだわ、とアリシアの行動にため息を吐いたところで、我が家に着いたらしい。


「〜〜〜〜〜っ」


 さすがに着地した衝撃で、ノーダメージとはいかなかったのも、アリシアの日頃の行いのせいだと受け止めた。

 そして。


「……わっ」


 思わず感嘆の声を漏らした実家である白亜の城のような屋敷、もといバレッタ邸を見上げ、絶対に生涯ここで暮らすんだと決意を固めた。




「ただいま帰りました、お母様、お父様」


 そう口にして頭を下げようとしたけれど、足に痛みが走り思わず顔を歪める。

 それに対して、両親は……。


「あぁっ、なんて可哀想なんだ!」

「その痛み、私が代わってあげられたら良いのに!」


 ……とんでもない親バカだった。

 私の足が痛むだろうと、ベッドで安静にするよう言われ、挨拶も忙しいはずの両親が自ら私の部屋に足を運ぶという、何ともまあ至れり尽くせりの状況で脱力してしまう。


(殿下の婚約を断った件について、真っ先に尋問されると思ったのに)


 そんな私の気持ちを察したのか、お父様が私の頭を撫でて言う。


「怪我をして辛かっただろう。まずはしっかりと休むと良い」

「学園からお休みのご許可はいただいているわ」

「ほ、本当ですか!?」


 思わぬお母様の発言に若干食い気味に聞き返してしまったのに対し、お母様は笑って頷いた。


「えぇ。成績のことも気にせず、全快するまで休んで良いと、国王陛下並びに校長先生からもご許可を頂いたわ」

「あ、ありがとうございますっ! お母様!」


 私はお母様の背中から後光が差しているように見える。


(きっと今頃悪女である私が殿下の婚約を断ったことで持ちきりだろうから、出来れば噂が下火になるまで学園には行きたくない。

 それに、この休みを利用して“たがため”を思い出しながら、これからの身の振り方を十分に考えることが出来る!)


 バッドエンドの元凶を回避することが出来たとはいえ油断は禁物。

 いつまた何が起こるか……。


「その代わり、私達にも貴女の想い人という方の恋バナを聞かせてね♪」


 そうウインクをしてお茶目に言ってみせるお母様の言葉を聞き……、私は内心発狂した。


(いや、もう起こってるんですけどーーー!)


「では私達の可愛いアリシア、今は何も考えずゆっくり休むんだよ」


 そう言って部屋を出て行った両親の背中を目で追いながら、内心突っ込んだ。


(いやいやいやいや、何も考えないわけにいかないでしょう!?)


 とりあえず、今アリシアとして私が置かれた現状を整理しよう。

 大元のバッドエンドフラグである殿下との婚約は回避出来たとして、私が今すべきこと。それは。


「好きな人を見つけること!」


 好きな人がいる、なんて言ったけれどあれは真っ赤な嘘だ。

 ……いや、殿下に執着していた前のアリシアだったら、勘違いだとしても恋をしていると言えたのだろうけれど、今の私は別。


「って、好きな人なんているわけがないぃ」


 アリシアは、男性といったら殿下にしか興味がなかった。

 だから、男性と話をしたことなんて挨拶程度、それも数えるくらいしかない。


「あ、あんな嘘を吐かなければよかった……」


 咄嗟に吐いた嘘が、まさかこんな大事になるとは。

 そして、私がそれ以上に焦る理由があった。それが。


「私の好きな人、且つ両親が認めた人と婚約すること。

 それが魔力に乏しい私に課せられた、学園生活での任務なんだわ!」


 もしそれを遂行しなかった場合、両親に言われているのだ。

 “もし相手が見つからなかった場合、政略結婚をさせる”と。


「だめだめだめ、絶対にそれだけは嫌!

 政略結婚と言ったら、それこそ幸せになれる保証がないもの!」


 同世代の学園内で見つからなければ、それこそ誰かの後妻〜とかになりかねない。

 それだけはお断りだ。


「私が求めるのは、幸せな結婚生活なんかではなく、幸せな実家暮らしよ!」


 というわけで、私がやるべきことはただ一つ。


「好きな人というのは諦めて、婚約者になってくれそうな人を探し出さなければ!」


 ちなみに、私が求めるのは“婚約者”ではなく、“一時的に婚約をしてくれる人”だというのがポイント。

 何せ目指すは幸せな結婚生活ではなく、幸せな実家暮らしだもの!

 という考えに辿り着いた私は、善は急げと早速貴族名簿を開いてみたのだった。


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