波紋を呼ぶ試験結果
「はぁ……」
「お姉様、元気を出して! 大丈夫よ」
今日も今日とて朝から可愛いクララの笑みを見て元気を出そうと思ったけれど。
「絶対無理よ……。どうしよう私、今度こそ落第だわ……!」
試験を受けてから、色々あり過ぎた約半月ぶりの登校。
つまり、一度も登校していない私は試験結果を知らない。
「実技試験を受けていないのよ? 三日間の座学より確実に実技試験がものを言うのに、魔物に邪魔された結果試験を受けられなかっただなんて……っ、殿下ではないけれど、あの魔物本当に許すまじ……っ!」
「お姉様、怖い顔になっているわよ。後、あの魔物はマクレーン様が仇を取ってくれたじゃない」
「それもそうだけど〜」
そう言ってため息を吐くと、クララが「でも」とどこか嬉しそうに笑って言った。
「お姉様の努力も成し遂げたことも。必ず誰かが見ていて、正当に評価して下さるはずだわ。
それに、皆を守ってくれたお姉様には良いことが必ず待っているはずよ」
「……そういえば、クララはもう試験結果を知っているのよね?」
「もちろん」
クララはあの時、怪我をしていなかった。
そのため、試験休暇が明けた結果発表のある日から学園へと通っているのだ。
そんなクララに、私は尋ねる。
「ねえ、クララ教えて! 私、何位で何のクラスだった!?」
「ふふ、それは教えられないわ」
「何で!? やっぱり落第だから!?
死ぬほど悪い点数を取ったということよね!?」
「落ち着いてお姉様。……ほらっ、あそこに試験結果が貼り出されているから見てきた方が早いわ」
「絶対教えてくれた方が早いでしょう!?」
半べそをかく私に対し、クララはクスクスと笑いながら肩を押す。
渋々そんな彼女に肩を押されながら、全員分の順位が貼り出されたその掲示板の前へとたどり着く。
薄目でまずはワーストから見ていくと。
「……あれ」
私がいたクラスの欄に、私の名前はどこにもなくて。
(っ、まさか!)
淡い期待を胸に抱き、その隣にある目標だった一クラス上の順位と共に描かれた名簿に目を通すけれど……。
「……あれ??」
私の名前が、どこにもない。
その途端、サッと血の気が引いて後ろにいたクララを振り返る。
「ク、クララ、私、もしかしなくても、本当に、落第……」
最後まで口にすることなくその場でへたり込みそうになった私を、クララが慌てて引っ張る。
「お、お姉様! そんなに自分を卑下しないで!!
お姉様の頑張りが、正当に認められている証拠よ!!」
「っ、も、もう無理、怖くて見られない……」
クララの言葉が信じられず、泣きじゃくる私に、彼女は「あーもう!」と怒ったように口にすると、私を引っ張って立たせた。
その勢いに驚き顔を上げた私に、クララは指を差して言った。
「あれを見て!」
「……え?」
クララの指先は、明後日の方向を向いている。
何を言っているんだろう、と首を傾げた私をに、クララはもう一度強調して言う。
「あ・れ・を・見・て!!」
「は、はい!!」
その圧に負け、彼女の言う通りにそちらに顔を向けたところで……、私の目に信じられないものが飛び込んできた。
それは。
「……わ、わたし」
呆然とする私の横で、クララの弾んだ声が耳に届く。
「ね、言ったでしょう? お姉様の努力は、絶対に誰かに認められるって!」
そう言われても、これは夢ではないかと信じられない思いで目を見開く。
私の視線の先、そこはトップクラスの名前が描かれた掲示板だった。
そして、その中でも一際目立つトップ3、殿下とクララの名前の間にあったのは、何と私の名前だったのだ。
「私が、二位……」
「そうよ! お姉様、おめでとう!」
クララの言葉に、首を横に振り声を上げる。
「嘘よ、ありえないわ! こんなの!」
トップクラスというだけでも信じられないのに。
それがまさか。
(クララより上だなんて……!)
「わ、私、納得いかないわ!」
「……へ?」
「こうしてはいられない! 先生方に直接お尋ねしてくる!!」
「え、ちょっと、お姉様!? 待って!!」
廊下を走り出した私に、クララが慌てて早歩きでついてくる。
走ってはいけないと分かっていながらも、急がずにはいられない。
無駄に長い廊下を走り、ようやく教員室に辿り着いた私がその扉をノックもせず開け放った、その時。
「納得がいきません!」
「!」
そこには、教師に向かって声を上げるカイル様の姿があって。
未だに見慣れない彼の美しい顔が、怒っているせいで余計に迫力が増していることに驚き、思わずその場で固まっている私には気が付かず、カイル様は言葉を続ける。
「僕は試験を途中放棄し、禁術である闇属性の魔法を使い、己の身が犠牲になりそうになったところをアリシア様に助けられた身です!
彼女の評価は正当だと思いますが、そんな僕が学年一位だなんてあり得ません!」
「カ、カイル様が一位!?!?」
思わず反芻してしまったその言葉に、カイル様が気が付きハッとして私を見やる。
「これは一体、何の騒ぎですか?」
そんな私達の間に割って入ってきたのは。
「学園長……!」
教師達の声に私達は慌てて礼をする。
(ど、どうして学園長がここに!?)
学園長は、現国王の妹にあたる方。
そのため、式典や祭典以外には人前に滅多に顔を出さないことで有名なのだけど……。
(まさかこんなに近くで、そのお姿を拝見するとは思わなかったわ!)
「顔をお上げなさい」
その言葉に、恐る恐る私達は顔を上げる。
学園長は、カイル様に向かって一言言葉を発した。
「この試験は、厳正なる判断基準に基づき結果を出したものです。
貴方はそれに、異議を申し立てるのですか」
そう口にした学園長は、カイル様に鋭い眼差しを向ける。
見ているこちらが身がすくむ思いでいるのに対し、カイル様は口を開いた。
「恐れながら、この結果は僕には分不相応であると存じます。
試験を放棄し、他者に多大な迷惑をかけた僕は、一位という座を受け入れるべきではございません。どうか、お考え直し下さい」
「なりません」
学園長はそう厳しく突き放すように言い放つ。
その威圧に、後ろにいたクララが私の腕に寄り添ってくる。
学園長はカイル様を睨みつけるようにして言った。
「貴方が何と言おうと、この結果が覆ることはありません。
……もしそれを受け入れる自分自身が許せないのだと言うのなら、一層励みなさい。
己の罪を認め、戒め、次同じことが二度と起こらぬよう努力をしなさい。
そこの貴女もです」
「っ、は、はい!」
突然話題を振られるとは思わず、一拍遅れて返事をする。
学園長はその眼差しを私に向け、言葉を発した。
「貴女の命は貴女だけのものではありません。
そのことを頭によく入れておきなさい」
「……!」
その言葉は、今まで起きたことも今考えていることも、全部見透かされているような気がして。
でも、不思議とそれが嫌だとは感じなかった。
そんな私とカイル様を交互に見てから、学園長は再度口を開く。
「……ですが、貴方方のお陰で救われた命があります。
生徒だけではなく、この学園を守ってくださったこと。
それが全てであり、その結果が貴方方が異議を唱えた結果に繋がったのです」
「「……!」」
私とカイル様は、その言葉に息を呑む。
そして。
「よく頑張りました」
そう言って柔らかな笑みを湛えた……刹那、学園長の姿はもうそこにはなかったのだった。




