色々と尽くされすぎて心臓が持ちません…!
「カ、カイル様!」
「はい、何でしょう?」
両親とカイル様の顔合わせが終わり、屋敷の庭を歩くことになった私が声を上げると、カイル様は隣に並び歩きながらこちらに目を向けた。
「うっ……」
「大丈夫ですか?」
そう言って足を止め、心配して私の顔を覗き込む彼の顔を間近で直視することになり、慌てて口を開いた。
「だ、大丈夫ではありません!! 何故なのですか!?」
「何がです?」
「その容姿も、両親の前での態度もっ!」
「何か問題でも?」
「大アリです!」
私は先程のことを思い出して抗議する。
「確かに私は、“好きな人と婚約したい”という設定で、貴方にもそれをお願いいたしました。
けれど!」
「けれど?」
「〜〜〜設定の度が過ぎています!!」
そう、カイル様は両親の前でこれでもか!と私をどれだけ好きかを語った。
たとえば、『コンプレックスだった顔も魔法も彼女だけが褒めてくれたお陰で救われた』とか、『今の自分があるのは彼女のおかげだ』とか。
しかも、それだけではなく……。
「っ、ま、まさか、あのカイル様が今日のために前髪を切ってお顔を晒すだなんて思わないでしょう!」
「婚約を申し込みにくる者として、貴女のご両親に対し顔を隠したまま挨拶する、だなんて失礼ではありませんか?
僕がもし公爵様の立場でしたらそんな怪しいやつに娘は渡さん!ってなりますけどね」
「あ、怪しいやつに娘は渡さん……、それもそうかもしれませんが!
出来ればそういうことは事前に教えていただけますか!?」
カイル様は暫しの沈黙の後答えた。
「貴女が何に対して怒っているのかと考えていたのですが」
「っ!」
そう言うやいなや不意に私の顔に影がさす。
それは、言わずもがなカイル様が顔を近付けてきたからで。
カイル様はふっと笑って言った。
「なるほど、そういうことですか」
「な、なるほどって何ですか!?」
「いや? 何でも」
「何でもなくはないでしょう!」
それでも教えてくれない彼に向かって、私は少し怒って口にした。
「カイル様は、本当に演技がお上手ですよね」
「……演技?」
カイル様が首を傾げる。
それに対し言葉を続けた。
「私と両想いだという演技です。
……演技だと分かっていても、ドキドキしてしまいました」
最後の方は恥ずかしくて小声になってしまう私を見たカイル様は答える。
「演技が上手、ですか。
それを言うなら、貴女だってとてもお上手でしたけど?」
「え?」
思わず見上げると、カイル様は顎に手を当てて言った。
「僕のどこが好きなのか、お母様から尋ねられたところ、『自分から面倒臭がり屋だと言いながら優しくて面倒見が良くて全属性だから人一倍努力しなくてはと出会った時から努力家なところもとにかく全部好きです』と息継ぎなしで言われた時は、さすがに驚きましたけど」
「っ!!!」
記憶力の良すぎるさすがカイル様なところが、今となってはこんな場面で発揮しないでほしい……!と声にならない悲鳴を上げると。
「まあ、良いじゃないですか。結果オーライということで」
「そ、それもそうですね」
そうしてお互いに演技(?)が上手だった結果、見事私の両親から婚約を認めてもらえたのだ。
カイル様は、今度はクスッと笑って口を開いた。
「それにしても、貴女のご両親も妹様もとても温かな方々でいらっしゃいますね」
その言葉に思わず苦笑いを浮かべる。
「あはは……すみません。両想いの殿方を連れてきたという時点で、思いの外嬉しかったみたいで」
そう、私が想い人を連れてきた!
と最初からテンション高めの両親に加え、説得に回ってくれたクララがなぜか興奮気味に全て説明してくれたのだ。
(私が風属性の魔法を使えるようになったことも、私を守るためにカイル様が命を賭してくれたことも……。
私とカイル様が話すより、クララの方が説得力さえあった気がするわ)
もう本当に恥ずかしい……!
と顔を覆う私に、カイル様はもう一度笑みを溢してから言った。
「貴女が謝ることは何も。僕もお会い出来て嬉しかったです。
……貴女のその性格は、温かなご家族様の元で育ったからだということも窺えましたし」
「ず、図々しくてすみません……」
「だから、貴女が謝る必要などないのです。
それに、先程僕がお話ししたことは全て、本心ですよ」
「えっ……」
カイル様がこちらを見る。
そして、ふわりと笑って口にした。
「貴女が僕の閉ざしていた心を開いてくれた。
だから僕は、こうして頑張れるのです」
「……!」
そう言ったカイル様は、どこか甘やかな笑みを湛えていて。
思わず見惚れてしまう私に言った。
「ありがとうございます」
「ど、どういたしまして……」
ここは何となくお礼を受け取るべきだと悟り、小さく口にすれば、不意にカイル様に手を取られる。
驚き見上げると、カイル様は私を見つめたまま言った。
「婚約者の演技、続けましょう」
「っ、は、はい……!」
辛うじて返した返事は上擦ってしまって。
カイル様はそれに気付いたのかまた笑った後、私の手を引いて歩き出した、けど。
(っ、凄い恥ずかしい……!)
何とか気を逸らそうとしても、どうしても繋がれた右手に目が行ってしまう。
あり得ないほど心臓は高鳴るし、手汗もかいていないか心配になりながら、どうにか話題をと思い口を開いた。
「……髪」
「髪?」
「切った髪は、どこへ?」
「……どこ?」
そこまで口にし、カイル様が怪訝な顔をしたことでハッとする。
(い、言わなくて良い話題を出してしまった……っ)
それでも何か言わなければと、カイル様に引かれたくない一心で必死に弁明する。
「カ、カイル様の髪はとても艶があって綺麗で!
浮遊魔法で空から見ても、この前触らせてもらった時も触り心地が良かったのでその髪が短くなってしまって少し勿体無いなあって……」
「…………」
カイル様の更なる沈黙と唖然とした表情に、そんな姿も絵になるとか思っている場合ではなく。
「あああああの本当にごめんなさい! 忘れてください今すぐ!!
ちょっと頭冷やしてきますね!!!」
この場からさっさと消えて隠れられる穴がないか探してこようと、パニックになる頭で繋がれた手を解くと。
「待って!」
「!」
パシッと再度その手を取られ、驚いて彼を見上げる。
カイル様もどこかほんのり赤い顔をしながらおずおずと口を開いた。
「……貴女は、その。僕は以前のように髪が伸びていた方が良い、と思いますか?」
「え!? えーっと……」
じっと私の言葉の続きを待つオッドアイの双眸に見つめられながら、どうにか素直に答える、
「前髪がなくなって、お顔が見られるようになったのは嬉しいです。
けど、後ろに伸びていた髪も凄く綺麗だったので、切ってしまったのは勿体無いかなと勝手に思ってしまいました……」
「……なるほど」
そう言うと、カイル様は微笑みながら頷いた。
「分かりました。貴女の好みに合うよう善処します」
「……え!? あの、いや、いくら婚約者とはいえそこまでしていただかなくても!」
「いえ、私は貴女の婚約者なのですから、貴女に相応しい男でいられるよう努力すべきです」
「っ、真面目か!?」
思わず突っ込んでしまったけれど、カイル様のその言葉は私を思ってのことだと思うと、素直にとても嬉しく感じて。
嬉しさのあまり笑みが溢れたのだった。




