カイル様からの“ご褒美”
ご褒美をあげあう。
カイル様の思ってもみない言葉に一瞬呆気に取られてしまった私だったけど……。
「え!?」
「お互いの頑張りを讃えてお互いの願い事を叶えましょうと言っているんです」
「……そ、それはつまり」
カイル様のご尊顔をついに、拝めるということ……!?
「で、でも! カイル様は嫌がっていたではありませんか!」
私がカイル様に望んだこと。
それは、前髪に隠れている彼の素顔を見せてほしいということ。
だけど……。
「言ったでしょう?」
「!」
戸惑う私の繋がれた手をグイッと彼の方に引き寄せられる。
そして、一気に近付いた距離に鼓動が跳ねる。
そんな私に、カイル様は口を開いた。
「貴女になら見せても良いと。
……むしろ、知ってほしいんです。僕のことを。
もっと、貴女だけに」
「っ……」
それはどういう意味かを尋ねようとしたけれど、聞く勇気は私にはなかった。
その代わり、小さく尋ねた。
「……本当に、良いのですか?」
「はい」
何度聞いても大丈夫だと言われた私は、自分の気持ちに素直になることを決意した。
(私だって、もっとカイル様のことを知りたい)
そう思った私は、意を決して口を開く。
「分かりました。私も、カイル様のことをもっと知りたいです」
素直に口にすると、カイル様は息を呑み……、柔らかな口調で言った。
「では、目を瞑っていますので、前髪を分けていただけますか?」
「……え!?」
「すみません。自分から見せるのは少し、抵抗があって」
「そ、それって本当に大丈夫なんですか!?」
まさかの言葉に慌てる私に対し、カイル様は微笑んで言った。
「大丈夫です。貴女になら」
「……っ」
そう私のためにと連呼する彼の言葉は、こちらに都合の良い言葉に聞こえてしまって、少しだけ頭がクラクラする。
そんな私に対し、カイル様は言った。
「では、目を閉じますね」
そう言われ、私は「はい」と口にしながらも、緊張から手が震える。
(ほ、本当に私がカイル様の前髪を分けて顔を拝むの!? え、良いの!?)
そんな私に対し、カイル様もどこか緊張しているのか、唇をキュッと結んでいるように見えて。
(……カイル様は、やはり外見にコンプレックスがある?)
だから、“たがため”でも一度も顔は見られなかったし、自分からは顔を見せたがらないのかな、という考えに至ったけれど。
(それなら、私は)
そっと彼の前髪に……、カイル様が私の髪に触れてくれたように、慎重に両手を伸ばす。
いつもは見ているだけだったその前髪に触れた時、さらりとした感触に鼓動が速くなる。
そして……。
「……!」
前髪に隠されていた素顔を見て、胸が熱くなる。
(眠っていた時から綺麗な顔だとは思っていたけれど……)
カイル様が闇属性の魔法を使って眠っていた時、初めて拝見したそのお顔は、血の気が引いていて生気がなく、悪い意味で人形のような顔だと思っていた。
だけど、今私の目の前にいるのは、ほのかに色付いた頬に、スッと通った鼻筋、その声と相俟って中性的な色気すら放つ美麗な男性で……。
そうして見惚れていた私の目の前で、ゆっくりと……、眠っていた時には見られなかった瞼の裏の瞳が、ゆっくりと開かれる……。
「……っ!!!」
その視線がカチリと私と合わさったことで、心臓が一際大きく脈打った。
パチリとした大きめの瞳は、右目が紫色、左目が銀色、つまり。
(オッドアイ……)
思わず息を呑み、言葉を失って見つめてしまっていると。
「幻滅、しましたか」
「……え?」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
そんな私に対し、カイル様はその顔には似合わない自嘲めいた笑みを浮かべて言った。
「気持ち悪いですよね、こんな色。
これは全属性に生まれた僕の宿命です。
全属性持ちは血筋を受け継ぐことはないそうで、家族の中でもこの色は僕だけです。
僕はこの瞳が大嫌いで、ずっと……、前髪で隠していたんです」
カイル様の言葉を聞いて、ようやく納得した。
なぜ彼が、顔を見せることに抵抗があったのかを。
私は黙ってしまったカイル様に向けて、一言言葉を発した。
「お揃いですね」
「……へ?」
カイル様の反応が一拍遅れる。
私は嬉しさを堪え切れず、笑みを浮かべて言った。
「私の髪と瞳と同じ色で嬉しいです!」
「……!!」
息を呑んだカイル様に向かって私は続けた。
「どうして気持ち悪いと思うのか私には分かりません。
きっとまた妬み嫉妬の嵐でカイル様を悪く言った方がいらっしゃったのでしょう」
「っ」
カイル様の反応で図星だったと分かり、そんな彼の瞳をまっすぐと見つめて言った。
「でも私は、不謹慎かもしれないけど嬉しいです。
カイル様との共通点が見つかったし、カイル様のお顔も拝見できましたし!
むしろ前髪で隠すのは勿体無いくらい綺麗で、素敵だと思います!」
カイル様と同じ。
アリシアに転生してからは、バッドエンドを回避しなければならないし、アリシアはおバカで悪目立ちしていたし、嫌なことばかりだと思っていたけれど、思わぬところでカイル様との共通点を見つけられて。
アリシアに転生したこと、そして何より。
「カイル様と出会えて、本当に良かったです」
「……っ!!」
嬉しさのあまり思わず本音を溢した私に対し、カイル様の顔が不意に歪んだ、と思ったら……。
「!! カ、カカカカカイル様ッ!?」
次の瞬間、カイル様の腕の中にいた。
この前とは比べ物にならないほど、強い力で抱きしめられ、ありえないほど顔に熱が集中してしまう。
中性的なカイル様が途端に男性だと改めて意識してしまって、動揺しまくっていたけれど、目の前にある彼の肩が小刻みに震えていることに気が付いて……。
「本当に貴女という人は……」
「え、あ、あの、気分を害してしまいましたか!? ごめんなさい!」
「違います、そうではなくて……、あーもう!」
カイル様は私を解放すると、右目側の髪を耳にかけ、その紫色の瞳を真っ直ぐと私に向けて言った。
「貴女の“ご褒美”を叶えたのですから、今度は私にも“ご褒美”、いただけるのですよね?」
「……っ!」
そういえば、彼は『秘密』とそう言って、ご褒美の内容を教えてくれなかった。
(カ、カイル様が私に望むご褒美って何!?)
その言葉と、いつもは見えない彼の真剣な紫色の瞳の眼差しを受け、ドギマギしてしまっている内に、彼の形の良い唇から言葉が彼が望む“ご褒美”が紡がれる。
それは……。
「僕を、貴女の婚約者にして頂けますか」




