解釈違いが起きている気が…
「貴方を、死なせたくなかったから」
その言葉に、カイル様は目を見開き……、ポツリと呟いた。
「どうして」
「え?」
「どうしてそこまで、貴女は僕のために?」
「っ、それ、は……」
思いがけない言葉に心拍数が上がっていく。
カイル様がじっと私の返答を待っているのを見て、恥ずかしくなって顔を逸らした。
(そんな、この気持ちを口にすることなんて出来ないわよ……!)
そうして俯く私に対し、カイル様は「はぁーーー」と長く息を吐くと、ボスッとベッドに横たわり、腕で目元あたりを押さえると口にした。
「貴女には完敗です。良いところを見せるつもりで……、守るつもりで闇属性の魔法も習得したというのにそれは仇となり、結果的に貴女に光属性の魔法を使わせて救われた」
「っ! そう、闇属性の魔法! なぜそんなものを習得されていたんです!?
人間が闇属性の魔法を使えるだなんて聞いたことがありませんよ!?」
“たがため”でもカイル様含めて誰も使ってなどいなかったはずなのに、という言葉は飲み込み返答を待てば、彼はそのまま口を開いた。
「魔物を倒す力が……、強さが欲しかったのです。
その一心で、どうしたら倒せるかを考えていたら、歴史書に“闇属性の魔法”を使える者がいたという記載があって。
興味本位で調べたら、実家の禁書にあったので、それをくすねました」
「禁書をくすねた!?」
「内緒ですよ……と言いたいところですが、今更ですね。学園中で噂になっていることでしょう。
あぁ、これで実家に戻って説明しなければいけない事態となってしまいました……」
そんなカイル様の言葉に、唖然としてしまう。
「……どうして」
今度は私の呟きに、彼がこちらに目を向けたのが分かる。
その見えない瞳に向かって、私は言葉を紡いだ。
「どうして、そんな無茶なことをしたのですか。
目覚めた時の貴方の口ぶりでは、闇属性の魔法が術者に影響があると分かった上で使ったと……、そう、なのですか?」
その言葉に、カイル様は押し黙る。
そして……、小さく息を吐いて言った。
「先程の言葉でも、貴女に伝わらないのですね」
「え……」
カイル様はそう言うと、もう一度上半身を起こす。
それを手伝おうとしたのを制され、代わりに伸ばした手を取ったカイル様は、驚く私に向かって告げた。
「全て、貴女を守りたかったからです」
「……!」
「人間はもちろん、魔物からも魔王からも。
貴女を守ることが出来る、敵に立ち向かう術が欲しかったから」
「……そ、そんな、ことのために……?」
自分の身を危険に晒してまで、私を守ろうと?
その言葉が信じられずにいる私に対し、カイル様に握られた手に力が籠る。
そして、彼は続けた。
「そんなことではありません。……全属性が万能だと言って下さったのは貴女だけです。
そんな貴女の言葉に、どれほど救われたか。
貴女には分からないでしょう。
……だから、これは僕の自己満足です。
貴女を巻き込んでしまうことになりましたが……、結果的に貴女を救うことが出来て良かった」
「!」
そう安堵したように口にした彼は、空いている方の手でそっと私の髪に触れる。
遠慮がちに優しく髪に触れているのに息を呑んだ……刹那、その手が私の頬を軽く抓る。
「!?」
「それを言ったら僕だって怒っています。
なぜ、魔物相手に自分一人で対処しようとされたのです?
しかも、火竜だなんて……、相手は上級魔物だというのに」
「未来を、知っていたからです」
「……っ」
カイル様はその言葉にハッとしたように息を呑み、手を下ろす。
私は静かに言葉を紡いだ。
「その未来では、私がいなくても事態は収拾しました。
ですが、結果的に重症者や犠牲者を出すことになるのは間違っていると……、そう思ったら、咄嗟に身体が動いていました」
「…………」
その言葉に対し、カイル様は黙り込む。
そして、暫しの沈黙の後口を開いた。
「なるほど」
「え?」
カイル様は息を吐くと、顎に手を当て言った。
「そうでしたか。無茶は控えて欲しかったものですが、まあ貴女らしいといえば貴女らしいです」
「っ、信じて、下さるのですか?」
私の言葉に、カイル様は息を呑んだ……と思ったら、笑みを浮かべて言った。
「えぇ。貴女の言葉には嘘偽りなどありませんから」
「……っ」
そう言い切られ、逆に戸惑いを覚えてしまう。
そんな私に、カイル様はふと思い立ったように口を開いた。
「そういえば、“ご褒美”の件、どうしましょうか」
「あ……」
そうだ、試験の結果、目標を達成次第で“ご褒美”を与え合おうと決めていたんだっけ、と思い出す私に、カイル様は苦笑いで言った。
「と言っても、僕の今回の試験は失格だと思います。
生徒には秘匿されていたと思われる“闇属性の魔法”を使用した挙句、筆記試験そっちのけで貴女の元へ教室の窓から飛び出したのですから」
「……教室の窓!?」
「はい。風属性の魔法を使えば飛べますから」
そんなことを平然と言ってのける彼に一瞬眩暈がしたものの、気を取り直して尋ねた。
「で、では! どうして魔物が発生したことをお分かりに?」
「闇属性の魔法で感知しました」
「…………」
何を言っているんだろう、この人は。
(万能……というかチートすぎません!?)
え、こんな裏設定、“たがため”にあったかしら……?
と困惑する私に対し、彼はそんな私の心を読んだようにクスッと笑って言った。
「全て貴女の言葉を信じた結果です」
「……それだけなはずありませんよね!?」
「それだけですが?」
「……っ」
何で私がおかしいことを言っているみたいになっているんだろう……と遠い目になりかけつつ、これ以上突っ込むのは良くない気がして、慌てて口を開いた。
「そ、それを言うのでしたら私も、今回の試験は失格ですよ」
「え?」
「魔法の実技試験、受けられませんでしたから」
そう、だからこそ魔物を追い払えたのだけど。
(それを言ったら、他の二人……殿下とクララもこの事件で受けていないのよね。
まあ、あの二人は別格だしまた再試験を受けるなりでお咎めなしなんでしょうけど)
「でも、貴女がいなければ今頃犠牲が出ていた。
つまり、貴女の言う未来に繋がっていたことでしょう」
「!」
そう言うと、私の頭に手が乗る。
そして、彼はにこりと笑って一言、言葉を発した。
「よく頑張りました」
「……っ」
その言葉に、また涙が込み上げてきてしまって。
私は慌てて涙を指先で拭うと、笑みを浮かべて言った。
「カイル様の、お陰です」
そう言うと、彼は笑みを浮かべてから少しの間の後言った。
「そこで提案なのですが……、やはり、結果はどうであれお互いに頑張ったということで、“ご褒美”をあげあうということでいかがでしょう?」




