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悲劇の始まり、回避します!

 アリシア・バレッタ。

 腰まで伸ばした長い銀色の髪に紫色の瞳を持つ、バレッタ公爵家長女。

 黙っていれば美少女な彼女だが、そんな彼女に未だ婚約者がいない理由は、多数の欠点……、いや、欠点しかなかったからだ。

 傲慢で我儘なくせに、魔法至上主義の貴族の世界において魔力はほぼ皆無。

 だというのにそんな性格が出来上がってしまったのは、筆頭公爵家という地位も名誉も財産も全てにおいて恵まれている環境で育ったが故の……、要するに甘やかされて育った根っからのお嬢様気質にあった。


 また、そんな彼女には想い人がいた。

 それが、ウィリアム・シェフィールド……、今目の前にいる赤髪金眼を持つ、シェフィールド王国第一王子、つまりこの国の正真正銘の王太子、なのだけど……。


「なぜ、俺の顔を見つめている?」


 そう言って麗しいお顔に深く皺が寄っているのは、気のせいなんかではない。


(あ、あれ? 随分と印象が違うような……)


 そんなことを考えてハッとした。


(そうか、転生したことで文面だけではなく、実際に表情が見られるからかー!)


 なるほど、悪役令嬢である私にはこんな表情を向けるのね、などと納得したのに対して、そんな彼の態度が180度違うヒロインというのが……。


「で、殿下、お姉様はお身体がお辛いのです」


 そう慌てたように私を庇う双子の妹(には見えない)……、クララ・バレッタなのだ。


 クララ・バレッタ。

 金色のふわりとした髪に同色の瞳を持つ彼女は、それこそお姫様のような見た目をした、悪役令嬢の私とは相反するような女性なのだ。

 そしてそれは、容姿だけではなく性格までも天使ということもあり、これまた私とは違い誰からも愛される人。

 それから、ヒロインということもあって……。


(百年に一度と呼ばれる光属性の魔法の持ち主、つまり物語後半では小説において鍵となる聖女!)


 そんなチートな妹を持つ、姉であり悪役令嬢の私は、何かと周りから比べられることが多かった。

 中には、後から生まれてきた妹に魔力を捧げた出来損ないの姉と揶揄する人もいる、というのは、アリシアに転生したことで“私”に刻まれている記憶だ。


(そんなことを周りから言われて比べられてしまったら、それは性格も捻くれるわよね)


 そう結論づけている間に、ウィリアムが口を開いた。


「……おい」

「えっ?」


 その不機嫌さを隠さないままに話しかけられ、咄嗟に顔を上げる。

 それに対して、彼は重々しく口を開いた。


「……私のせいで、君が怪我をしてしまったことについては詫びよう。すまなかった」

「え!?」


 そう言って頭を下げた殿下の姿に頭がパニックになる。


(殿下がそう簡単に頭を下げちゃって良いわけ!?)


 慌てて頭を上げさせようとして、はたと気が付く。

 そういえばこの展開、知っている。

 確かこの後に続くのは……。


「陛下が大切な友人の娘である君を怪我させたことを知り、大層お怒りになった。

 そこで、提案されたのだ」

「あーーーーー!?」

「「!?」」


 急にまたもや大声を出した私に、驚いたような表情をする二人をよそに、私は頭を抱えた。


(そうよ! これは忘れもしない物語中盤、ウィリアムとアリシアが婚約する場面だわ!?)


 アリシアは、ウィリアムを探し出して勝手に転んだ……にもかかわらず、陛下はそれによって大切な友人の娘が怪我をしたと激怒し、責任を取れとウィリアムに命じる。

 そしてウィリアムは、それに逆らうことなどできず嫌々婚約することになるのだけど。


(それがアリシアの悲劇の始まりなのよ!)


 アリシアは、ウィリアムのことを好き(?)だった。

 だから、それを聞いてとても喜び二つ返事でそれを快諾したのだ。

 しかし、ウィリアムの心がアリシアに向くことはなかったのだ。

 その結果。


(アリシアはバッドエンド……、婚約破棄&修道院送りという運命を迎えるのよ!)


 だから、今私がすべきこと、それは。

 そう慌てて決意を胸にした私の耳に、案の定彼女のバッドエンドの元凶となる言葉がウィリアムの口から発せられる。


「“責任を持ち、アリシア嬢と婚約せよ”と」

「お断りいたしますわ!」

「「!?」」


 殿下の口から飛び出た婚約の申し出を間髪を容れずに跳ね除けた私に、またもや驚き息を呑む二人を前に、私はツラツラと口から出まかせを並べる。


「この怪我は、ウィリアム殿下に責任を持って頂くほどの大した怪我ではございません。

 それに私、お慕いしている方がいるんですもの。婚約するならその方とが良いですわ!」

「「お慕いしている方??」」


 その言葉に首を傾げた彼らを見て、本当に息ぴったりねと笑ってしまいながら頷く。


「えぇ。どうせ結婚するのなら、両想いの殿方とが良いですもの。

 でないと、幸せになれる保証などありませんわ。それに」


 私はそこで言葉を切ると、今度はウィリアム殿下を真っ直ぐと見つめて言った。


「貴方のお心には既に、意中の女性がいらっしゃるようですし」

「!」

「えっ」


 その言葉に絶句したのはウィリアム殿下、そして小さく声を上げたのはクララだった。

 そんな彼女の姿を見て、やはりと確信する。


(彼女はずっと、ウィリアム殿下のことが好きだったものね)


 そしてそれは、アリシアも知っていた。

 二人が両思いなことを知っていたからこそ、アリシアはウィリアム殿下を横取りしようとしていたのだ。つまり。


(この恋心はただのクララに対する当てつけであって、本当の恋ではない)


 ウィリアム殿下を見ていれば分かる。

 彼を見ていても、アリシアである私の心が動くことはないからだ。

 アリシアにとってウィリアム殿下は、妹の想い人であり、そして完璧な上に誰からも愛される妹に対する嫉妬心から、彼に執着していただけなのだ。


(その結果、婚約をしても何かと仲の良い二人を見て嫉妬を募らせ、妹を貶めようとする悪役令嬢の出来上がりというわけ)


 二人は、私が彼女を虐めた例をあげ、断罪して幸せになる。

 けれど、私は文字通り面前で婚約破棄され、その後妹を見習えと修道院送りにされる悪役令嬢なのだ。


(しかもその修道院、めちゃめちゃ遠くて寒いところにあって、その上めちゃめちゃ厳しいらしいのよね)


 修道院送りだからといって優しいバッドエンドかと思ったら大間違いなのだ。

 そしてそんな生活は絶対にごめんだ。


(せっかく出来る妹と差別をしない優しい両親の元に育ったんだもの、出来ればそんな公爵家に止まる幸せな暮らしがしたい!)


 私の幸せは、1日3食昼寝付きの生活。

 そのために、まずは第一歩として何としてもこんな不幸まっしぐらの婚約から逃れなければ。

 そして、もう一度意を決すると、ウィリアム殿下の澄んだ瞳を真っ直ぐと見つめ、にこりと笑って告げた。


「というわけで、私の心配はご無用です。

 私の怪我はあくまで私自身の問題であり、そして殿下のお手を煩わせるほどのものではありません。

 もし私のためと仰るのならば、その婚約話は破談にしていただけたら大変助かります」


 その言葉に、またまた二人はポカンと口を開けて黙ってしまった。

 そんなに私、変なことを言っているかしら。

 まあ、殿下に執着していると思われているのならそう思うのかしらね、などと結論づけながら、それでも絶対にこれだけは譲らない!という思いで完璧な笑みを湛えたのだった。

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