小説とは違う展開です!?
「「……」」
(ど、どうしてこうなってしまったの!?)
今私の目の前には、信じられない光景がある。
それは。
(小説内においてのヒーロー、ヒロイン、そして、カイル様……、つまり未来の勇者パーティーの一部が集合しているー!!)
そしてついでに、(元)悪役令嬢の私もいるわ!
……なんて現実逃避してしまうのも無理ない。
だって、目の前にいる殿下、それからカイル様が火花を散らして睨み合っているんだもの。
(※カイル様の瞳は前髪で見えないので、あくまで想像です)
事の発端は、数時間前まで遡る。
「授業の前に、軽く教科書を読んでおこうかしら」
そう誰にも聞こえないくらいの声で呟くと、教科書を取り出し予習を開始する。
この一ヶ月、真面目に魔法実技と同様座学にも取り組んだ成果もあり、意味が分からなかった授業も、簡単に予習していけば授業についていけるようになったという、我ながらよくやった自分!という感じがしている。
また、これは私の努力のお陰なのか、それとも努力しないだけでアリシアの地頭が良かったのかは分からないけれど、とにかくやれば出来る子だということが証明された。
そしてそれは全て、カイル様のお陰なんだということも。
(カイル様は、本当に面倒見が良くて優しい方だわ)
この一ヶ月、私もカイル様のことを少しずつ知ることが出来ていて、私が日記感覚でつけているカイル様メモも着実に行数が増えている。
カイル様は魔法実技よりも座学が得意。
本人はそれが悔しいらしくて、魔法実技も上手くなるように日々特訓しているのだとか。(その設定があったから、カイル様はいつも同じ場所で毎日特訓されていたのね)
だから、座学も酷い有様だった私に、半ば呆れながらも放棄せず、実技と交互に時間を作って根気強く教えてくれたのは本当に神様としか言いようがない。(それほどアリシアの座学も実技同様酷すぎた)
そして何といっても頑張ることが出来たのは、カイル様は教える際、正直座学は特にスパルタだったけど、出来た時に浮かべる微笑みが飴と鞭の使い方をよく分かっていて、私はその笑みを見たくて頑張ったと言っても過言ではない。(真顔)
そんなこんなで再来週行われる予定の試験では、最下位は余裕で脱出出来るだろうとカイル様からのお墨付きを受け、気分を良くした私は、何だかいつも以上に騒がしい周囲の騒音に目もくれず教科書の文を只管追っていると。
「お姉様」
「!」
不意に名を呼ばれて顔を上げれば、そこには私と色違いのふわりとした金色の髪を揺らす、クララの姿があった。
そしてその後ろには、いつものように不貞腐れ気味の殿下の姿も。
その神々しいまでに眩しい二人の姿に、道理で教室が騒ついていたはずだと瞬時に納得し、私は口を開いた。
「おはよう、クララ。ごきげんよう、殿下。私に何か用があって?」
殿下には挨拶止まりにして、敢えてクララに話しかける。
噂が下火になったとはいえ、これでもしクララではなく殿下を優先していると周囲の目に映れば、また私が殿下に媚びを売っているだとか、はっきり言って嫌な誤解をされかねないからだ。
そう思い、殿下には一切視線を向けずクララに向かって笑みを浮かべれば、彼女もまた笑みを返してくれながら言った。
「お姉様にお聞きしたいことがあって来たのだけど……、後でお時間をもらえないかしら?」
「聞きたいこと?」
私の言葉にクララは頷く。
その目は真剣……というよりも、笑みを浮かべているはずなのにどこか怒っているような気がする。
(そこらへんは双子だから分かってしまうのかしら)
何となく冷や汗が流れる私に対し、クララは笑みを絶やさず口にする。
「お話は少し長くなると思うの。出来れば、お昼休みが嬉しいのだけど……、難しいかしら?」
クララから私に少し長めのお話とは何!? と思いつつ、言葉を返す。
「あ、生憎お昼休みも放課後も、カイル様と先約があるというか」
「……カイル様って、マクレーン辺境伯家の方よね?」
「え、えぇ。知っているの?」
クララの言葉にドキッとしつつも尋ねると、彼女は「お名前だけ」と口にしてから言葉を続けた。
「それなら丁度良かったかもしれないわ。マクレーン様も交えて、四人でお話ししたいことがあるの」
「よ、四人で!?」
さすがにそれには驚き、言葉を失ってしまう。
クララは辺りを見回し、そして殿下を一瞥してから私に視線を戻すと、私の耳に顔を近付けて囁いた。
「大丈夫。アリシアお姉様のことはもちろん、マクレーン様に対して怒ったりしていないから」
「!」
どうやらクララもまた私の考えが分かったらしい。
だとしたら、その怒りはどこへ? という私の疑問には答えず、クララは「また来るわね」と行って殿下と共に去って行く。
その背中を見ながら思った。
(二人が私だけでなくカイル様にまで話って何!?)
そのことが気になりすぎて、おかげで予習した授業だけではなく午前中の授業は、何も頭に入らずに昼休みを迎えてしまう。
そして、授業が終わった瞬間に教室を一目散に後にし、クララと殿下を連れて向かった先は、カイル様と待ち合わせをしていた校舎裏で。
カイル様の教室からこの場所は私の教室より近いからと、いつものように先に来て本を読んでいたカイル様は顔を上げ、私の後ろにいた二人に気付いた瞬間。
(明らかに嫌そう!)
最近は、隠れている目が見えずとも大体彼が何を考えているかが分かるようになっていた私は、この前の殿下との一件もあり殺気立つ彼が言葉を発するより先に口を開いた。
「カ、カイル様は私の妹と会うのは初めてだと思うので紹介いたしますね!
こちら私の双子の妹のクララ・バレッタです」
そう口にすると、クララは淑女の笑みを讃えて口を開いた。
「お初にお目にかかります、クララ・バレッタと申します。
いつも姉がお世話になっております」
そう言って微笑んだクララのことを、カイル様はじっと見つめる。
それがなぜだか嫌だと思ってしまった私は、その視線を遮るように続けて口を挟んだ。
「そ、そしてこちらが私がいつもお世話になっているカイル・マクレーン様です!」
「……カイル・マクレーンと申します。よろしくお願いいたします」
そう言ってカイル様はぺこりと頭を下げる。
そんなカイル様に、私はあれ、と違和感を覚えた。
(カイル様、意外に愛想が良い……?)
そうだ、小説内において、本来ではこの三人は勇者パーティー結成時に初めて会って、それから自己紹介する場面があった。
その時、カイル様だけは無愛想なまでに自分の名前だけを言って、後は空気に徹していたはず。
だから今、目の前で聖女となるクララに対してきちんと挨拶をしたことに違和感を覚えたのだ。
(私がいることで、小説とは違う展開になっている)
当たり前のことだけれど、当たり前ではない。
それを目の当たりにして……、そんな二人に対して一瞬モヤモヤとしてしまう気分を振り払うように、私はカイル様に向かって声をかける。
「カイル様、本日は急で申し訳ございませんが、お昼休みを四人で過ごさせて頂いてもよろしいですか?
クララから、お話があるそうで」
その言葉に、カイル様は一瞬間を置いたけれど、小さく頷き言った。
「別に、良いですよ」
その言葉に、「ありがとうございます」と笑みを浮かべてから、立ち話は何だからと東屋まで四人で移動することになり、そして……カイル様と殿下という、印象最悪の二人が対峙し現在に至る。




