③面倒事と目立つことが嫌い…なはずのカイル様
「どうしてわざわざ、殿下の喧嘩を買われたのですか!?」
カイル様に連れられて向かった先である庭園で開口一番にそう口にすれば、カイル様もまた怒ったように口を開いた。
「貴女こそ、殿下になぜあのようなことを?」
「ムカついたからです」
「……はぁ」
カイル様は盛大にため息を吐いて口にする。
「言ったでしょう? 貴女が何を言おうが、僕の全属性は貴女の妹の光属性と違って馬鹿にされる対象だと」
「聞いていらっしゃったのですか?」
その言葉に、カイル様は頷いて言った。
「それは、まあ。あれほど大きな声でしたら聞こえるでしょう」
「……最初から?」
「はい」
カイル様の言葉に、今度は私がため息を吐きながら返す。
「道理で、殿下に喧嘩を売るような真似をされたのですね……」
「貴女にだけは言われたくないですが、そうですね。僕もムカついたので」
「だからって何も、その……、私を庇わずともよろしかったのですよ?
あれでは私と貴方の関係を誤解されてしまいます」
婚約者でもないのに、とそう付け足すと、カイル様は言った。
「そういう貴女こそ、僕のことを庇ったではないですか。
捨て置けば良いことにまで反論して」
「それがムカついた理由だからです!」
「!」
息を呑むカイル様に向かって、俯くとやり場のない怒りをぶつけるようにして今自分が抱えている感情を吐露した。
「私だけならともかく、殿下は私がカイル様を婚約者にと望んでいるからと、カイル様にまでその矛先を向けました。
今までの行いが悪かった私が確かに悪いのかもしれませんが、それでもカイル様の悪口を言うなんて、いくら殿下でも許せなくて」
ギュッと服を握り俯けば、涙で視界がぼやける。
(……悔しい)
彼が何をしたと言うのか。
私が婚約者にと望んだだけで、彼が悪口を言われてしまうなんて、カイル様に申し訳なくて。
「……ごめんなさい」
「なぜ、謝るのです?」
「私のせいで、カイル様まで悪口を言われてしまうからです。
やはり、私は貴方との婚約を望むべきではないのかも」
「その程度だったのですか」
「え?」
涙目のまま思わぬ彼の発言に顔を上げれば、彼はハッとしたように……、どこか罰が悪そうに乱暴に自身の頭をかくと言った。
「あぁ、もう! 分かっていますよ! 貴女に悪気がないことくらい!
だけど、そう簡単に割り切れられると腹が立つのは、当然だと思うんです」
「どういう意味ですか?」
「……そちらからはグイグイくるくせに、こういうことに疎いなんて、本当にタチが悪い」
「えぇ?」
タチが悪いのかしら? 私って。
頭が疑問符だらけになる私に対し、カイル様は「だから!」と怒ったように言う。
「貴女が望んでいる“ハッピーエンド”とやらは、そう簡単に諦められるものなのかと言っているんです!」
「いいえ!?」
何せ諦めたらバッドエンド行きですからね!
と意気込む私に対し、カイル様は頭が痛いようで、こめかみを押さえて言った。
「ですよね。でしたら、頑張るべきです。
……言っておきますが、僕はどうでも良いことには時間を一秒たりとも割きませんから」
「え?」
「それと、目立つことも嫌いです」
「!?」
そう言うだけ言って、「もうすぐ授業ですよ」と踵を返して行ってしまう彼の背中を見て、私はハッと口を押さえる。
「……つまり公衆の面前で助けてもらった私は、カイル様にとって少なくともどうでも良い存在ではないということ!?」
そう口にし、「やったーーー!!」と大声で両手を挙げると、先を行くカイル様に走り寄り前に進み出る。
「!」
それによって驚いたように立ち止まる、いつもながら瞳が見えない彼に向かって真っ直ぐと告げた。
「これからも私、カイル様に婚約者になって頂けるように頑張りますね!!」
「……頑張ってください」
「!」
カイル様が応援してくれた。
それが嬉しくて、私は全力で満面の笑みを浮かべ、「はい!」と大きく返事をしたのだった。
「気を取り直してっと!」
ドンッと図書館の一人机に本の山を積み重ねた私は、そう言って腕まくりをする。
「まずは勉強しなければね!」
本来ならば、昼休みから開始しているはずだったのに、殿下のせいで予定が狂ってしまったのだ。
(遅れを取り戻さなければ!)
よし、ともう一度気合を入れると、本の山から一冊手に取り、早速ページを捲る、が。
(……何を言ってるんだか全然分からないぃぃいいい)
開始5分で意気消沈し、私は机に突っ伏した。
私が読んでいた本は、魔法学の本だ。
まずは分かりやすそうなタイトルからと、魔法の発動条件を記した精神・身体的な理論書を読んだのだけど。
「私が馬鹿だから読解力がないだけ!?」
いやいや、前世でもこんな難しい本は読んだ事がないわ!
と悲鳴を上げるけれど、頭を横に振って思う。
(いや、きっとカイル様ならこの程度、スラスラ読めるに違いないわ。
私もカイル様を見習って、理解出来るようにしなければ!)
でないとカイル様にこう言われてしまうだろう。
『貴女、馬鹿なんですね』
と。
「……いや、駄目、今ので傷付いたわ……」
瞳は見えずとも、彼の口から軽蔑されたような口調で言われてしまえば、立ち直れないだろう。
「やっぱり、頑張るしかなさそうね」
そう呟くと、頑張るぞと頷き、閉じてしまったページを再度開き直したのだった。
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