流行りの悪役令嬢に私が転生!?
楽しんでお読みいただけたら幸いです!
赤い絨毯が敷き詰められた学園の廊下の中央を堂々と、前だけを見据えて歩く。
周囲が非難の目を向けていることになど気が付かず、この国では珍しい、それでいて間違いなく悪目立ちする、腰まで伸びた白銀の髪を揺らしながら、彼女の紫色の双眸は、たった一人の姿を探していた。
それこそが彼女の想い人であり、唯一彼女が婚約を切望した人物なのだ。
そして彼女は、階段下にいた探し人の姿を紫の瞳に捉える。
また探し人と共にいたのは、艶めく金色の髪を持つ彼女の妹だということに対して、密かに闘志を燃やしながら、彼女はそんな二人に階段を降りながら近付き……、正確には妹を居ないものとみなして声をかける。
「ウィリアム殿っ……」
名を呼ぼうとした彼女の言葉が潰える。
それは、彼女が階段を踏み外したことで身体が空中に投げ出されてしまったからだ。
そして、重力に逆らうことなく彼らのいる階段下に落ちていくのだが、その身体に彼女自身が魔法をかけようとするも虚しく、彼女の身体はそのまま床に叩き付けられたのだった。―――
「……ってこの場面、何度読んでもアリシア痛そうじゃない!?」
「アリシア嬢?」
「お姉様!」
その声にハッとし、開いた目を数度瞬きして現状を把握する。
(あ、あれ? 私寝かされている? っていうかここはどこ!?)
「……うっ!」
起きあがろうとして思わず呻き声を上げる。
そんな私に慌てたように口を開いたのは、金髪に同色の瞳を持つ物凄い美少女だった。
「だ、駄目よお姉様! お怪我に障るわ!」
「怪我……?」
とりあえず視線を自身の身体にズラせば、なるほど確かに左足首と左腕がこれでもか!と言わんばかりに包帯でガッチリと固定されていた。
(ど、どうしてこんなことに? 私こんな大怪我したことないんだけど……、というか、今この子お姉様って)
それに、この目の前の女の子、どこかで見たことがあるような……?
などと働かない頭で何とか考えようとした私の頭上で、明らかに不機嫌そうな声が降ってきた。
「階段から落ちたんだ。俺達の目の前でな」
その声に驚きそちらに目を向け……、思わず口走ってしまう。
「っ、ウィリアム・シェフィールド!?」
その名と容姿は紛れもない、私が前世読んでいた小説『誰が為に、魔法を使う』に出てくるメインヒーローであった。
それにより、その世界に転生してしまったことに気付いた瞬間、私の“前世の記憶”となるものが脳裏に流れ込んできた。
『誰が為に、魔法を使う』、通常“たがため”。
前世日本という国で流行っていた、恋に魔法に学園に冒険にと、ありとあらゆるジャンルが詰まった恋愛小説である。
この物語は全八巻で既に完結しており、私も全て読了の上、好きすぎて何度も読み返してはロス状態に陥るという、永遠ループを繰り返す魔の小説、だったのだけど……。
(そんな世界に、まさか自分が巷で噂の“異世界転生”してしまうだなんて!)
確かに大好きだったけれど、さすがにそこまで願っていなかった! と内心パニック状態に陥っている私の耳に、冷ややかな声が届く。
「敬称をつけずにフルネーム呼びとはどういう了見だ? アリシア・バレッタ嬢」
「も、申し訳ございません、殿下!」
慌てて謝罪の言葉を述べるけど、今ははっきり言ってそれどころではない。
(い、今アリシア・バレッタ、と呼んだわよね!?)
恐る恐る見える範囲で確認しようとして、またそれはベッドに広がっている髪色を一目見たことで確信に変わり、絶望する。
(ぎ、銀色の髪……)
確かに綺麗だし、珍しいと言われても頷ける。
けれど、それとこれとは別。
(何でよりにもよって、悪役令嬢に転生してしまったのーーー!?)




