7話
眠気が全てを支配する…ウゴゴゴゴ……
戦闘が終わった俺は、三人に囲まれるようにして詰められていた。さっきの囮作戦はやはり警察として看過できなかったらしい。
「天楷くん、なぜあんな行動をとった?」
返答次第ではこれからの攻略に支障をきたすのは明白。でも俺はここで聞こえのいい答えは出せない。正直に答えた。
「あの場で最も戦闘で価値の軽い人間が俺だったからです。遠距離射撃の二人と現状最高火力の郡司さんは失うわけにはいかない。死ぬつもりはなかったですけど天秤にかけたら俺が囮になるのがッ!」
俺が言い切る前に郡司さんの拳が俺の頬に突き刺さる。振りぬかれた拳は俺を少し後ろに殴り飛ばした。
「子供が命を天秤にかけるんじゃない。窮地でもなんとかするのが大人の甲斐性というものだ。……二度とこんな事をするな」
郡司さんの声は何かを振り絞るように、何かを振り切るように発された。俺にでさえ彼の過去に何かあったと察するには余りあるものだった。村瀬さんも江藤さんも何かを知っていてそれを隠すように目を伏せる。俺は俯いて謝る事しかできなかった。
「……っ、なあ天楷くん上!」
江藤さんが丁度俺の頭上を指さす。見上げるとそこには最初にゴブリンを倒した後に現れた羊皮紙だった。一番上には大きく【level up!!】と記されている。
【level up!!】
レベルが2上がりました!
『攻撃力+3』『防御力+3』『敏捷+2』『体力+5』『魔力+2』『スキルスロット+1』が付与されます。
レベルが3になりました!
これによりスキル『槍術レベル1』を獲得しました。
俺以外の三人もレベルが上がっていたようだ。個人差はあるが、やはり俺よりもステータスの伸びが大きい。槍術のスキルが手に入ったが、槍がある事が前提でようやく三人と対等一歩手前になる。だが、その肝心な槍がない。
「おおやったな!あそこの槍を使えばもっと強化されるって事だよな!」
「え?でも俺より武器が心許ない村瀬さんか江藤さんが使った方が」
「それなら君のククリを使わせてほしい。これで君があの槍を使えば全体的な強化ができる。それで大丈夫ですか?郡司先輩」
郡司さんも同意するように頷き、俺はゴブククリを村瀬さんに渡す。そして部屋の奥に進み、祭壇らしき装飾の舞台にある槍を手に取った。
槍の見た目はよくあるスピアやランスではなく、日本的な装飾の少ないものだった。確か日本槍の使い方は突くのではなく薙いでの打撃が主流だったと聞く。実際に目の当たりにするとその刀身の長さに昔テレビの専門家が言っていた「槍は穂先で相手を貫くには無理のある武器である」という言葉が理解できる。ざっと3メートルはあるこれを横に向けて真っ直ぐ突き刺せと言われても俺には不可能に近い。
「すげえ…近くで見るとこんな長いんだ」
「語彙力もう少しなんとかならないのか?天楷くん、まずはスキルスロットに」
「あ、ああ…そうですね」
スキルスロットを開いて『槍術レベル1』をセットする。途端に脳裏に浮かんだのは、自分以外の誰かが今手に持っている槍を使いこなし、戦うための【型】を演じている。それを俺は見逃す事無く全て記憶していた。
「なんか…頭の中で槍の型を舞ってました」
「何を言ってるんだ?」
郡司さんが訝しむように尋ねるが、そうとしか言い様がない。とりあえず実演してみるために村瀬さん達に距離を取らせて槍を上段に構える。
「ふう……ハッ!!」
脳裏に浮かんだイメージ通りに型を演じる。上段振り下ろし、横薙ぎ、持ち手を穂先に近づけて銛を打つように一気に飛ばす。石突付近を強く握り一回転するように振り回す。型通りに動いた後、槍を自分の横に突き立てると、横から小さく拍手が鳴った。
「すげえすげえ!初めてでこれなら有望だよな!」
「スキルありきと言ってしまえばアレだけどな。武器スキルは対象への使い方をインストールさせるだけなのか?」
江藤さんは直球に褒めて、村瀬さんは武器スキルへの疑問を口に出して整理している。郡司さんは無言で俺に近寄り、真面目な表情で口を開いた。
「天楷くん…まだ戦えるかい?」
「…はい」
「あの石扉通りなら、君は一人でゴブリンに挑む事になる。仲間がいる事と自分一人だけのメンタルは大きく異なる。…それでも戦えるか?」
「はい」
俺は迷わず答えた。傷だらけだけど、出血もしてるけど、今は不思議と怖くない。自惚れているというわけでもなく、冷静な判断もしたうえで何とかなると感じている。
「分かった。休憩の後、君には最後の部屋でゴブリン討伐を行ってもらう。異論は」
「無いです」
郡司さんの言葉に即答すると、全員で部屋を出る。部屋の外で待っていた蔵井さんが俺の怪我に顔を蒼くしていたが、すぐ適切な処置を施してくれた。
【体力】
RPGにおけるHPやスタミナの位置づけに相当するステータス。ダメージ計算は
攻撃力(乱数や攻撃部位によって変動)-(防御力+攻撃力÷2)=引かれる体力
となる。
他に体力が消費されるケースは動き続ける事によるスタミナ切れや長時間高負荷をかけ続ける等がある。