第56話 僕は最愛の妻を得ました
この国で暮らしている鍛冶師にとって、王国コンテストは最高の舞台だ。
そこを目指すために日夜、修行を続け、頂きを掴み取ろうとする。
そして、栄光を掴んだものには最高の名誉が与えられる。
僕は準優勝を果たし、その生活を大きく変えることになった。
「ライルさん。この度はおめでとう」
「ありがとうございます」
武具屋の親父だ。
本当にこの人には感謝をしている。
この人がいなければ……今の僕はいないだろう。
「……」
何しに、この人は来たんだろう?
王都から帰ってきた翌日の早朝だ。
きっと、重大な用があると思っていたのに。
「その、なんだ……物凄く言いづらいんだが……ライルさんの武具を売ってくれ!!」
……?
何を言っているんだ?
「当然じゃないですか。親父さんには今までどおりに……」
「……ライルさん、言っている意味分かっているのか?」
親父の方こそ、意味が分からない。
「王国コンテストで入賞と言えば、王国指折りの鍛冶師と認められたってことだ」
それは分かる。
まぁ、ちょっと恥ずかしいけど。
きっと、そうなんだろうな。
「その鍛冶師には銘を打つことが許されるんだ」
……信じられない。
僕の銘を……打てるだって?
この国では武具は神聖なものとして取り扱われる。
そう言う意味では鍛冶師は崇高な仕事だ。
それゆえ、制約が多く、中でも銘を打つのは王の許可が必要なほど。
だが、それが無条件で許されるのが……王国コンテストの入賞者だ。
まさか自分にもその話が来るなんて、想像できるだろうか?
いや、絶対に出来ない!!
「えっと……それじゃあ、僕の銘を打ったものを買いたいの?」
「ああ、年に一本でも良い。是非!!」
……本当に信じられないよ。
「もちろんだよ。親父には世話になったし……年に一本どころか……」
何だよ、親父。
僕の言葉を遮るなんて……。
「それ以上はいうな。ライルさんは優しいが、甘い。いいか? これから取扱いたいという店が次々とくる。それこそ、王国中からな。一つの店だけを贔屓にするな」
……。
「ありがとう。でも、年に一本でいいの?」
「ああ。取り扱えるだけで十分だ。それに……それ以上取り扱ったら、殺されちまうよ」
どうやら、銘入りの武具は破格の値段らしい。
それを取り扱えば、当然……金の欲に眩んだ者に命を狙われる。
それに同業者からも妬みを買ってしまう。
どちらにしろ、いい事はないらしい。
それでも武具屋の名誉のためと頼みに来たようだ。
「ありがとうよ。ライルさん。王都に行っても、達者でな」
「ああ」
もう、話が広まっているのか……。
もう一つの変化が、王都に引っ越すということ。
王国にはかつて大戦が繰り広げられていた時代があった。
その頃に作られたのが王家直属の鍛冶師集団だ。
だが、ウォーカー家やメレデルク様のような凄腕の鍛冶師が世間で出始めた。
そこで、王家は直属を止め、爵位を与えることで優秀な鍛冶師の取り込みを図った。
そこまでは誰でも知っている歴史だ。
僕は復活した直属の鍛冶師になった。
しかも、筆頭鍛冶師として。
もちろん、今は僕しかいない。
だけど、ゆくゆくは大きな変化をしていくらしい。
それは王国の周辺がきな臭くなってきたことと関わりを持っているのかも知れない。
これだけでも人生がひっくり返るような大きな出来事だ。
だけど、これが一番の大きな出来事かな。
「ライル君。急に呼んで悪かったね」
「いいえ。デルバート様にもお礼をしたかったので」
色々なことがあった……。
全てはこの人のおかげで経験できたと思う。
この地を去ることも本当は心苦しい。
それなりに工房への愛着も出てきたしね。
「そんな水臭いことは不要だよ。それで出発はいつなのかな?」
「そうですね……一月後には」
王の部下の方からは授爵式の準備や工房の手配などで時間が必要だと言われている。
「ふむ。早いな。そう……君には見せそびれていた物があったからね」
実はとても気になっていた。
デルバート様の後ろの机上にある物が。
「ドム・マグナだ」
やはり……。
「手にとっても?」
「ああ、構わないさ」
震える手でゆっくりと持ち上げる。
これが伝説の……ドム・マグナ。
なんて素晴らしいんだ。
重厚な刃渡り……それに一切の曇がない。
輝きは七色となり、辺りを明るく照らしつける。
思ったよりも軽く、扱いやすい感じだ。
……。
『鑑定』
■■■■剣
銘 ドム・マグナ
品質: S
耐久: 13499/13500
特性: ■■■■
スキル: ■■■■
ランク: プレミア級
熟練度: ☆4
覗いてみるだけでも、凄い剣だと分かる。
特性もスキルもバッチリ付いているんだな。
こんな剣をいつかは作りたいものだな。
「気に入ったかな?」
「ええ! いい勉強になりました」
「ふむ。ならば、君に一つ、餞別を贈ろう」
……なんだ?
重厚な木箱に入れらたもの。
「開けても?」
「もちろんだよ」
ゆっくりと開けると……。
まばゆい光が放たれた。
お金だ。
「君には不要かも知れないが、手ぶらで行かせたと知られれば、私が不興を買う。だから、受け取って欲しい」
初めて見た。
白金貨だ。
金貨1000枚分の価値があると言われる。
言われる、というくらい馴染みのない通過だ。
一生に一度、手に出来るかどうか……。
それが百枚近くないか?
公爵家の財力は恐ろしいものだな。
「ありがとうございます。一生の宝にします」
「それでは困る。ちゃんと使ってもらわなければ」
そんなことを言ってもなぁ。
作った剣を売れば、お金に不自由することはないし……。
「だったら、一つ、協力してあげよう」
お金を使う協力?
そんな話は聞いたことがない。
「入り給え」
ん? 誰かいるのか?
……。
扉がゆっくりと開けられた。
執事が入ってきた。
僕はその後ろにいる人に目が釘付けになっていたんだ。
その女性は純白のドレスに身を包み、豪奢なティアラを頭に載せていた。
まるで、お姫様だ。
「改めて、紹介しよう。我が最愛の妹、フェリシラ=スターコイドだ」
何を言って。
そんな事は知っている。
「ライル子爵。我が妹を妻として迎え入れてもらえないだろうか? 少々、金遣いが荒いがね」
「お兄様! 余計なことを言わないで下さい!!」
……信じられるだろうか。
一介の庶民だった僕が……公爵のご令嬢をお嫁さんに出来るなんて……。
「その儀、謹んで、お受けいたします」




