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第34話 アリーシャの道

公爵家は相変わらず大きい。


グレンコットは見るものは多かったが、狭い土地に入り組んだ道も多かった。


やっぱり、広々とした場所のほうが好きだな。


「遅かったではないか! 待ち狂いしそうだったぞ」


なんだよ、待ち狂いって。


「さあ、妹よ。私に抱きついてきてもいいんだぞ」

「イヤですわ。はしたない」


「フェリシラァァ」


さてと……帰るか。


「ちょっと待ち給え。この状況で踵を返すとは何事だ? まずはお兄さんに報告するのが先ではないか?」


さりげなく、お兄さんなんて言わないで欲しい。


気持ち悪……あまり考えないほうがいいな。


この人は顔の表情だけで相手の心を読む天才だから。


「魔女の館にて、依頼通り、治療をしてきました。おそらく完治したものかと。以上です」


これでいいだろう。


どうして、腕を掴まれているんだ?


「そうではない。フェリシラの毎日がどうだったか、ということだ。ちゃんと寝ていたか? 歯は磨いていたか? もしかして、一緒に寝てはいないだろうな?」


怖い怖い……。


この人の妹愛は本気だ。


「えっと……とっても元気でしたよ」

「あら? それだけなのかしら?」


急にフェリシラ様も参戦?


何を言えばいいんだ?


「さっきから、気になっていたが……その光るブレスレットは魔道具か?」


へぇ、さすがは公爵様だな。


これをひと目で見抜くとは。


「ええ、『探知』のスキルが入った……」

「貴様! フェリシラにプレゼントとは……随分と偉くなったものだな? ええ?」


なぜか、絶体絶命の危機に……。


「お兄様!! これは私が欲しがったもの。ライルに無理を言って、買ってもらったものですわ」


「……ふむ。それならば、仕方がないな。ライル君、済まなかった」


な、なんだったんだ……。


「えっと、フェリシラ様、ありがとうございます」

「いいのよ。全く……お兄様ったら」


さすがにもういいだろう……


どうして、次は首襟を……。


「待ち給え。さっきまでは冗談だ。君には色々と聞かねばならない」


本当にやりづらい人だな。


……。


結局、根掘り葉掘り聞かれた。


家に帰ってこれたのはそれから、随分と時間が経ってからだ。


「アリーシャ。今日はもう寝ようか」

「えっと……お休みなさい!」


なんだ?


また、寝ないつもりか?


全く……。


「あまり、食べすぎるなよ……僕はもう……寝る」


疲れたなぁ……。


……。


「なんだ、これ?」


この家には食卓がある。


前は数人の人が寝泊まりをしていた場所だけに食卓はそれなりに大きい。


公爵家敷地内だけに、調度品も素晴らしい……。


それは、今はどうでもいい。


その食卓の上に、隙間なく料理が並んでいた。


「えへっ。作りすぎてしまいました」

「アリーシャ。これは……まさか、一晩中、作っていたのか?」


これは凄いな。


前に食べたことのある料理から、知らない料理まで……。


でも、なんで急に?


とはいえ……こんな料理を前に無駄口は不要だ。


美味い!!


なんなんだ、この料理は。


肉汁が……溢れる。


朝から食べられるようなものではない。


普通は……。


だが、これはイケる。


「酸味か?」


油っこさを感じさせないのは、この酸味のせいか。


分かる……分かってきたぞ。


この料理は絶品だと。


くっ……アリーシャ。


僕は君を手放すことが出来そうもないな……。


「親方ぁ!」


僕は肉を持ちながら気絶した。


……。


「食い倒れたか……」


人生ではじめての経験だった。


まさか、本当に食いすぎると気絶するんだな。


死ななくてよかった……。


「もっと、あるよ? 食べる?」


なんて、凶器なんだ。


腹がいっぱいなはずなのに……。


「優しい……味だ」


これは麦粥か?


ほのかに乳の香りを漂わせ、満腹だった胃袋に静かに流れ込んでいく。


不快感からも解放され、幸せな気持ちだ。


僕はまた気絶した。


……。


「親方ぁ。大丈夫?」

「ん? ああ、アリーシャ。僕はとても幸せな気分だ。ありがとう」


この目覚めの良さはなんなんだ?


そう、まるで旅の疲れが全て吹き飛んだような……。


「薬草!」


きっと、それが入っているに違いない。


途中の街で買ったのか?


「入っていないよ。これは全部、アグウェルで買ったものだよ」


信じられない。


アリーシャの食べ物には体を回復させる、何かが入っているのか?


「お母さんが言ってたの。料理は食べてくれる人を想って作るんだって。私、親方を想って作ったの」


……アリーシャ。


僕には酷い母親しかいなかったけど、きっと母親の味というのはこういうものなんだろうな……。


「とても美味しかったよ」

「うん!! また、作るね」


えっ?


どうして、厨房に?


「アリーシャ。ストップ!! もう、作らなくていい!!」

「どうして?」


ああ、そうか。


きっと自分の食欲を基準に考えているんだな。


だとしたら、この量は少ないかもしれない。


だが……。


「まだ残っている量でもしばらくは食べられるから……」


結局、この料理たちも数日後には綺麗に無くなっていた。


「どうして、急に料理を?」


今までも毎日のように料理は作ってくれていた。


とても美味しいと満足がいくものばかりだ。


だが、今回みたいに大量に作るのは初めてだ。


なにか、心境の変化でもあったのだろうか?


「私……料理がしたいの」


ん? うん……


すれば、いいんじゃないかな?


「鍛冶の仕事もお手伝いする。だから、料理をさせてほしいの」


えっと……。


「料理をするななんて、誰も言っていないだろ? アリーシャのやりたいことをやればいいよ」

「いいの? 本当に?」


何をそんなに驚いているんだ?


「でも、分からないんだ。どうして、急に?」


僕にはアリーシャの中で大きな変化があったと思う。


それを聞きたかった。


「お姉ちゃんが言ってたの」


フェリシラ様が?


ふむ、そうか……。


なんとなく、分かった。


自分の道……それを教えたかったんだな。


僕にとっての鍛冶道のように……


「男は胃袋をつかめば楽勝よ、って。私、親方にはとても感謝してて……」


ちょっと待て。


ん? どう言う意味だ?


「私、恩返しがしたくて。男の人って料理が好きだって。だから……」


それって、意味が違わないですかぁ?


結局、アリーシャの料理道はどんどん突き進んでいくことになった……。

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