第32話 魔女の館で少女の裸を見ました
「じゃあ、削りますねぇ」
この女騎士はいちいち仰々しいんだよな。
ただの少女じゃないか。
僕は砥石を片手に少女の体に近づいた。
「へ?」
また、剣が首元に……。
「貴様。ウィネット様に何をするつもりだぁ!!」
……。
「えっと……これで削ると治るんですよ、多分」
「ふざけるなぁ! そんなもので治ったら、苦労なんてないんだ。ベローネ様がどれほど……」
まったく、話について行けない。
こういう時は……。
「マスター!! 説明を!!」
侮辱されたと思ったのか、剣に力が少しこもった……と思う。
僕の首から血が少し垂れてきた。
「あなた! ライルに何をするの!! ギルドマスター、これはどういうつもりですか? いくら、お兄……公爵様の頼みとは言え、ここまでされる理由はございませんわ!!」
フェリシラ様……。
さすがはデルバート様の血を分けた方だ。
怒ると、怖いな。
「いや、イディアさんも剣を引いて下さい。この人たちは決してウィネット様を害する目的でここに来てないと何度も説明したではありませんか」
その説明であんだけ疑われていたのか?
それはそれで衝撃的だな。
「ふむ……客人。失礼した。何分、ウィネット様が心配でな。許せ」
随分と偉そうな態度だな、この人。
僕は好きになれなさそうだ。
「いいえ。許しません。しっかりと謝罪をして下さい。どうして、剣を向けられ、切られなければならないんですか? 流石に帰ってもいいと思っていますが、公爵様の顔を立てて……」
イディアとかいう女剣士に、くどくどと思いの丈をぶつけた。
といっても何をされても、僕は帰るつもりはなかった。
だって……アリーシャが少女の手を握っていたから。
「大丈夫。お兄ちゃんがきっと治してくれるよ」
……そんなことを言われたら、引き下がることなんて出来ないだろ?
でも、この女剣士だけは許せない。
「どうして、私が謝らなければならない。ウィネット様に失礼を働いたのはお前たちだ」
このやろう……。
いや、冷静になろう。
こういう時は僕が治せることを証明すれば……。
本当に出来るのか?
僕自身も治療には半信半疑なんだ。
この砥石で……。
僕は首筋に当てた。
シュッ……シュッ……。
僕自身は見えないけど……。
「フェリシラ様。どうですか?」
「ええ。綺麗に治っていますわ」
「だそうです」
女剣士に首をこれでもかと近づけてやった。
「ぐっ……本当に治っている」
あの……あまり顔を近づけないで下さい…・・。
ていうか、この人、メチャクチャ美人だ。
しかも……エ、エルフ族だ。
なんで……。
「やめ……やめてください」
首を凝視されていることが物凄く恥ずかしくなってしまった。
……えっ?
フェリシラ様?
「あとでお話があります。あっ、治療が終わった後で結構ですよ」
あれ?
怒っている?
めちゃくちゃ怖いんですけど。
「頼む!! ウィネット様を!」
いや、あの……。
手を握られるのもドキドキするんですが……。
胸! 胸が近すぎて……それに顔も。
本当にヤバい!
あっ!!
「ありがとうございます。フェリシラ様」
危なかった。
フェリシラ様が服を後ろに引っ張ってくれなかったら、抱きついていたかもしれない。
それほど恐ろしい……凶器だった。
「ふん!! さっさと始めなさいよ」
「はい……」
色々あったが、安心して治療が始められるようだ。
「あの……顔を近づけるのは止めてもらえませんか?」
「いや、ライル殿の神がかったお手を拝見したくて」
この人、いろいろな意味で危険な人だ。
「マスター!! この人を退場させて下さい!!」
「そ、そんな!! 嫌だぁ!! ウィネット様ァァァァァ」
これで静かに出来るな。
「アリーシャ。すまないけど、この子の服を脱がせてくれ」
「はい。ごめんね。服を脱がせるね」
眠っている子にもちゃんと優しく出来るんだな……。
「フェリシラ様? どうして、目を塞ぐのですか?」
「な、なんとなくです。これでも治療は出来るでしょ?」
……手探りでしろと?
まぁいいか。
フェリシラ様の手の温もりを感じられるなら。
「アリーシャ。僕を誘導してくれ」
「はい!」
不思議な三人の共同作業だった。
アリーシャは僕の手を固くなった皮膚の場所まで運ぶ。
僕はそこを砥石で削っていく。
そして、アリーシャは削った場所が治ったかどうかを報告してくる。
「いい感じだな」
不思議だ。
実は目隠しをされている状態でも、女の子の状態がありありと分かるんだ。
それは『研磨』スキルが教えてくれる情報。
アリーシャに頼んでいることは、実際はただの確認に過ぎない。
今回は上半身と顔だけに広がっていた。
ゆっくりと時間をかけて研いでいく。
少女の柔肌を傷つけないように……。
「フェリシラ様。もういいですか?」
「え? ええ。そうね」
上半身が終われば、問題はないだろう。
「とても綺麗な肌ね」
「本当ですぅ。きっと、この子も喜ぶと思います」
「顔のフードを取ってくれ」
「はい」
……やはりか。
この子もエルフ族なんだな。
「じゃあ、続きをやろうか」
僕にとってはどうでもいいことだ。
今は目の前の研ぐべき対象をただ研ぐだけなんだから……。
「お疲れ様。ライル」
「ええ。フェリシラ様も手が疲れませんでしたか?」
目隠しをした後は、ずっと両手を僕の肩に置いていてくれた。
それが僕にはすごく心地よかったんだ。
「いいえ。私なんて、何の役にも立っていなくて……お恥ずかしい限りですわ」
そんなことはない……と言おうとしたら、アリーシャが騒ぎ出した。
「目が覚めたよ!! ねぇ、聞こえる? 私の顔……見える?」
僕達が駆け寄ろうとしたら、後ろから跳ね飛ばされた。
「ぶへっ」
「ウィネット様ァァァ」
女剣士か……。
まぁいいか。
色々と心配をしてきたんだ。
これくらい喜ぶくらいは許してやらないとな。
それに……
「ねぇ、ライル? その……この態勢はあまり良くないと思わない?」
「そう、ですね」
飛ばされた衝撃で、フェリシラ様も一緒に倒されてしまった。
そのせい……ではなくて、そのおかげでフェリシラ様と密着することが出来たんだ。
グッジョブ!! 女剣士!!
僕はゆっくりと体を起こし、フェリシラ様を立ち上がらせた。
「もう……人前でこういう事は止めてくださいね」
それは……人前でなければ……。
いや、考えるのはやめよう。




