第31話 冒険者ギルドに行ってみました
グレンコットの街並みは古い。
もしかしたら、王国の歴史より古いかもしれない。
古い建物が点々とあり、その間に新しい建物が作られている。
その中でももっとも新しく、そして大きい建物が……
「これが冒険者ギルドか」
本当はここに立ち寄る気はなかったんだけど、デルバート様の使いでやってきた。
「行くわよ!!」
「背中を押さなくても、行きますよ」
宿屋を出てから、鍛冶工房をずっと見学していたら、フェリシラ様に怒られてしまった。
「このままだと買い物だって出来ませんよ!!」
ごもっともです……。
それからはずっと手を引っ張られるように、買い物をしてきた。
そして、最後にここにやってきたのだ。
「ああ、もうちょっと工房を……」
「もう、ダメですよ! 私達も早く帰らないと、お兄様に何を言われるか」
まぁ、そうだな。
あまりあの人は怒らせないほうがいい。
工房を取り上げられるかもしれないし……
「じゃあ、ここの用事が済んだら、最後の工房を巡って……」
「はぁぁ。もう勝手にして下さい。だけど、今日中に帰りますからね!」
よしっ!!
これで工房は全部回れそうだな。
さて、早く用事を済ませちゃおう!!
「すみませぇぇん。マスターにこれを渡しておいて下さい!! それじゃあ」
僕は受付の女性にデルバート様からの手紙を手渡し、去ろうとした。
「ぐえっ。苦しい」
「許しませんよ。いくら、工房を見に行きたいからって、雑すぎますわ」
……。
「あの、僕はスターコイド公爵家の使いのものです。是非、この手紙をギルドマスター殿にお渡し願えないでしょうか?」
「スターコイド公爵様!? しょ、少々お待ち下さい。いえ、こちらにどうぞ。すぐにマスターを呼んできますので」
あっ、行っちゃった。
出来れば、渡して済ませたかったんだけど。
マスターとか言う人と会わないとダメ?
「さあ、行きますわよ」
「いきますわよ」
アリーシャまで……真似しなくていいんだぞ。
「分かりました」
ああ、工房見学の時間が少なくなっていく……。
僕達は奥へ奥へ案内された先にある部屋で待たされることになった。
……。
遅いな……。
時間が気になる。
せめて、二時間は見たい所だよな。
間に合うか?
いや、最悪、出発の時間を遅らせれば……。
「ライル、口に出ていますわよ」
……。
「お待たせしました。私が当ギルドのマスターを務めておりますラッセントと申します」
随分と腰の低い……。
フェリシラ様が膝でくいくいと押してくる。
ああ、僕が対応するのか。
「僕はライル。公爵様の使いでまいりました。この二人は供です」
公爵令嬢を供呼ばわりをするのもどうかと思ったが……
フェリシラ様があまり表に名前を出したくないと言うので、こうなった。
「ご丁寧に。お手紙は先程、拝見させてもらいました」
さすがに早いな。
だが、これで僕達の仕事は終わり。
さあ、工房見学だ!!
「じゃあ、僕達は……」
「いえ、えっと、この為にいらしたのですよね?」
何のことだ?
手紙をひらひらと見せられても……。
「何のことでしょう?」
「それは……」
……。
どうして、僕はここにいるんだ?
峡谷の最奥にあるひときわ古く、大きな建物。
どう考えても、幽霊屋敷だ。
「入るんですか?」
「え? ええ。そうしなければ、会えませんから」
全く気乗りがしない。
なんで、僕がこんなことを……。
工房の見学時間はもう少ない……。
「ライル。ごめんなさい。お兄様の無理な頼みを聞いてもらって」
「いいんです。一応は人助けなんですから……」
僕が依頼されたのは、とある少女の病気を治すことだった。
『竜鱗病』
アリーシャが冒されていた病気だ。
その病気を患っている人がこの街にもいるようだ。
それを治してほしいというのがデルバート様からの依頼だ。
「すみません。あのお方は知らない人を強く警戒されるので」
ギルドマスター経由にしたのは、こういう事のようだ。
警戒心が強いか……なんだか、厄介な香りしかしないな。
こんこん……
ギルドマスターが静かに扉をノックした。
でっかい扉だなぁ……位の感想しかないな。
おっ? 扉が開いたぞ。
人が出てきた……。
「どうぞ!! 中にお入り下さい」
こういう時って、どうして無言になっちゃうんだろう。
僕が屋敷に一歩踏み入れると……。
なんか、冷たい……
「ひいっ」
首に剣が……当たっている?
「貴様、何者だ? 何しに来た」
へ?
剣の持ち主から発せられる声は、とても緊張感があった。
多分、僕が適当なことを言えば、簡単に首が飛ぶと思う。
ここは……。
「マスター!! 説明を!!」
「えっ? ああ、はいはい」
ギルドマスターが剣士にぼそぼそと何かを話している。
「まことか?」
「それは本当にまことか?」
「本当に本当にまことか?」
そればかりを口にしていた。
ギルドマスターの言葉はどれだけ嘘くさい話なんだろうか?
それがすごく気になった。
「案内しよう。だが、あのお方に指一本触れてみよ。即座に首をはねるぞ!!」
……僕には分かる。
この人……凄腕の女剣士だ。
実は突き立てられた剣を見ていた。
かなり使い込まれている様に見えるが、刃こぼれが少ない。
これは剣士としての腕がかなり高いことを表している。
そして、見えてしまったんだ。
外套をすっぽりとかぶって、容姿は分からないが……
間から見える……服から零れそうな胸を……。
フェリシラ様以上か?
……剣を振るう時、あの胸は邪魔にならないのだろうか?
「ライル。どうしました? かなり悩んでいらっしゃるみたいですけど」
「……いや」
言えるわけ無いじゃん!!
「ねぇ、お兄ちゃん」
「どうしたんだ?」
「病気、治せるよね?」
話、聞いていたんだもんな。
『竜鱗病』と聞いて、他人事ではいられないんだろう。
本当に優しい子だ。
「一緒にご飯食べられるよね?」
「ああ、もちろんだ。子供って聞いているから、アリーシャくらいだといいな?」
「うん!」
僕達が案内された先には……。
「すごいな」
まるで部屋の中に自然が再現されたかのように色とりどりの花が咲いていた。
部屋中がツルに覆われ、そこには鳥が羽を休ませていた。
その真ん中にベッドがあった。
「このお方が魔女筆頭後継者のウィネット=ベローネ様だ」
魔女筆頭後継者?
というか、魔女っていたのか?
出会った時のアリーシャと同じくらいの大きさの少女が眠っていた。
そして、その体には……竜の鱗がびっしりと生えていた。




