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第28話 馬車は揺れるものですよね?

ガタン!


馬車が何かに乗り上げた音だ。


これで何度目だろうか?


アグウェルを抜けてから、2日が経っていた。


長閑な風景が広がり、気持ち良く外を眺める……。


そんなことをしていたら、舌を噛んでしまうほど道が悪い。


僕達が目指すところは鍛冶の街と言われる。


峡谷に作られた一件の工房から始まったと言われる。


そこには魔女が住み、様々なものを作ったと。


それが鍛冶の原型と言われ、その街では魔女が崇拝の対象となっている。


協会が聞けば、腰を抜かしてしまうことだが、実用的な街だけに王国が完全に保護しているため、手出しが出来ない。


いわば、魔女の聖地と言ったところか。


もっとも、おとぎ話の域は出ないけどね。


「もう、お尻が限界よぉ!」


気持ちは分かります……ですが……


「どうして、僕の上に座るんですか?」


どう考えても可怪しい。


もっとやり様はあるはずだ。


例えば、荷物を下に敷くとか……。


「ダメですわ。荷物はどれも一流品。お尻に敷くなんて言語道断ですわ」


僕はいいと?


やっぱり、フェリシラ様には庶民としか思われていないのだろうか。


馬車が揺れる度に……


「キャッ」


と可愛い声が聞こえる。


それと、大きく揺れる胸が目の前にあった。


これは我慢し甲斐があるな……。


ガタン!


「もう我慢なりません。ライル! なんとか、して下さい!」


と言われてもなぁ……。


僕は馬車を降り、周りを見渡す。


大小の石が入り交じる道路。


それも永遠と続くかのように、地平線まで続いていた。


車輪を見ると随分と傷つき、摩耗が激しそうだ。


この調子だと、車輪が壊れてしまうかもな。


そうなれば……きっとお嬢様はお怒りになられるだろう。


そこで登場!!


「研いでみるか」


木製の車輪を砥石で研ぐなんて聞いたこともないが……


シュッ……シュッ……


お?


いい感じの音だな。


悪くない……。


シュッ……シュッ……。


これは……。


新品のように光り輝く車輪へと生まれ変わってしまった。


とはいえ……何も変わっていないんだよな。


ガタンっ!!


と揺れるのは我慢してもらおう。


「どうでしたか?」

「えっと……どうでしょう? とりあえず、僕の上に座ります?」


明らかに僕のごまかしを見抜いているだろうな。


あっ、でも座るのか。


「さあ、行きましょうか」


……あれ?


揺れない?


胸が揺れていないぞ。


なんだか、ちょっとショックだな。


「凄い!! ライル、一体何をしたの?」

「えっと……砥石で研いだだけなんですけど……」


そんな目で見ないで欲しい。


本当に研いだだけなんだ!


「分かったわ。そういう事にしておくけど、謙遜は程々にね。でも、凄いわ。こんな快適な馬車は初めてよ」


本当にどうなっているんだ?


外を覗いても、車輪はそのままだ。


なのに、揺れない……どう言う事だ?


……。


「もう、降りても大丈夫ですよ? フェリシラ様」


揺れないことは十分にわかったはずなのに、どうして膝の上に乗ったままなんだ?


「そ、それもそうね。てっきり、ライルが喜んでいるかと思って……」


まぁ、喜んでいないと言えば、嘘になるけど……そこまでではないかな。


足、痺れるし。


「フェリシラ様はこういう旅はよくなさるんですか?」

「そうね……あまりないかしら。領から出たのも学園に行った時が最初ですから……」


なんだか、空気が重くなってしまった。


それもそうだよな。


あんなことをされたら、思い出したくないよな。


「ライルは全部、知っているのでしょ?」

「えっと……デルバート様から伺っています。全部かどうかは分かりませんが」


……なんて言えばいいんだ?


慰めたほうがいいのかな?


「本当に第二王子も馬鹿よね」


ん?


「あんな庶民を相手にするなんて……」


なんだか、僕のことを言われているようでちょっと胸が痛い。


「ごめんなさい」

「えっ? いえ、ライルは違うの! 私、そんなつもりで……えっと……そう、ライルは元貴族なんですから、全然違うわよ……ね?」


あまり違うようには感じないんだけど。


庶民はどこまでいっても庶民なのだから。


絶対に貴族と結ばれることなんてない。


そう言う意味でフェリシラ様も言っているのだろうな。


「でも本当に馬鹿かもしれませんね。こんなにキレイなフェリシラ様との婚約を破棄してしまうなんて」

「……本当に、そう思いますの?」


僕は強く頷いた。


僕だったら……と考えると。


と言っても考えても無駄なんだけどね。


「嬉しい。ライルにそう言ってもらえるだけで悩まなくて済むのかもしれませんね」

「……僕の言葉でフェリシラ様が楽になるなら……なんでも言いますよ」


「ふふっ。その言葉は忘れないでくださいね。その時が来たら、言ってもらいますからね?」


ん?


なんだか、背筋がぞっとする感じになった。


そう、まるでデルバート様と話をしているかのような……。


馬車の旅はそろそろ終わりを迎えていた。


「どうやら、峡谷に着いたみたいですね」


ゴーゴーと鳴り響く風が馬車の窓を容赦なく叩きつける。


風の峡谷 グレンコット。


別名、鍛冶の街。


峡谷の中は煙で包まれ、街の全貌は一切見えなかった。


それでも僕は興奮していた。


この煙が全て鍛冶工房からのものだから。


そんな活気溢れる場所にこれから足を踏み入れるんだ。


僕は涙を拭いた。


「行きましょうか。フェリシラ様」

「ええ。エスコートをよろしくね」


「私もいるよぉ」

「分かっている。アリーシャも道に迷わないようにな。手を繋ぐか?」


「私もよろしいですか?」


ん?


ああ……。


右手にアリーシャ。


左手にはフェリシラ様。


僕は浮かれながら、グレンコットの街に足を踏み入れた。

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