魔除けのおふだで陰ながら祖国を守っていた陰陽師、給料泥棒と罵られ追放される ~え?俺がおふだを貼らないと怨霊が流れ込んできて国が滅ぶけど、本当にいいんですか?~
「お前はクビだ」
ある日突然、所属している宮廷魔術師団の団長からそう告げられた。
「え? なんでですか?」
「お前が無能だからに決まっているだろう? この給料泥棒め。王の護衛すらまともにできない奴に、宮廷魔術師を名乗る資格はない。全く、これだから東洋人の血が流れている混血は……」
俺は東洋人の母を持つハーフだ。
そのため、どちらかと言えば魔術よりも呪術のほうが得意である。
母の祖国には、俺のように呪術を使って戦う陰陽師が沢山いる。だが、この国では異文化が受け入れられていないせいか呪術に関して全く理解がないのだ。
「あの時、お前は一体何をしていた? 呪術だかなんだか知らないが、変な鳥を呼び出していただけではないか。なぜ、他の団員達と一緒に魔物と戦わなかったんだ? サボっているようにしか見えなかったぞ」
「いや、ですから……怨霊が陛下を背後から襲おうとしていたので、式神を使役して倒していたのです。怨霊は俺のように呪力が高い人間にしか見えないから、団長は『一体何をしているんだ?』とお思いになったでしょうけど」
ここ十数年は、なぜか世界的に怨霊が増加傾向にある。陰陽師は東洋人ばかりで、まだまだ一般的な職業ではないため、野放しになっている怨霊に襲われて不審死を遂げる人々が後を絶たないのだ。
「俺は自分の目で見たものしか信じない」
「そうですか……わかりました」
「わかったなら、さっさと出ていってくれ。ああ、それと……お前がいつも城壁や城門に貼っていた変な紙は剥がしておくからな」
変な紙──恐らく魔除けの御札のことだろう。
俺は、怨霊が入って来ないように定期的に王都の至る所に御札を貼っていた。
もしそれを剥がせば、一気に怨霊が流れ込んできて大変なことになる。いずれにせよ、御札の効果は永続ではないから俺が出ていった時点でこの国は危険にさらされたも同然なのだが。
「本当にいいんですね? あとでどうなっても知りませんからね?」
団長が頷いたのを確認すると、俺は王城を後にした。
一年後。
今、俺は能力を買ってくれたある小国の王の下で働いている。功績が評価されたうえ、先日王女との婚約も決まったし順風満帆だ。
風の便りによると──案の定、祖国では謎の死を遂げる人間が急増しているらしく、国家存亡の危機に直面しているのだとか。
なんでも、国を挙げて俺のことを捜し回っているそうだが……あんな国にまた戻るなんて、たとえ土下座されたとしても御免だ。