表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

生活寮

その夜は新月だったと云う。

いつもなら、学園に(しつらえ)られた庭園の中央に位置する池に、白く燃える円環が()えていただろう。

しかし、今夜ばかりはその月も身を隠し、池に()む滑らかな鱗だけが水面を揺るがせていた。

科兎(しなと)(やま)戦役(せんえき)』の余波として設立された『特別(とくべつ)軍事(ぐんじ)支援課(しえんか)』の生徒には、生活寮が支給された。

無論、『特別軍事支援課』以外の生徒にも、申請し家賃を払えば生活寮に住む権利が与えられる。

しかし、どうやら『特別軍事支援課』の九名は、その希望を問わず、ほぼ強制的に生活寮に入れられてしまっていた。

津雲も漏れることなく、氷雪に引っ越しを(うなが)された。

本格的な引っ越しは次の休日に行われるらしい。

今夜は皆、生活寮の見学も兼ねて寮で一夜を過ごしていた。

必要最低限の生活用品が用意された部屋の中で、津雲は白裂に伝統的に伝わる茶を飲む。

香ばしい匂いに包まれながら、津雲は『特別軍事支援課』が強制的に生活寮に入れられた理由を推測していた。

『特別軍事支援課』には『科兎山戦役』を惹起(じゃっき)、実行した罪に問われ、その責任を追及された者たちが編入されている。

言い方を変えれば、ほとんどの生徒が戦役を勃発させられるほどの身分ということだ。

もともと【王立白裂銀海学園】自体、貴族階級に属する子息令嬢が通う学園であることは間違いない。

また、生徒そのものではなくその親が権力を握っているという者もいる。

そんな中で『特別軍事支援課』に召集された者たちは『科兎山戦役』を通して過剰(かじょう)な権限を発揮してしまったのだろう。

考えるまでもなく、その筆頭が僕自身なのだ。

従って、この生活寮は、突然、必要以上に肥大化した権力に対して、監視の眼を据える意味があるのかもしれない。

津雲がそこまで考えたところで、部屋の扉が叩かれた。

「はい。どなたでしょう。」

津雲は返事をするが、それに応える声はなかった。

その代わりに、戞戞(かつかつ)と扉を叩く音だけが連鎖する。

津雲は扉の向こう側に()かされて立ち上がった。

焦るように扉を開けた。

しかし、津雲を訪問する者はおろか、人の影すらもそこにはなかった。

その代わり、地面に一通の覚書(おぼえがき)のような粗末な紙が落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ