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背負うべき罪

「嘘だろう。」

その大剣は津雲が少年の師匠から奪ったものだった。

元々は『火種』だと思っていたもの。

しかし、その情報は、白裂に『火種』を奪われないよう師匠によって撹乱(かくらん)された情報だった。

しかし、師匠の思惑も『火柱』が結果的に累陰(たかかげ)によって、ひいては黒忍(くろしの)によって確保された事で灰燼(かいじん)()していた。

津雲にとっては、師匠の思惑(おもわく)によってまんまと騙されていたのである。

津雲がその事に気付いたのは、教唆(きょうさ)煽動(せんどう)を行った宦官(かいがん)の下へ大剣を届けた時だった。

累陰の(あき)れた眼。

「ああ、やっぱりか。」と軽蔑(けいべつ)する表情。

それらを見て、初めて自分が騙されていたと気付いたのである。

それによって、津雲は益々、『火種』の収集に協力することになり、最終的に『(はい)()らす勾玉(まがたま)』すらも奪ってしまったのだ。

津雲は大剣を見て、自らの過ちと共に罪悪感を(もよお)した。

その不快感に(さいな)まれて顔を歪めた。

あわよくば、思い出したくなかった記憶に苦渋(くじゅう)を味わいながらも(にじ)み出すように言葉を(つむ)いだ。

「なぜ、これがここに?」

「ある女性が学園へ届けてくれたらしいわ。」

氷雪の返答によって津雲は“ある女性”に該当する人物に察しがついた。

彼女が津雲に伝えた言葉。

白裂皇太子としての(くい)

時代の転換を喚起した責任を津雲は背負っていた。

それはつまり、この師匠の大剣を覚悟を持って継承しろということである。

師匠は生前、紅穂軍に従事しているのにも関わらず、以前は友好的な関係だった白裂にすらも剣術の指導に来ていた。

彼は異国の民だからと言って態度を変えることはなかった。

人とは違う何か別の視点を持っているかのように、より崇高(すうこう)な精神を持っているかのように、国や文化を(こと)にするからと言って蔑視(べっし)することはなかった。

自分の軍兵(ぐんびょう)と同じように、否、それ以上の愛を以って接していた。

そんな地に足を付けて道を歩む者を、津雲は暗殺してしまったのだ。

たとえ、黒忍から放たれた刺客によって(あざむ)かれたといえども、それは(まが)うことなき津雲が背負うべき罪であった。

考え方によっては、そのまま『科兎山戦役』開戦の罪に繋がるだろう。

師匠暗殺によって少年が『火柱』としての覚悟を決めたとすると、津雲に全ての原因があったと言える。

つまり、この師匠の大剣は、開戦の因果を津雲に認めさせる為に、『原初の銀狐』が届けたものである。

津雲にもその理論は()に落ちた。

それを表すかのように、津雲は大剣の柄を震える手で握った。

大剣に(まと)わりつく白い布が(みね)()いながら空を舞い、地に落ちた。

かつて、師匠の血流を這わせながら累陰に見せた大剣。

今は、『銀狐』か学園の人間によって整備されたと推測できるほど、美しく陽光を反射している。

「これもまた、貴方の知り合いの女性が届けてくれたらしいわ。」

そう言いながら、氷雪は鋼鉄の殻を取り出した。

津雲は鋼鉄の殻を手に取り、師匠の大剣を差し入れた。

大剣は微塵も揺れ動かぬ状態へと納められた。

それは鞘であった。

鋼鉄の抱擁(ほうよう)の裏に柔らかく、しなやかな革が固定されていた。

背負うことで大剣を効率的に運ぶことができる。

そんな機能性を鞘は有していた。

「この大剣は貴方のこの学園での活動を支援する役割もあると思うわ。事情はたくさんあるでしょうが、貴方自身の想いを大切に頑張って頂戴。」

氷雪は大剣を見て苦しむ津雲を気にかけたのか、救済の声をかけた。

津雲は負い目を感じながら氷雪を見詰めた。

冷たい心の氷を溶かすように、氷雪は笑った。

その笑顔を見た津雲は、彼女がこの『特別軍事支援課』の担任として赴任(ふにん)された意義を(ほの)かに見出した。

その意義はいずれ、集いし九人…或いは十人…の心を(へだ)てる氷壁をも溶かすだろう。

しかし、それは未だ、津雲の(かす)かな想像に過ぎなかった。

白き月を頭に(いただ)く少年はかつて(あや)めた者の大剣を背負った。

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