『銀の絃』
「まぁ、そういうわけで、本日12:00付であなたたちを【王立白裂銀海学園】『特別軍事支援課』へと編成するわ。
仲良くやって頂戴。」
氷雪は笑う。
少年少女は嘆く。
その様子を打ち壊すように、希望を失っている若者に再び光を齎すように、氷雪は両手を叩いた
「あ、そうそう、あなたたち全員に渡すものがあったわ。」
そう言うと、金属音を立てながら大きくて重そうな袋を持ち上げた。
中から見たこともない機器を九つ取り出す。
一つ一つを彼らの机の上に置きながら、彼女はその説明を行った。
「次世代型軍事連携通信装置。まぁ、長いから『銀の絃』と名称されているわ。これを使ってあなたたちには一蓮托生、もっと仲良くなってもらうわ。」
“もっと仲良くなってもらう”
その意味を彼らは図り兼ねていた。
こんな機器を渡されて何をしろと言うのか。
そんな疑問を呈する事を禁じ得なかった。
しかし、それ以上の説明がされず、代わりに、明日から特殊な訓練としての戦闘実習を行う旨が伝えられた。
たったそれだけの説明によって、彼らに宿った絃は結び、絡まり始めた。
彼らが紡ぐのは、新たな時代の萌芽だろうか。
或いは、過ぎし時に残留する呪詛だろうか。
いずれにせよ、『銀の絃』を手にした津雲たちが進むのは、目の前に拡がる世界である。
そこに道がなくとも、王子は後へ退く事を赦されてはいない。
『火柱』の少年の師匠を暗殺した罪。
惑乱した白裂王を慰留させられなかった罪。
『科兎山戦役』開戦の火蓋を切った罪。
『火種』の一つ『灰降らす勾玉』を守り神である月影蟷螂から奪取した罪。
そして、敵国の兵器である『火柱』の形成に与した罪。
数え得る総ての罪過を容赦した先へ津雲は向かわなければならなかった。
白裂皇太子として。
「あ、そうそう、白裂皇太子殿下、否、津雲君。」
氷雪が津雲を限定して声を掛けた。
「貴方にはもう一つ渡すものがあるわ。
これはきっと、貴方に貴方の行く末を考えさせるかしらね。」
内容とは裏腹に楽しそうな様子だ。
お気楽な雰囲気のまま、持って来て頂戴、と誰かを呼んだ。
すると、教室の外から教師が何かを重そうに持ってきた。
力の限界だと言わんばかりに息と涎を垂らしながら何かを机に置いた。
その何かの全体は白い布に荒く包まれていた。
氷雪は白い布を外す。
津雲が訝しげに覗くと中から見覚えのある大剣が姿を見せた。
「これはどこかで…。」
数秒間、思考を巡らすと、津雲はかつての記憶を思い出して叫んだ。