血塗りの月
【王立白裂銀海学園】の東側には未開拓の森林が広がっていた。
通称『鬼の髭』。生い茂った樹木と所々に見られる鋭い奇岩を併せて鬼の顔に見える事からそう呼ばれていた。
ちなみに空へ向かって伸びている奇岩は『鬼の牙』と呼ばれ、森の奥へ行くにつれて標高が上がっていき、最奥には『鬼の瘤』と呼ばれる巨大な岩石群がある。
『特別軍事支援課』の彼らはその『鬼の髭』で今日も戦闘実習を行なっていた。
目標は指定された区域の魔獣の掃討。
学園と『鬼の髭』が隣接している事により以前より頻繁に学園関係者から魔獣被害が報告されていた。
彼らの任務は謂わばその対策であった。
この区域の人員は津雲、氷柱、さらには男女生徒一名ずつ、合計四名で実習に臨んでいた。
年端も行かぬ女の子が自作の爆弾を設置しながら文句を言う。彼女は蓬根硝華と名乗っていた。
「『特別軍事支援課』って言うけど、ただ良いように使われてるだけじゃないのー!?」
袖波詩草という穏やかそうな男子生徒が大砲で爆弾を起爆しながら彼女を宥める。
「仕方ないよ。僕たちは実力がないのに『科兎山戦役』に関わっちゃったんだから。責任を取れるほどの実力がないんだ。こうして単純な面倒ごとをやって償っていくしかないよ。」
砲弾の威力と爆撃によって魔獣は吹き飛ばされた。
二人は相反する意見を言いつつも、意外と戦闘の相性が合っていた。
「それにさ、戦闘を重ねれば、この『銀の絃』も使いやすくなっていくと思わない?」
詩草の言う通り、彼らが連携を行う度に、彼らの武具に巻き付いた『銀の絃』が二人の意志を感じ取るように発光していた。
氷柱はその二人を援護し、彼らの背後に魔獣を寄せ付けなかった。虎視眈々と隙を狙う魔獣を冷徹に斬り伏せる。
津雲は三人が蹴散らした残党を臙脂色の炎で薙ぎ払っていた。
『銀の絃』が織りなす華麗な連携で事前に伝えられた区域の掃討が終わると、四名は報告を行うために学舎へと帰還しようとした。
すると、爽やかな秋風が木漏れ日を揺らし、騒ぎ出した大木の影から青年が現れた。
黒を基調とした異国文化を思わせる幻想的な上着を白い長袖の上に羽織り、鍛錬された両足には紺絣の袴を履いている。足元には白銀に輝く革靴、左手の人差し指や右手の中指には銀の指輪、筋張った首元には血のように赤く煌めく月の首飾り……。
まさに上流階級の家柄が醸し出される佇まいに『鬼の髭』の空気すらも高尚さを漂わせていた。
すると、突然、青年は声を張り上げて名乗りを上げた。
「俺は薄氷氷織だ。血塗られた月の王子への拝謁、誠に光栄である!」
青年は言葉とは裏腹に、津雲の前で貴族の矜持と言わんばかりに胸を張った。




