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『特別軍事支援課』

「早速だけど、あなたたちがここに集められた理由はただ一つ。

あなたたち九人、全員が先の小戦『科兎山戦役』の関係者、(ある)いは、関係者と何らかの関係性のある人間だからよ。

或いは、戦争の惹起(じゃっき)を行った者。

或いは、紅穂兵と実際に戦闘を行った者。

或いは、軍事侵攻の主権を握った者。

まぁ(ほとん)どはその子息って感じだし、そこのかわいい女の子は私のかわいい愛娘(まなむすめ)なんだけどね。」

そう言うと、氷雪は津雲の隣に座っていた少女に微笑みを向けた。

黒を基調とした異国文化を思わせる幻想的な(よそお)い。

(そで)(すそ)には濃い紺色の布が閃いている。

津雲はこの少女だけ制服を着ていない事に気付き、また驚いた。

更に、彼女の服の黒と紺の組み合わせと、そこから垣間見える初雪のように白い肌に猟奇(りょうき)的な闇を見出した。

彼女の白すぎる肌を見ると、そこに死の影が(せま)っているように思えた。

同時に、黒と紺の冷徹(れいてつ)色彩(しきさい)が、(きら)びやかな氷の冷たさを感じさせる。

何にせよ、ひどく周りと異なる服装に恐れ(おのの)いた。

「母上、否、薄氷教官。やめてください。」

少女は初雪を初めて革靴で踏んだ時のような声で(ささや)いた。

照れた表情は先程とは打って変わり、絶対零度の溶解を思わせる。

津雲は唾を飲んだ。

氷雪は我が子を()でる親の表情になると、嬉嬉(きき)として少女を紹介した。

名を薄氷氷柱(つらら)

氷雪の娘であり、理事長である薄氷氷河(ひょうが)の孫。

二つ上の上級生である兄がいるらしい。

母氷雪同様、理事長が継承した『銀氷雨流』の使い手であり、継承者候補。

その太刀筋は一家共に白裂軍の中でも群を抜いて優れているらしい。

氷柱自身も『銀氷雨流』を学ぶ同世代の中でその道の天才と(うた)われていた。

見た目は()(かく)、それ程の太刀の道を()っているらしかった。

何よりも、その親子愛が(はなはだ)しかった。

氷雪にとっては勤務先、氷柱にとっては登校先でもあるのに関わらず、氷雪は氷柱を誉めちぎった。

しかし、話が逸れたことを指摘されると我に帰り、わざとらしい咳をした後で本題に戻った。

本題の話は、津雲に再び戦禍(せんか)の罪を思い起こさせた。

「だから、あなたたちは戦争にある程度関与した者の家族に過ぎず、直接的な責任があるわけではないわ。

一部の生徒を除いてね。」

教官と幾人かの生徒が津雲を一瞥(いちべつ)した。

氷柱も(たが)わず、津雲を(にら)んだ。

津雲は何か嫌な予感がした。

悪い事が起きる事を否めない。

凄く気味が悪い。

そんな事を考えながら氷雪の顔を見ると彼女は話を続けた。

「つまり、八人全てがそこにいらっしゃる、白髪の少年が白裂皇太子殿下であることを知っている、とも言えるかしら。

(さら)には、親や当事者に代わって、『科兎山戦役』における何らかの責任を取らなければならない、とも言えるかしらね。」

見事、予想は的中し、彼は衝撃を受ける。

ここにいる全ての人が自分が白裂王子であることを知っている。

更に、津雲を含めた九人が皆、津雲のように戦争責任を追及された者たちだったのだ。

津雲は『銀狐』の言っていた「責任の取り方は、学園へ入れば、いずれ分かるだろう」という言葉を思い出した。

それはつまり、(わず)かにも責任のある者たち同士でけじめを付けろ、という事なのだろう。

津雲は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

「まぁ、そこでなんだけど。

どうせなら一つの組織を作ってしまおうかと思って、こうやって集めさせてもらったわ。」

津雲をはじめとした苦痛を覚える人たちを見て、氷雪は話を(まと)めた。

それによって彼ら九人の運命は一つ一つの時間という(いと)が絡むように、交わり始めた。

「まぁ、そういうわけで、本日12:00付であなたたちを【王立白裂銀海学園】『特別(とくべつ)軍事(ぐんじ)支援課(しえんか)』へと編成するわ。

仲良くやって頂戴。」

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