然るべき相手
「我流火禱『白繡火』」
臙脂色の炎を纏う大剣が害獣の残党を十字に斬り裂いた。
「ここはやけに人々に害を齎す魔獣が多いな。」
火花を上げて駆動する斧を薙ぎ払い、達が呟いた。
「長い間使われていなかった演習場らしいから、無理もないわね。」
古き演習場。
津雲はかつて王家で聞いた演習場に纏わる噂を思い出した。
白裂軍の黎明期を支えてきた軍事演習場。
そこには、当時の軍事機密が埋まっているとのこと。
それがどこにあり、具体的に何があるのか?
真実は魔獣とともに闇の中らしい。
「こう暗くて魔獣が多いと、どこに『然るべき相手』がいるのか分からないな。」
津雲は不満を漏らした。
演習場とは言え、そこは古びた洞窟。
松明の明かりがなければ、進むべき道すら分からなかっただろう。
しかし、津雲の不満に答える者がいた。
「ここにいるわよ。」
凛々しい声を頼りにその者を探すと、三人は図書館地下の広場と同じくらいの空間に出た。
そこだけは本当に軍事演習場であったように、石畳が敷かれ、真新しい松明も一定距離毎に置かれている。
他の岩場をそのまま繰り抜いたような洞窟とは異なり、古びてはいるものの建築された様子の空間となっていた。
「なかなか遅かったじゃない。世間話でもしてたのかしら?」
声の主は空間の中心で松明の光を受けていた。
その者は軍事戦術学担当教官および、『特別軍事支援課』担当教官、薄氷氷雪だった。
「氷雪先生!いらしていたんですね。」
あすかが嬉しそうに氷雪に駆け寄る。
あすかは自らの懸命さ故に、氷雪を教官として敬っていた。
一方で達は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「氷雪…先生…。おいおい、もしかして。」
達はその荒々しく孤立的な闘い振りをやめるよう、以前から氷雪に警告されていた。
「ええ。貴方の自分勝手な戦闘方法を改善すべく、ここにいるわ。」
むしろ恐ろしくもある笑顔を見せながら、氷雪は袂から小刀と片手銃を取り出し、銃口を達へ向けた。
「氷雪先生が最終目標…?」
津雲は困惑を呈した。
彼女は演習場へ入る学生たちを見届けたまま、演習場には入っていかなかったからだ。
「そうよ。私が『然るべき相手』。そして貴方達が最後の挑戦者。他のみんなは私が全員片付けちゃったわ!」
松明に照らされて氷雪がお茶目にくるりと回転する。
み〜んな、弱かったわ、などと笑顔で漏らしている。
さらにはその左親指先に『銀の絃』を巻き、小刀の柄の端へと接続しているのであった。
「さ〜て、軍事戦術学および、『特別軍事支援課』担当教官、薄氷氷雪。『然るべき相手』として貴方達に対峙するわ!ぶっ放すわよ〜!」




