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「おいおい。私にそれをやれって言うのかい!?冗談止して呉れよ。そんな横暴な。あんたは昔からそうだ。やり方が美しくないんだよ。足りないんだよ!人の子を惹き付ける『美しさ』ってものが。この私のような『美しさ』がね。」

過剰な彩りを持つ衣装を身振り手振りによって振り回しながら、中性的な若者が叫んだ。

その者の背中からは白銀に輝く翅が生えていた。

言葉を放ち、大袈裟な身振りをする度に、白い光の粒が溢れる。

まるで、『既に人ではない何か』であるかのようなその者は、目の前に腰掛けた髭面の男に反論を折り重ねていた。

「五月蝿い。未だ()の《契約》は刻まれているはずだ。忘れたのか?」

高級な木材の書机(しょき)の前で手足を組み、髭面の男も負けじと吠えた。

「私は五月の蝿ではない。『蝶』だ!あのような下劣で不潔な虫螻(むしけら)共と一緒にするのは止して呉れ。いいか、先の王の愚断によってその《契約》にも亀裂が入ったんだ。だからこそ、こうして私たちが東奔西走しているんじゃないのかい?ならばその尻拭いは王子にやらせれば良い。そうだ。それが良いじゃないか?ええ?」

髭面の男がやれやれ、と重い溜息を吐いた。

その男は『蝶』と名乗る若者よりもずっと歳を重ねているように見えた。

「王子にはすでに『銀狐』が贖罪を与えた。もう充分だろう。」

「…だがっ!」

荒々しく伸びた蒼い無精髭を撫でながら、まさに『蝶』のような風貌の若者を睨む。

彼はその眼に白き光芒を湛えていた。

「いいか、お前が黒の大地を踏むことで、王子の贖罪が実のあるものになるんだ。お前の働きによって王子の罪滅ぼしが終わり、同時に《契約》の因果も果たされるかもしれないんだぞ。…頼む。誘導の類はお前を置いて他に適任がいないんだ。」

無精髭は遂に立ち上がり、『蝶』に訴えた。

『蝶』は押し黙り、背中から生えた白銀に輝く翅を細かく震わせた。

「…まさか、あんたが『銀狐』の言う事を信じるなんて。…仕方ないね。せめて私のこの『美しさ』を以て黒き迷い子を導こうじゃないか。」

『蝶』は俯き、(おもむろ)に無精髭に背中を向けて歩き出した。

すると、勢い良く振り返って意を決したように言い放った。

「私は王子が『金の器たる者』だとは思わない。だが、このまま我ら白裂が黒に呑まれていくのを見過ごすことはできない。それだけだ。」

無精髭が無愛想に鼻で笑う。

兎に角、自らの仕事を果たしてほしい。

そう言うかのような態度だった。

「ところで…。」

『蝶』が先ほどとは打って変わって冷静な声で聞く。

「あんた、その腕はどうしたんだ?」

無精髭の腕は最近受けたような傷で溢れていた。

『蝶』に指摘された無精髭は咄嗟にその腕を隠したが、『蝶』を誤魔化すことはできなかった。

「…あんたは《契約》の因果に執着しすぎているみたいだな…。」

何かを見透かしたように『蝶』が呟く。

まぁいいか、と溜息を吐いて『蝶』はその場を立ち去った。

無精髭は『蝶』がいなくなったのを見届けると、傷だらけになった自身の腕を見詰めて呟いた。

「お前とは違って、俺の《契約》の因果は少し特殊でね……。」

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