糾弾
圧倒的な美しさを鼻にかけ、『銀狐』は頑として言い放った。
「『火柱』となった玄焚君。そしてその師匠。彼を暗殺したのは紛れもなく殿下だ。」
津雲は、彼が最も触れられたくないであろう罪を表された。
『銀狐』は糾弾を続ける。
「殿下の手に握られた鉄剣によって、あの老爺が亡くなったのは事実だ。しかし、そのお陰で、玄焚君が『火柱』としての自覚を認識したのもまた、事実だ。」
玄焚君には申し訳ないがね、と『銀狐』は小声で付け足した。
「総ての因果を廻し始めたと言っても過言ではない殿下には、その責任を最期まで果たしてもらおうと思ってね。」
『銀狐』はこれから面白いものが見られるとでも言うかのように、満足そうな笑顔を見せている。
むしろ、妖しいくらいに。
「それに、斯くなる上は、殿下には立派な白裂皇太子となってもらわねば、白裂の国もまた危うい。」
津雲もそれは認識していた。
実の父である白裂王が衰弱した今、求められるのは白裂王子の力だ。
自分自身の国を治める力を、精神力を鍛えなければ、白裂の存続も黒忍によって脅かされ兼ねない。
先日終わった戦いにおいて、紅穂がそうであったように。
その事を考えると、津雲は【王立白裂銀海学園】への入学を受け入れる他なかった。
「殿下の責任の取り方は、学園へ入れば、いずれ分かるだろう。そして、その内の一つは、また機会を見て私が提示させてもらう。」
楽しみにしていてくれよ。
そう言いながら『銀狐』は片目を閉じ、津雲に眴せをすると、青白い風を纏いながら姿を消した。
津雲はその時の記憶を歴史教師の髭を見ながら思い出した。
すると、歴史教師は時事解説をこう纏めた。
「…この先の小戦を『科兎山戦役』と云う。これは、試験に出すとしよう。」